14.女三人の△関係になってしまうお話
喫茶店RedRabbitHorseでバイトする事になった僕はその初日にいきなりのピンチを迎えていた。同じくバイトの女子が僕のことをいたく気に入ったらしくて、僕に着せようと店の制服を自分で作ってきたのだ。是非とも僕に着て欲しいと言うのだが、その服とは男だった僕が着るにはあまりにも可愛らしすぎる一品で拒否したら彼女に強引に奥の方へ連れて行かれてしまったのだ。僕を観察してスリーサイズも目測で把握したと言うからちょっとストーカーの気があると思う。ここはハッタリをかました方がいいだろう。
「お、俺様には1万人の子分がいるんだ。俺様に手を出したら子分どもが黙っちゃいねーぞ!」
どうよ、このハッタリ。って、全然ビビってない!?
「あなた、そんな長っ鼻がつくような嘘で騙せると思ってるの?」
催眠術師なら信じてたぞ。ってか乱暴はやめて。
「乱暴なんてしないわよ。相手が振り向かないからって暴力を振るうようなマグマ星人みたいなことはしないわ」
本当?それなら安心ー
「えい!」
彼女が可愛らしい掛け声と同時に僕の服を掴むと一瞬のうちに服が持っていかれてしまった。ズボンも一緒に。
「ええええええええっ!?」
一瞬のうちに下着だけになってしまった。驚くのはまだ早い。彼女がもう一度「えい!」ってやると今度は彼女の作った制服が僕に着せられたのだ。
「一体どうやったの!?」
「ふふん、すごいでしょ?」
すごいってもんじゃない。制服の上からブラジャーのフックを外すというのもすごいのに一瞬で着替えさせるなんて。
「もっとすごい人だと、脱がすのと着せるのを一回でまとめて済ませちゃうんだよ」
上には上がいるのか。すっごい特技だけど何の役に立つんだろう。まあ、着替えるのを嫌がる子供を持つ母親には需要があるかもしれないけど。
「さあ、着替えも済んだことだしお仕事始めよっか」
「う、うん、それはいいんだけど…」
一つ訊いていいかな?
「なに?」
「これって制服だよね?」
あなたが店長に断りもなしに勝手に作ったー
「そうだよ。かわいいでしょ?」
「僕、バイトするの初めてであまりわかんないんだけど、こういうのってみんな同じものでないとダメだと思うんだ。どうして、僕の制服はこんなに胸元を強調してるの?」
僕の制服は胸の谷間がこれでもかと自己主張しているかのように見えた。
「何それ、母性の象徴に乏しい私に対する当てつけ?私がそれを着ても自己嫌悪に陥るだけで誰も得しないわよ」
いや、僕がそっちと同じものを着るだけでいいと思うけど。
「悪いけど、制服はそれしか無いわよ。どうしても嫌ならバニー…ああ、それも嫌って言ってたわね。だったら後は裸エプロン…」
「これでいいです…」
どうして露出が増える方向に行くんだろう。裸エプロンってどんな店だよ。せっかく閉店の危機から立ち直ろうとしているのに心機一転した最初の日に警察沙汰なんて店長が気の毒すぎる。店長のためだ。この制服で我慢しよう。バニーや裸エプロンよりかはマシだからね。
「さあ着替えたらお仕事お仕事!」
この格好で人前に出るのは勇気がいるがこれも仕事だ。意を決してホールに出る。
「「「おおおおおおおおおおおおーっ」」」
出た瞬間に客の視線が集中する。
「ひいぃぃぃぃっ」
他人に注目された事がない僕はすっかり怯えてしまって足がガクガクになった。とても接客なんてできない。しかし、仕事だ。店長に迷惑はかけられない。勇気を出して一歩を踏み出す。同時に入口のドアが開いた。お客様だ。いらっしゃいませをしないと…
「いらっしゃ…」
僕はセリフを言い終えることができなかった。入ってきたのは学校の子たちだったからだ。クラスメートでいいじゃんと思われるかもしれないが、よそのクラスもいたし違う学年もいたのだ。そういや、押しかけてくるって言ってたな。まさか、こんなに大勢で。何人いるんだ?
