サプライズ
「ごめーん!遅くなったー!」
「遅すぎるよ楓!何してたの?」
「ムフフ、ちょっとね?後のお楽しみよ。」
「おぉ!すごく楽しみぃ!」
と真紀は言うが、お楽しみを作ったのは楓だ。なんかロクでもないことをしようとしているのだろう。
「千紗ちゃん、楓の友達になってくれてありがとね。」
突然楓の母さんが口を開いた。
「き、急にどうしたんですか、叔母さん!?」
「聞いてると思うんだけどね、この子、千紗ちゃんがこっちに来るまで友達いなかったの。友達作るように言っても、真紀がいるからって言って全然聞かなくて……。でも千紗ちゃんと知り合ってから友達も増えたみたいでね、聞き飽きるくらいに学校でのこととか話すようになったのよ。本当に感謝してるわ。」
「そんな、叔母さん!それを言ったら私の最初の友達も楓だからお互い様ですよー!」
「そう言ってもらえると嬉しいわ」
「も、もう母さんやめてよ!」
「楓って意外と純粋な心持ってたとこ、真紀知ってた?」
「いや、私も初知りー。」
「そ、そんな目で見ないでよ!」
私たちは初めて楓より優位な立場に立てた気がした。
「そんじゃおばさん、ご馳走さまでした!」
「とっても美味しかったです、おばさん。」
「あらあら、じゃあ明日も食べに着なさい。明日は特別休校でしょ?」
「いえ、そういうわけには……」
「そう?あんまり遠慮しちゃダメよ?」
話が長くなると思ったのか、楓が私の腕を引っ張り、部屋に連れ込んだ。
「さてと準備はいいかな?」
「え?何の?」
そーいえばご飯食べる前に楓がなんか言ってたっけ?
「あぁ、もう少しだよ、行くよ!スリー!ツーー!ワーーーン!!
ピロロロロ……ピロロロロ……
な、なんで同時に私の携帯が鳴り出すの!?
「ほらはやく出なくちゃ!何か言いたいことがあるのかもしれないよ?」
「そ、そうだよ千紗!でなきゃ何も始まんないよ!」
真紀、そこは楓に合わせなくていいから助けてよ。
こうしている間にも電話は鳴り続けている。私は電話に出た。
「も、もしもし。」
あ、声が高くなっちゃった。
「やっと出てくれたよ。ずっと心配してたんだぞ!」
「い、今更何の用なのよ!康太くんに話すことなんて何もないわよ!」
「そ、そんなこと言うなよ!ちゃんと電話もするからさ!機嫌直してくれよ。」
「時差違うのに、どうするのよ!」
康太は少し言葉に詰まったが、言った。
「もしおれが寝てる時でも、千紗から電話が来たらちゃんと出るよ!そしたら大丈夫だろ?」
「べ、別にそこまでしなくても……。」
「いや、千紗の言う通りだよ。俺たち付き合ってるんだもんな。会うことが無理ならせめてそれくらいはしないと……。だから安心しろよ。」
なんでなのよ……。
「なんか言ったか?」
「なんであんたは私の言うことなんでも聞いてくれるの?私が言ってること、自分でも無茶苦茶ってわかってるのに、なんでそれに合わせようとしてくれるの?康太くん意味わかんない。」
せっかくお風呂に入ったのに、私はまた泣いてしまった。真紀が横からティッシュで鼻水を拭いてくれる。
「好きな人の言うこと聞いてあげるのに、理由もクソもねぇだろ?」
康太は当然のことのようにそう言った。私は康太のこういうところが一番好きかもしれない。
「大丈夫だから……。」
「え?なんて?聞こえない。」
「電話、大丈夫だから!毎日ちょっとずつでいいから早くこっちに来てよ。」
私は涙を抑えてそう言った。
「ハハッ、任せとけよ!」
そう言ってこうたは笑った。
「すぐに会いに行ってやる!それまで待っとけ!」
「うん!待ってる!」
いい雰囲気だったが、康太がこれから仕事だということで、電話を切った。
「私からのサプライズはどうでしたか?」
「楓ウザい。」
私は楓に抱きつきながらそう言った。
「だから、服を鼻水で汚してもいい?」
「アホか!?」
私の頭に楓のチョップが炸裂する。でもそれは不思議と痛くはなかった。
「楓っ!」
私はまた抱きついた。
そしてチョップ……この繰り返し。
そろそろ頭が痛くなってきたが私の喜びははどんどん膨れ上がるばかりだった。
「ありがとう楓!」
「いいわよ、あのくらい。」
楓は少し顔を赤らめてそっぽを向いた。