え?歴史を変えたの!?
「楓、眠い。」
楓と真紀に担がれながら私はそう声を漏らす。
「仕方ないよ。真紀が先生に必殺技見せちゃったんだから…。」
いや、確かに保健の先生は上から下まで真っ直ぐだった気がしないでもないが、ホントにそんなものが聞く人がいるとは…。
「でも、下手すりゃすごい奇遇だよね?」
真紀がそう口を開く。
「だって先生言ってたじゃん。時間差恋愛したことあるって!もしかして千紗ちゃんと同じ感じじゃないの?」
そう私みたいな人が何人もいたら、多分今頃ニュースになっているだろう。
「でも、確かめてみてもしそうだったらどうなったか聞いてみたくない?」
楓も乗り気だ。
「よ、よし!もう一回行こう!」
「し、失礼します!」
「あ、千紗ちゃん。そういえばあなたは病人だったのよね?ゴメンね追い出して。」
そういうと先生は私をさっきとは別人のように温かく迎え入れてくれた。
「あ、あの先生。話したいことがあるんですけど…。」
「ん?なーに?」
先生はニコニコした顔で私の顔を見た。
「時間差恋愛について教えて欲しいんです。」
その瞬間、ペンを動かしていた先生の手がピタリと止まる。
「…なんでそんなに知りたいの?」
先生のさっきの笑顔はどこにもなく、真顔で聞いてきた。
「え、えっと…」
「もう言ったらいいじゃん。」
保健室の外から話を聞いていた真紀が出てきた。
「真紀の言う通り、多分先生は何か知ってると思うよ。正直に言ってみなよ。」
続いて楓も出てくる。この雰囲気で言わない方がおかしいでしょ…。
「あの、先生。私、過去の人と電話ができるんです!」
「過去の人と?」
「はい。数日前から私の電話はある人としか繋がらなくなって、しかもその人は今から10年前の人だったんです。」
「何かの間違いじゃなくて?」
「ほ、本当なんです!」
私は顔を真っ赤にして先生に訴えた。しばらく沈黙が続いた。
「あ、あのー?」
「わかったわ。話せばいいんでしょ。誰にも言わないでよね。」
「ありがとうございます!!」
そうして私たち3人はなぜか正座して先生の話を聞くことになった。
「まぁ、手っ取り早く話すと、私の彼氏、この時代の人じゃないの。」
「へぇー。」
「…なんか感動薄くない?」
「すみません。同じような経験を現在進行形でしてるので…。」
「そうだったわね。でね、その彼氏はこの時代より10年先の未来だったのね。」
「み、未来ですか!?」
真紀が隣で叫んだ。
「えぇ。私も最初は焦ったわ。しかもこの人、かなりのドSでね、かなりイジられたわ。」
それは先生がドMなだけだと思うんですが。
「でも電話を続けて数日経ったある日ね、今から君の時代に行く!とか言いだすのよ。最初は意味がわからなかったわ。」
「なんかここまでは千紗の話しに似てるね。」
隣で楓が囁いた。
「それで詳しく聞いてみたんだけど、10年後の未来って、タイムマシンがあるみたいなのね。しかも誰でも使えるやつ。」
「おぉ!近未来って感じですね!」
真紀の目が輝いている。もしかしてファンタジー好きなのだろうか。
「はい、ここで問題です!私の彼はこっちの時代に来るときにあるしっぱいをしてしまいました。さて、それは何でしょう。」
「せんせー、誰もクイズなんて頼んでないから、続き話してくださーい。」
真紀が隣でブーブー言っている。
「もしかして時代を間違っちゃったんですか?」
楓が答える。
「おぉ!よくわかったね。そう彼、私の時代よりさらに10年前に飛んじゃったんだよね。結局待ち合わせの場所にも来なくてさ…あん時はホントに心配したよ。」
昔のことを思い出したのだろうか。先生の目が少し潤んでいた。
「さらにタイムマシンもそこで壊れちゃったみたいでさ…ホントに運がないよねぇ。」
「え?じゃあその彼氏さんはどうなったんですか!?」
楓が身を乗り出して聞いた。
「そう!彼ったら凄いんだよ!あれから10年待って、待ち合わせの場所に来てくれたの。最初は10も上だから声も変わってるし意味わからなかったけど、10年たっても私のことを思ってくれてるってわかったら、チョー感動してさ、それで付き合うことになったわけ。」
「なんか難しい話ですね。」
楓が頭を抱えながらそう言ったが、私の右では真紀がショートしていた。多分話の流れについていけなかったのだろう。
「さて、今からする話は千紗ちゃんにも関わってくる話なんだけど言っていいかな?」
「え?は、はい!」
急な尋ねに私は対応できなかった。「君の言っている子がいる10年前にも、はたまたこの世界にも、タイムマシンは存在するんだよ。」
「そうなんですかー?」
はい?え?存在するの?
「いやー、私の彼氏が歴史変えちゃったんだよね。粉々に壊れてたから絶対関係ないとか思ってたらしいんだけどさ、その時代に天才が居たらしくてね、その人の理論と組み合わせたらできちゃったみたいなの。現在もまだ危険があるってことで使われてはないみたいだけど…あ、これ国家レベルのトップシークレットだから、漏らしたらだめだよ?」
「あ、あの?」
私は口を開いた。
「何が危険なんですか?」
「んー?危険て言うか、それまでの記憶を失っちゃうみたいなんだよねー。私の彼氏が言ってたことだからよくわかんないんだけど、やっぱ現代科学はまだまだみたい。」
ってことはやっぱ康太くん、これないんじゃ……
「そんなことないと思うよ?」
先生が私の心を見透かしたように答えた。
「もし康太くんが記憶を失ってでも千紗ちゃんに会いたいって思うんなら、危険を冒してでも来るだろうし、もしかしたら康太くんが研究して、記憶を失わないようにするかもしれないしね。」
キーンコーンカーンコーン……
先生がそこまで言うと授業終了のチャイムが鳴った。
「あ、もう終わりかぁ。まぁまあ話したいことがあったらいつでも来なよ。先生には病気ってことにしといてあげるからさ。」
私たちは先生に頭を下げると保健室から出て行った。