「わーっ可愛い制服ぅ」
女子たちが群がってくる。
「胸元も見せつけちゃって、エロエロだね」
エロエロ?思わず胸元を腕で隠す。
「ダメよ。見せつけるためにその服着てるんでしょ?今更恥ずかしがっててどうすんの?」
「そうだよ、客の視線を釘付けにするぐらいのエロエロボデイは見せてなんぼなんだから」
「しっかし、あんたが自分からこういうのを着るなんてね」
ち、違うよ。これは一緒にバイトしている娘に無理矢理着せられたんだ。
「へーっなかなかセンスいいじゃん。可愛らしさと色っぽさを両立させるなんて只者じゃないわね」
確かに只者じゃない。あ、こんなところで大勢で突っ立ってられてたら他のお客さんに迷惑だ。席に案内しないと。でも、テーブル空いてるかな?ダメだ、全員は無理だ。
「悪いけど席が一つしか空いていないんだ。6人しか座れないよ」
見たところ十数人はいる。なんで、こんなに連れてきたんだろう。街角の喫茶店だぞ。
「しょうがないわね。どうする?ジャンケンする?」
「あ、私は彼女だから優先権があるよね。先に座らせてもらうね」
と、手を挙げて返答を待つ事なく席に座ったのは、前に僕にキスして恋人宣言した女子だった。生まれて初めてのトチ狂って女性を襲って無理矢理唇を奪う以外に経験する事は一生涯ないだろうと達観していたキスがまさか女の子の方からしてくるなんて。あれ以来、特に何もなかったので、てっきり冗談だったんだと思ってたら僕らの関係ってまだ続いてたの?こういう場合、僕も彼女になるんだろうか。とにかく早いとこ後五人座らせないと。
「ちょっと、いま彼女って聞き捨てならないセリフが聞こえたんだけど?」
バイトの子がなぜか両手を腰にやって怒っている感じのポーズで彼女が座っているテーブルの方を睨みつけていた。
「私を差し置いて彼女宣言ってどういう了見なのかしらね?」
は?なに言ってんですか?
「お姉ちゃん!?」
そう、このお姉ちゃんおかしいよね…ってお姉ちゃん!?誰?いま言ったの。辺りを見回したら僕の彼女がテーブルに手をついて立っていた。
「あんた、なんでここにいるのよ?」
「お姉ちゃんこそ、バイト先見つけたって言ってたけどまさかここだったなんて」
この二人、姉妹だったんだ。確かに似てる。
「お姉ちゃんがここにいるって事は、この制服はお姉ちゃんが作ったの?」
「そうよ、かわいいでしょ?」
「部屋に引きこもってなにをしているかと思ってたら…でも意外だよね」
なにが意外なんだろう。
「お姉ちゃんが作ったにしては普通すぎる…」
これで普通なの?
「お姉ちゃんなら逆バニーかと思ってたのに」
逆バニーってなにっ?女子の一人がスマホで画像を見せてくれた。えっ?これ、裸じゃん。これ、裸じゃん。これ、裸じゃん。なにこれ?これ服じゃないよね?これ服じゃないよね?服って人が外を出歩けるようにしてくれるものだよね。これ、外を歩けないじゃん。これ、外を歩けないじゃん。
「さすがにいきなりそれはないわよ。それはもっと後よ」
いや、後だろうとなんだろうと絶対に着ません。
「そんな事より、あんたこの娘の彼女って、妹のくせに姉より先に彼女作ってんじゃないわよ」
この台詞、おかしいと思うのは僕だけだろうか。しかし、このままだとケンカになりそうなのでそろそろ止めた方がいいな。
「あんた、うちの妹と付き合ってるって本当なの?」
「ええ…まあ、一応…」
曖昧に返答する。すると、お姉さんはガクッと両手と両膝を床についた。
「そんな…ノーマルだと思ってたのに…」
なんか落ち込んでるようだけど、どう励ましたらいいのかな。とりあえず肩に手をおこうとしたらお姉さんはガバッと立ち上がった。そして、僕の両肩をガッチリと掴んで顔を近づけた。
「それで、妹とはどこまで行ったの?」
どこまでって、彼女とは一緒にどっかに行った事なんてないんだけど。
「キスよ」
僕が返答に困っていると横から彼女が口出ししてくれた。そうキス…ってそっちかっ。
「そう…だったら、いまここでキスしたら互角ね」
意味がわかんないよ。でも、何をされようとしているかはわかる。お姉さんの唇が迫ってきているからだ。
「ちょい待ち」
彼女が僕とお姉さんの顔の間に手を差し込んでお姉さんの行動を阻止した。
「なによ」
「お姉ちゃんはがっつきすぎだよ。この娘はもう私の彼女なんだからね」
「あんた、NTRって知ってる?ガールフレンドだろうと人妻だろうと雌奴隷だろうと最後は奪ったもん勝ちよ」
「本気でこの娘を寝取るつもり!?図々しいにも程があるよ!この娘は私の彼女で嫁でど…なんだから絶対にお姉ちゃんには取られないから!」
ど、の後何を言おうとしていたか気になる。あと、嫁ではないよ。でも、本当にこの辺でやめさせないと。しかし、二人はまだまだ終わらせるつもりはないようだ。とんでもない事を言い出した。
「だったら、この娘に決めてもらったら?あんたと私のどっちを選ぶか」
は?
「いいわよ。受けて立とうじゃないの」
何を言ってるの?って、二人が顔をアップにしてきた!
「私とお姉ちゃんどっちが好き?」
「彼女とかそういうのは気にしなくていいからね。正直に答えて。別に私を選ばなくてもいいよ。次の日から制服が靴下だけになるけど」
それって、もう服ですらないよね?
「お姉ちゃんずるぅい!だったら、私は…そうね私を捨てたらいまこの場でその服をひん剥いてやる!」
ちょっと待って。なんで僕まきこまれているの?これって修羅場って奴ですか?まさか自分で体験するとは。こういう時は、私のために争わないでって言うべきなんだろうか。結局、この騒動は店長の「おーい、そろそろ仕事に戻ってくれよ」という声がするまで続いたのだった。
次回から展開が鬱々になる予定です。