悩み
半年後、私はいつも通りの生活に戻っていた。いつも通りと言っても、学校は行くがたまに昼以降の授業をサボって保健室で話したり、先生の恋話を聞いたりと、一般人のいつも通りとは結構かけ離れているが、まぁそれはそれで、私は充実していた。
そしてもう一つ、私にとって嬉しいニュースが入った。康太がタイムマシンの設計図を完成させたのだ。材料とか科学的なこと、また実験の必要もあるということで、まだ1.2年かかるようだが、私が高校生の間にこっちに来れそうでホントによかった。
「おーい、千紗!聞いてるぅ!?」
私はいつも通り楓と真紀と共に保健室でサボっていた。普通なら担任から注意を受けるだろうが、そこそこ成績も良かったし、出席日数も足りているということから、特に3人とも何も言われていなかった。
「ねぇってば!」
「ひゃっ!な、何!?」
「千紗、ぼーってしすぎでしょ!話聞いてた?」
「ご、ごめん、考えごとしてた。」
真紀がわかりやすいくらいにプンスカしている。
「まぁしょうがないよ真紀。昨日康太くんからタイムマシンのこと言われて、浮かれてるんだから。」
相変わらず楓の発言はフォローしようとしているのかする気がないのかイマイチわからない。
「そーいえば康太くん、もうすぐ寝る時間だから電話かかってくるんじゃない?」
私は時計を見た。多分アメリカでは夜中の1時くらいだろう。
毎日この時間くらいに電話がかかってくるが、時間が固定化されてくると、だんだん待ち遠しくなってきた。
ピロピロピロ……ピロピロピロ…
半年たってもこの着信音を変えるのを忘れていた。
「も、もしもし。」
「よぉ、また保健室でサボり中か?」
「サボりという名の課外授業です。」
「やっぱサボりじゃん。」
こんなたわいない会話、1日数分しか話せないが、私は充実していた。
「あ、もうこんな時間だ。明日早いからそろそろ寝るわ。また明日な?」
「うん、また明日!」
この終わり方ももう数えて何回目になるだろうか。でも私にとって一つ一つが別々の終わり方に感じた。
「あんたイチャつきなのよー!」
「私はもう慣れたけど、やっぱなんかウザいよねー。」
2人が横でブーブー言っていた。先生だけは、まだまだ子供ね!とでも言わんばかりの笑みを浮かべて私たちを見ていた。
「そーいえば楓も真紀も彼氏いないよねー?なんでなの?」
「嫌味ですか?嫌味ですか?私だって彼氏の3人や4人くらい欲しいに決まってるでしょ!」
そう言う真紀はホントに複数の男に貢がせている感じがするほど美人だ。ホントに男がいないのか疑問に思える。
「私は何回か告られたけど全部断ったよ?」
「え、なんで?」
「アニメで語り合えない彼氏ってちょっと残念な人たちだと思うんだよねー?」
楓に告白した男たちに、代わりに謝ってやりたい。てか、最初から忠告しといてあげればよかった。
「先生は告白されたことないですよねー?胸とか残念だし。」
相変わらず真紀は先生より立場が上なようで、先生も反抗できないようだ。
「ど、どうせ先生は残念なな人ですよ〜。男に振り向かれたことなんて皆無ですよ〜。」
また始まってしまった。こうなると先生は長い。
「真紀〜、早く謝ってよ〜。」
「え?なんで?」
いや、この状況作ったのあんただろ!?なんでってなんだよ。
「で、でも先生は今彼氏がいるじゃないですか!凄い充実してて羨ましいです!」
楓にしては珍しくフォローらしいフォローを言った
つもりだったが、急に先生が止まったかと思うと、いきなり泣き出した。
「聞いでよざんにんどもー!ぎのゔげんがじぢゃっでぇ、だいべんなのよぉ!」
よくわからないが、とりあえず濁音を混ぜないで欲しい……。
「せ、先生!話聞きますから落ち着いてください!」
「彼がね、彼がね……。」
キーンコーンカーンコーン
あ……。
「じゃあ先生!また明日来るから!」
泣いている先生に構うことなく、真紀は保健室から出て行った。
「せ、先生、多分それは神様が与えてくださった試練ですよ!前向きに頑張ってください!」
理由も聞いてないのに適当なことを先生に言うと、楓も教室から出て行った。
「先生!ごめんなさい!」
私もとりあえず謝って教室を出た。
「ま、真紀ちゃん!あれはさすがに酷くない?」
「え?何が?」
相変わらず真紀はキョトンとしていた。
「だ、だって先生泣いてたんだよ?慰めの一言くらい言ってあげてもいいじゃない?」
「見飽きたし、先生は泣いてる時の方が面白い。」
そう言うと真紀はまたスタスタと歩き出した。
長い間平和な日常が続いていたから忘れていたのかもしれないが、真紀は何事も面白い方がいいのだ。わかりやすく言えば、私が康太のことでなく時より、別れの相談をされる方が多分積極的になってくれるだろう。
「あ、それと、」
真紀がピタッと止まって言った。
「ちゃんつけるのやめない?なんか友達じゃないみたいだし。」
まぁそれは人それぞれだから仕方ないか。
「わかった、ちゃんと名前で呼ぶ。」
「うん、ありがと。」
そう言うと真紀はまた歩き出した。
「なんか真紀今日ちょっと変じゃない?」
私は楓にボソッとつぶやいた。
「んー、やっぱ彼氏ができないのがそんなに辛いのかなぁ?」
「え?真紀、作らないだけじゃないの?」
ちょっと意外だった。てっきり私は毎回毎回男を弄んでは振っているのかと思っていた。
「生まれてこのかた告白されたことないらしいよ。まぁ、高校生にしてはあまりにも大人っぽく見えるからみたいだけど……。なんかもったいないよねぇ。」
美人すぎて告白されたことがないのはあまりにも酷な話だ。
「私たちがなんとかする?」
私は楓に聞いてみた。
「んーん、やめとこ。真紀、そういうのはあんまり好きじゃないし、それに自分でなんとかできるでしょ。相談ぐらいは乗っても、私たちは見守るくらいにしとこうよ。」
「う、うん、そだね。」
困ってる友達の手助けをできないことは私にとって結構辛いことで、結構世話になっている真紀に対してはなおさらだった。
「真紀!」
私は先に歩く真紀に向かって叫んだ。
「何?」
真紀が振り返る。
「困ったことがあっから、なんでも言ってよ!相談にのるから!」
「困ったこと?」
真紀は首を傾げた。
「じゃあお腹空いたから今から何かおごってよ。」
「……はい?」
「あ、そうだ!駅前のパフェ食べに行こう!高いから千紗おごってよ!」
そう言うと真紀は校門へ走り出した。
「楓ー?」
「ごめん、私が考えすぎてたわ。」
私たちも真紀の後を追った。