いったいなんなの!?
「ただいまぁー」
返事はない。あ、そうか。今日お父さんとお母さんの結婚記念日だっけ?外食するって言ってたなぁ。
私は荷物を部屋に置き、リビングに行った。リビングには置き手紙があった。
千紗ごめんねぇ。多分今日中には帰れないかもしれないです。今日パパがいろんな意味で張り切っちゃって……。だから、なんとか生きていてください。
……どうやったらこんな文章になるのだろうか。もしこれを本気で書いているのなら、私は母を病院に連れていかなければならない。
あ、でも一日中帰ってこないってことは、徹夜康太くんと朝まで話せるかも!
そんなことを考えていると私の携帯がなった。携帯が鳴るということはもちろん相手は康太である。
「も、もしもし康太くん?さっきはごめんね!」電話がかかってきた後、私はさっきいきなり電話を切ったことを思い出した。
「いや、そのことは怒ってないんだけど、千紗、俺と夜遅くまで話せるとか考えてなかった?」
「え?なんでわかったの!?康太くんエスパー?」
「いや、言い忘れてたことあったんだけどさ、そっちが昼の時って、こっち夜なんだよね。あんま長く電話するの無理かも……。」
え?ちょっと待ってよ。アメリカに行ってもちゃんと電話できるって聞いてたからアメリカ行きに賛成したのに、今更無理でしたとかふざけてるの?
「だから毎日少しずつ電話しないか?俺も出来る限り話してたいし。」
「そんなの嫌に決まってるでしょ!!」
今までにないほど大声を上げた。近所迷惑になることはわかっていたが耐えられなかった。ただでさえ会うことができないのに、電話の時間も制限されるなんて無理だった。
「ちょ、落ち着けよ。俺だってしたいのは山々なんだけどさ、仕方ないじゃん?」
「仕方ないって何よ!どーせ私のこととかどーでもよかったんでしょ!」
「は!?そんなわけねぇだろ!お前に逢いたくてアメリカまで来たんだぞ!」
「私のこと思ってるなら、タイムマシンの前に時差を無くしてよ!じゃなきゃ嫌だよ!」
私自身、無茶苦茶を言っているのはわかっていた。自分でもこれ以上は言いたくないとおもっていた。でもそう思えば思うほど、次々に言葉が出てくる。
「もういいよ!二度とかけてこないで!」
「お、おい!まて…」
ツー……ツー……ツー
私は一方的に電話を切ってしまった。
私は携帯をポケットにしまうと家を飛び出した。そのあとはもう、わけがわからなくなっていた。泣きながら走っていた。ただ走った。そうでもしないとこの気持ちをどこにぶつけたらいいかわからなかったから。
「わあぁぁぁぁ!!」
時にそんな声も出た。帰宅途中のサラーリマンや、高校生、散歩中の老人も私の方を振り返ったが気にしなかった。それほど無我夢中だった。
どれほど走ったのだろうか。あたりはすっかり暗くなっていた。そして私はここがどこかわからなかった。か、帰らなきゃ!
そう思ったがどっちから来たのかもわからない。
そうだ、電話があるじゃん!そう思った私は電話を取り出したが、そこで腕が止まった。
そうだ。さっき康太くんとケンカしたんだっけ?ケンカって言っても私が一方的にキレただけだけど。……康太くんの言うこと、聞いていればこんなことにはならなかったのかな。
私は道もわからないまま歩き出した。もうこのまま私がいなくなってもいいんじゃないか、そう思うと少し涙が出てきそうになったが、堪えた。
……やっぱ無理!
私の目からは、溢れんばかりの涙がこぼれ落ちた。堪えようとしても涙はそれをあざ笑うかのように次々と出てきた。
「もうやだよぉ!ごうだぐーん!!!」
なんで私は彼の名前を口に出しているのだろう。そんなに私の中に康太くんがいたのか。
「あれ?楓、あれ千紗じゃない?」
「あ、本当だ。なんか顔面がグシャグシャだけど千紗だね。」
泣いている私の前に現れたのは楓と真紀だった。
「何してんの?」
真紀が聞いた。
「まぎぢゃぁぁん!!」
私はさらに顔面をグシャグシャにして真紀の胸に飛び込んだ。
「キャーー!!!お気に入りの服がぁ!!抱きつくなら楓に抱きついてよ。」
真紀が楓に振ったが、楓はいたって冷静な表情だった。
「わけありならウチで話し聞くけど?」
楓はそういうとサッサと歩き始めた。