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13.如何わしい服を着せられそうになるお話

 店に行くと女の子がウェイトレスをしていた。


「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」

 きょとんとしていた僕は聞かれるままに答えてしまった。


「はい」

「お好きな席へどうぞ」

 そして、そのまま空いている席へ…って何やってんだ。


「あの、僕お客じゃないです」

「僕?」

 女の子は「あれ?」って顔で僕を見ている。それからすぐに「あっ」って顔になった。


「あなたが店長の言っていた娘ね。初めまして、今日からバイトとして働くことになりました…」

 自己紹介してくれた彼女は僕より年上との事だが、僕よりかはまあスレンダーな女性だ。僕も自己紹介してこれで対面の儀式は完了したわけだが気になることが一つあった。


「あの、それは?」

「これ?かわいいでしょ?」

 彼女はフリフリのスカートを指先でつまんだ。一目でウェイトレスとわかってしまう衣装だ。それもかなり客(当然、男の)の視線を意識したと思われるデザインだ。この店に制服はなかったはず。だって、着るバイトを雇う余裕がなかったんだもん。


「私が作ったのよ。似合う?」

 うん、似合う。こんな娘に笑顔で接客されたら男はイチコロだろう。僕が平常心を保っていられるのは女になったからではなく、こんな娘が僕に微笑みかけるなんて太陽が西から昇って東に沈むぐらい有り得ないと冷めた心で現実を見ているからだ。彼女がもし僕の正体を知ったら間違いなく笑顔とは180度正反対の蔑みの眼差しを向けるだろう。それより作った?自分で?器用な娘だな。ってことは私服か。良かった。制服だったら僕も着る羽目になるところだ。


「よく似合ってますよ。じゃ僕は準備するんで」

 そそくさと逃げるようにロッカーに行く。作ったものを自分で着るくらいだ。僕にも着てと言いかねない。ロッカーは店長がバイトのために購入したものだ。荷物をロッカーに入れてエプロンを着ければそれで準備は完了だ…と思ってた。


「ああ、君ちょっと」

 店長に呼ばれたので行ってみるとさっきのと同じ服を渡された。


「これは?」

「君の制服だ」

「はい?」

 なんか話が違うぞ。この服はさっきの女性が自分で作ったと聞いたんだが。


「実は、今朝に彼女が訪ねてきてね。バイト募集のチラシを見て来たって言うから面接したんだ。その時に自分で作ってきたとこの服を渡されたんだ。ご丁寧に君の分まで作ってきたんだぞ」

「いやいやいや、ちょっとおかしいでしょ」

 だいいち、どうやって僕の体の寸法を知ってるんだ。彼女とはさっきが初対面だ。


「一昨日に客で来ててじっくりと君を観察してたそうだ」

 何それ怖い。まるでストーカーみたい。そういや、前に近所の大学生が友達に「とうとう俺にもストーカーができたんだよ」と嬉しそうに語っていたのを聞いたことがあったな。本当にストーカーか怪しいもんだが。それはさておき、目で見ただけでサイズがわかるの?僕は着やせする方で服を着てても胸は大きく見えるが脱いだらもっとすごかったりする。


「それで君に着てほしいとの一心で服を作ったそうだ」

 そして、昨日にポストに入ってたチラシを見て自分の分を一晩で作り上げたらしい。店長によると志望の動機は僕がこの服を着て働く様子を側にいて眺めたいからだそうだ。


「……」

「!待ちたまえ」

 店長に腕を掴まれた。なぜ僕が逃げようとしたのがわかったんだ?


「私も迷ったんだ。しかし、少なくとも熱意はある。その熱意を私は買ったんだ」

 熱意のむける矛先は違っている気がする。


「まあ、人手不足なんだから仕方がない。我慢してくれ。頼む」

「この制服を着ないのであれば了解します」

「店の制服に採用することにした」

 うぐぐぐ。店の制式なら着ないわけにもいかない。でもなあ、なんだよこのフリフリヒラヒラは。店長は僕の正体を知らないから抵抗はないだろうけど、僕は自分を正当に評価できるつもりだからこんなの着たらダメだって自制できる。


「あまり店の雰囲気に似つかわしくないですね」

 この店はもっと落ち着いた雰囲気の店だ。いくら庶民的な店にしていくからって方向性がズレていると思う。


「店長、もっと自信を持ちましょう。焦って事を急げば仕損じます」

「うーん」

 店長が腕組みして考え込んだ。よし、もうちょいだ。その時、例の彼女がひょいと顔を出した。


「店長、注文が入りました。あれ?まだ着替えてないの?」

 僕を見て首をかしげる彼女。よし、直接本人に言おう。


「あの…「ひょっとして気に入らなかった?」

 ……僕は頷いた。言う前に気づいてくれたみたいだ。


「そっかぁやっぱり色気が足りなかったか」

「え?」

 違う、そうじゃない。


「もっとスカートを短くして胸を強調しないとダメだね。あと背中も見せた方がいいかな」

 やめて。いったい何の店の制服だよ。


「ええ?これでも不満ならあとはバニー…」

「待って、少し落ち着こうか」

 僕は彼女の肩をつかんで暴走しそうになっているのを止めた。


「もっと店の雰囲気にあった制服にしようよ」

 彼女は???ってな顔になった。


「そんなことしてどうするの?」

 今度は僕が???になった。


「あなたの言う服がどんなものか知らないけど、それで客が来るの?」

「それは……」

「この店はあなたの魅力だけが頼りなのよ」

 それは言い過ぎでしょ。ってか、なんであんたがそんなこと言い切れるんだよ。店長も何か言ってやってくださいよ。


「ああ、いや私も彼女に賛成だ」

 あんた、少しは自分の店と料理の腕にプライドを持ちなさいよ。


「さあ店長の許しが出たわよ。女らしく覚悟を決めてこれを着なさい。さあ!」

 服を手に持ちじりじりと迫る彼女。なんでだろう美人さんなのになんだかとっても怖く見える。


「ま、待ってください。僕にはちょっとハードルが…」

「何事もチャレンジよ。勇気を出して一歩を踏み出しなさい」

 その一歩は踏み出したら崖下に転落しそうだ。無理強いは無理と見たのか彼女は少し考える素振りをして


「あなた、私が好き好んでこんな格好をしてると思う?あなたが着てくれると信じてるから恥ずかしいの我慢してるのよ」

「だったら脱げばいいじゃないですか。僕が着ないとなればあなたも着る理由がなくなるでしょ?」

 僕の指摘に彼女は少しフリーズしたがすぐに回復すると頭を掻きむしった。


「ああもう!じれったいわね。ちょっとこっち着なさい!」

 彼女は僕の腕を掴むと有無を言わさず奥へと連れて行った。え、待って、なに?ひょっとしてヤキ入れられるの?なにそいれ怖い!誰か助けてぇ!ってか店長見てないで止めてよ。

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