1.最下層男子が美少女になってしまうお話
『彼氏にしたくないランキング』
僕は見事に第一位に輝いた。お爺ちゃんが言っていた。何でもいい、一番になりなさいと。お爺ちゃん、やったよ。一等賞を取ったよ。草葉の陰でお爺ちゃんも喜んでいるだろう。今日はパーティーだ。スーパーで買い物してから家に帰る。
「ただいまーっ」
と言っても「おかえり」と迎えてくれる家族はいない。美男美女ぞろいの家系で例外となっている僕は家に居づらくなって高校進学と同時に一人暮らしをすることにしたのだ。親にも兄弟姉妹にも似ていないから、よくお前は失敗作だとか橋の下で拾われたとか言われたものだ。でも、僕は気にしない。唯一、僕を可愛がってくれたお爺ちゃんがマイナス思考にはなるな、前を見て生きろと言っていたからだ。
「他人を恨んだからって環境や待遇が良くなるわけじゃないからな」
陰湿な気分になるだけだ。だから僕は現状を受け入れることにしている。でも、やはり見た目だけで判断されるのは辛い。そこで僕は自ら最低な奴になる事を決めた。女子の着替えや入浴を盗撮して売りさばくのだ。もちろん、バレないようには気をつける。盗撮された女子が傷つかないようにだ。盗撮という最低な行為をしている僕は女子から嫌われても当然の存在だ。だから不名誉なランキングでも素直に受け入れる事ができる。
「素直だけが僕の取り柄さ」
とは言いつつもやはり寂しい。だから、今宵はお祝いであると同時に慰め会でもあるのだ。スーパーで買ってきた炭酸飲料の缶を開ける。ビールの代わりだ。爺ちゃんの遺影に缶を掲げる。
「爺ちゃん、僕一等を取ったよ」
生きているうちに一等が取れなくてごめん。天国の爺ちゃんに詫びながらグビグビしていると、ベランダの方から「ニャー」という声が。
「ちょっと待ってて」
ベランダを開けて猫を入れてやる。この猫は僕の唯一の同居人(いや、猫か)だ。僕がここに引っ越す前に根城にしていたようだ。僕が住んでからは留守にする事が多くなったが、たまにこうして戻ってくるのだ。
「ちょうど良かった。君も祝ってよ」
水を入れたボールと目刺しを乗せた皿を出してやる。今日帰ってくるってわかってたら猫用のミルクと缶詰を買ってきたのに。
「悪いけどこれで我慢して」
心が広いのか猫は不平を垂れることなく目刺しを頬張った。こっちも惣菜で快挙を祝おう。今日は奮発して刺身もつけてある。
「じゃ、改めて宴の開始としよう。乾杯」
缶をボールに当てる。あまりにも細やかな宴だが祝ってくれるのが猫だけなのだからしょうがない。宴が終わって後片付けを済ませると、僕は仕事に取り掛かった。昨日までに撮りためた盗撮画像や映像を被撮影者を特定できないように処理するのだ。その前に画像をチョイスして印刷しておこう。選りすぐりの画像を印刷してファイルに保存しておくのだ。もちろん、個人的に楽しむためである。
「これと…あ、これもいいな」
作業は順調だった。そこへ猫が僕の膝の上に飛び乗ってきた。
「コラ、仕事の邪魔をしちゃ駄目だろ」
僕は猫をどけようとしたが猫はニャーっと抗議して立ち退きを拒否した。
「まったく……」
一応この家の先住者だ。その意思は尊重しなければならない。猫の意思がどうなのかは正直わからない。ただパソコンの画像をじーっと見入っている。女の子の入浴を見て楽しいのだろうか。このスケベめ。
「いや、僕もご同様だな」
