宿泊客
「ハハハッ、そんなことがあったんだ。」
「笑い事じゃないよぉ!今日で何円使ったことやら……。てかお礼が10分の1の値段て、なんか複雑〜。」
「まぁ、くれただけ良かったじゃん!気持ちもこもってると思うし。ありがたくつけときなって。」
「言われなくてもしますよーだ!」
康太はまた笑い出した。
「あ、そうだっ!今日言われたんだけど、俺明日からしばらくの間日本にいていいんだって!」
突然の一言に私は驚いた。
「え?どしたの?まさかクビになっちゃったとか?」
「あほ!俺全体をまとめてるんだよ?クビになったりしないよ。まぁ、あれだ。設計も完成したし、あとは製作と実験だけだから、しばらく日本に戻るのも悪くないだろっ?て言われたんだ。」
「へぇ、じゃあ、明日から電話結構できるじゃん。」
「時差ボケが酷くなかったらな?」
「え?そんなこと言っちゃうの康太くん?私、ずっと待ってたのに、酷いよ。」
「……バレバレだけど?」
あ、やっぱ嘘泣きばれちゃいましたか。
「でも、やっぱ嬉しいな。会えないけど、近くにいる感じがする!」
自分で言っといてなんだが少し恥ずかしかった。
「あ、俺もだよ。でも早くそっちに行きたくて仕方ないな。」
「……模範解答通りの回答をどうもありがとう。」
「なんだよ模範解答って。」
そして2人は同時に笑った。この瞬間がたまらなくいい。
「康太くん。」
「なに?」
「私、このままずっと康太くんのこと好きでいてもいいよね?」
な、何言ってんだ私は!?
「何言ってんだお前?」
ほれみろやっぱり。
「当たり前じゃん。なら俺は何しにそっちに行くんだよ?変なこと言うなぁ。バカ丸出しじゃん。」
康太に鼻で笑われた。
「ば、バカとは失礼な。これでも学校で半分には入ってるもん!」
「……やっぱバカじゃん。」
そりゃあんたからしたら大抵の人はバカだろっ!!そう突っ込みたかったが言わなかった。どうせ理解されないから……。
「じゃあ、俺そろそろ最後の仕事行ってくる。明日東京の空港に着いたらまた連絡するから。」
「あ、うん!多分保健室にいるから真紀と楓もいるけどいい?」
「ダメって言っても来るだろ、あいつらは?」
はいそうです。よくわかっていらっしゃる。
「そんじゃ、おやすみな。」
「う、うん!おやすみ!」
私は電話を切ったが……絶対寝れるわけない!明日康太が帰ってくるのだ!会えはしないけど同じ日本に帰ってくるのだ。どうしよう。空港まで迎えに行こうかな。いや、でも明日は学校だし。いや、でも時代が違うから来るわけないし。さぁ困った。私はどうするべきなのだろうか。
「明日学校ちゃんと行きなさいよー?」
リビングから母の答えが聞こえる。
「き、急にどうしたのお母さん!?」
ドアを勢いよく開けて、私は聞いた。
「あれ?なんでだろ?なんかそんな気がしたのよねー。」
え、エスパー!?いやいや、ウチの母に限ってそんなことあるはずがない!てか、そんなこと言ったら母は絶対テンション上がって近所のおばさんたちに言うだろう。
わたしは静かにドアを閉めた。
さて、部屋に戻ったのはいいがこれからどうしよう。相変わらず私の携帯は康太以外の連絡とは使えず、女子高生にしてはかなり暇な生活をおくっていた。
そうだ!パソコンがあるじゃない!
「そー言えば言ってなかったけど、パソコン修理に出しといたからパソコン使えないわよ?」
多分母はホントにエスパーか何かなのかもしれない。なんでわかるのよ!?
「んー、なんでだろ。なんか千紗の心がここにいても読めるのよねぇー。」
また母がリビングから私に話しかけてきた。もうそろそろいい加減にしてほしい。
「寝よ。どうせすることないし、明日に備えて……。」
なら予習でもやれば?とか自分に言い聞かせてみるが、私の中の70パーセント以上の何かがそれを拒むように布団に潜るように指示を出す。私はそれに従うしかなかった。
ピンポーン
私が寝ようとした時、家のチャイムが鳴った。時刻は夜の11時。ピンポンダッシュとかいうやつだろうか。
「千紗ー!お友達来たからあんたの部屋に連れて行くわよー?」
この時間に来る人を、娘さんの友達ですって言ったら家に入れる母親も無用心なものだ。
私は布団から出てドアを開けた。一応私の友達という中では、楓と真紀しか心になかったのだが、私の家に来たのはなんと保健室の先生だった。
「先生!?な、何してるんですかここで!」
「しばらく泊めてくれないかしら?」
「はい?」
先生の姿を見ると結構荷物が入った旅行用のバッグを持っていた。
「な、何かあったんですか?」
「は、話すからとりあえず部屋に入れてくれない?手がもげそうなんだけど……。」
ならおろせばいいのに。
私は先生を部屋に招き入れると、部屋の隅っこの方に荷物を置かせた。
「悪いわねぇ、生徒にここまでしてもらうなんて。」
先生はふぅ、と一つため息をつく。
「私はいいですけど、こういうの先生たちの間で話題にならないんですか?」
私は特別なのよ!そう言わんばかりの目で私を見ると、バッグを漁り始めた。
「ちょっとまあ彼と喧嘩してさー、さらに関係が悪化して、荷物まとめて家から出てきちゃったのよね。あそこ、私のいえだったからかれを追い出せばよかったんだけど、すっかり忘れてたわ。」
いや、忘れたらダメでしょ。
「先生、携帯ありますか?」
「え?あるけど?」
「ちょっと貸してください。」
そう言って携帯を受け取った私は楓に電話した。
「あ、楓?なんか先生が泊まりに来たんだけど、どうすればいいかなぁ?」
「え?そうなの?じゃあ私も数日分の荷物まとめてそっち行っていい?」
「な、なんでそうなるの!?」
「じゃあ、今から行くね!」
そう言うと楓は一方的に電話を切ってしまった。
と、とりあえず真紀にも電話しよう。そう思い電話をかけようとした時、逆に電話がかかってきた。
「なになに?先生そっちにいるの?じゃあ私も楓と一緒に行くから待ってて!」
そしてこっちの電話でも一方的に切られてしまった。いとこは似るものである。
「あんた、ただ友達家に呼んだだけみたいになってるけど?」
「すみません、私が甘かったんです。」
そう言うと私は母にそのことを言いに行った。
「いいわよー!」
階段を下りると同時に母の声が聞こえる。意外と便利だな、エスパー。
「楓ちゃんなら大歓迎よ!真紀ちゃんって子にも会ってみたかったし。でもお父さんいるから静かにしてね?」
「はーい。」
私は廊下で母と話をつけると、自分の部屋に戻ろうとした。
ピンポーン
まさかだとは思うが早すぎである。え?いやさっき電話したはずだよね?
私は恐る恐るドアを開けてみた。そこにいたのはやっぱり2人であった。
「色々あって来ちゃいました。」
笑いながら真紀が言う。
まぁ、こういう展開が私ららしいよね。そう思いながら、私は2人を自分の部屋に招き入れた。