さてどうしましょう…
「あ、千紗ちゃん大丈夫?朝から保健室にいたんでしょ?災難だったねえ。」
そう話しかけてきたのは私の彼氏が26歳だと勘違いして話しかけてきたクラスメイト。名前は……
まぁいいや。
「あ、これノート取っておいたから使って!」
彼女は自分のノートを私に渡すと、その場を去っていった。
「千紗ー!」
そう叫んだのは真紀。その後ろに楓。
「早く帰ろー!」
…結局この二人は学校に何しに来たんだろうか。
「でさでさ!どうする千紗ちゃん!?今日返事しなきゃならないんでしょ?」
真紀が顔を詰めて聞いてきた。
「う、うん。断っちゃおうかな。」
「えー!?なんで!?」
そう言ったのは真紀ではなく、今までずっと黙っていた楓だった。
「ど、どしたの楓?急に。」
「千紗、あんた何を思ってそんなこと言ってるの?」
「な、何って…。だって康太くんに記憶失って欲しくないし…。」
「それはあんたじゃなくて、康太くんが決めることでしょ!あんたは付き合いたいか付き合いたくないか、それだけを考えればいいのよ!」
楓はそう言い切った。
「もし康太くんがタイムマシンにのらなかったら10歳年上の康太くんにも会えるわけだし、私はそれでいいと思うんだけど…。」
「なにあんたが熱くなってんのよ!」
そういうと真紀は楓の背中を軽く叩いた。
「べ、別にそういうわけじゃ…」
「もしかしてあんたも康太くんのこと好きなの〜?」
「ちょ!真紀!?」
楓は真紀を追いかけて全力で走り始めた。
…もし康太くんと付き合うことになったら、康太くんは無茶しないでいてくれるだろうか。楓にさっき自分のことを考えるように言われても、そんなことを考えてしまう。
「千紗ー!早くしないと置いてくよー?」
気がつけば二人とももうあんな遠くまで走っている。でも私は、この時だけは後を追わなかった。追いかけるより見えなくなるまであの二つの背中を見ていたい。なぜかそう思えたのだ。
しかし、私の期待を裏切り、二つの人の形はどんどん大きくなる。
…なんで戻って来てんのよ!
すると反射運動だろうか。私は反対方向を向くと全力で走り出した。
「ま、待ちなさい千紗ー!」
「なんで戻って来てんのよ!」
「あんたが追いかけてこないからでしょー!」
確かに一理あるが…。
「つ、疲れたー!」
家に着いた私は靴を脱ぐとその場に倒れこんだ。
も、もう動けない…。
「起きなさい千紗!こんなとこで寝てたら風邪ひくわよ?」
台所から母が出てくる。包丁とオタマを持った状態で…。
「お母さん。」
「なぁに?」
「なんで私の周りって変な人ばっか集まるのかな?」
「あんたが変だからじゃないの?」
いや、わかってる。わかってるつもりだったけど、自分の娘にサラッとそんなこと言って欲しくないです…。
「今日はおとうさんも早いから3人で食べよっか。」
「あれ?彼氏のことは言わないんだ。珍しいね?」
「いや、近所の奥さんと話してたんだけどさ、あんたに彼氏できるわけないわよね?お母さん勘違いしてたわ。」
現代の主婦たちは昼間っから何話してんだよ、おい!
「ちょっと疲れたから部屋で休んでくる。」
「ご飯の時には降りてきなさいよ〜?」
私は聞く耳を持たず自分の部屋に入った。