正直、見知った同級生の裸を見て何も思わないわけじゃない。僕だって立派なホモサピエンスのオスだ。メスの裸を見れば人並みに興奮はする。日頃、僕をひどいのになると雑菌扱いしてくる女子たちが知らず知らずのうちに素っ裸にされるのだ。そう思うとちょっとした仕返し気分にもなるし、裸を見せてくれた上に金まで稼がせてくれるのだ。だから、僕には彼女たちに何も思うところはない。むしろ、毎日の仕打ちを補ってあまりある事をしてくれるので感謝している。唯一難点なのは仕事が忙しすぎて予習や復習をする時間が取れないことだ。だから僕は成績がよろしくない。元々、そんなに成績が良い方じゃないので勉強しなきゃ成績も上がらないのだが、金を稼がなきゃ生きてはいけない。勉強は将来の為にするものだと言うけれど、僕には今日明日を生きていく資金を稼ぐ事の方が大事だ。家出同然で実家を飛び出した僕には当然仕送りなどあるはずもなく、喰っていくには働くしかない。
「今日はここまでにしよう」
あとは風呂入ってテレビを見て寝るだけだ。宴があった以外はいつもと変わらない日常。明日以降もそんなに変化の無い日常が訪れるだろう。何の根拠もなく漠然とそう思っていた。まさか、この日がそれまでの毎日の終焉だったとは夢にも思わなかった。僕はいまの暮らしがそんなに嫌いじゃない。家族からは見捨てられたも同然で、女子からの扱いは最悪、男友達すらも皆無で、相談に乗ってくれる大人もいない。人間関係なんて無きに等しい。でも、それを無理して変えようとは思わなかった。そりゃ傷つくときだってあるさ。でも、傷つかない人生なんて無いんだし、いまの状況を変えるにしたってどうやって?下手な事をすればいまよりも状況が悪くなるだけだ。そんなリスクを冒すよりはいまの現状を受け入れた方がまだ無難だ。状況なんてそう簡単には変わらない。この日まではそう思っていた。それがまさかいとも簡単に変わってしまうなんて……。
-・-・-・-
翌朝、猫はまた旅に出たのか僕が起きた時にはすでにいなかった。
「また、一人か……」
本当に猫は気ままだ。僕も猫になりたいよ。などと思いながら玄関から配達の牛乳を取ってくる。これと昨日買ってきたアンパン一個が今朝の朝食だ。家賃と水道光熱費と授業料その他諸々で食費に回せるのは限られている。毎日、朝食が食べられるだけでもマシな方だ。ちゃぶ台の上には違う意味でのオカズもある。昨日、印刷してファイルした学校女子たちの裸画像集だ。そんなもの卓袱台に置くなと批判されそうだが、どうせ誰も来やしない家だ。問題は無い。写真を見ながら食事もいいが僕は朝食に時間をかけない主義だ。10秒で食事を終える。あとは歯を磨くだけだ。
「爺ちゃん、行ってくるよ」
歯を磨いて爺ちゃんの遺影に手を合わせた僕は家を出た。そんなに特筆することのない平凡なありふれた朝だ。この後、学校に行って帰ってくるだけだ。もしかしたらいつもとは違う何かが起こるやもしれん。なれどそれはせいぜい誤差の範囲であろう。何かが劇的に変わるなんてそんなの有りえない。
「……」
そう今日も僕は女子にリアルバイキンマン扱いされるのだ。学年一のイケメンくんの方がよっぽど心が汚れているというのに外見で騙されるんだからな。男子にも爽やかな好印象を与えるイケメンくんは唯一僕にだけは本性を見せてくれる。僕からの好感度など上げる必要も無いと思っているのだろう。僕が『彼氏にしたいランキング一位』の彼の本性を皆に暴露したところで誰も信じないだろうしな。あ、噂をすれば。相変わらず女子たちに囲まれてのご登校だ。そのうちの一人と目があった。露骨に嫌な顔された。朝っ早からうっとうしい顔を見せるなとでも言いたげだった。
「……」
今宵のメインディッシュは彼女に決定だな。確か前にファイリングしたはず。日頃、僕を馬鹿にする女子に奉仕させる妄想はまた格別である。いかん、思わず本性をさらけ出してしまった。でも、妄想だけだからさ勘弁してよ。それくらいしか楽しみがないんだから。さて、どんなシチュエーションがいいか。やはり嫌がる彼女の弱みを握って…というのがいいな。グヘヘヘッ今夜が楽しみだぜ。よく妄想が暴走して犯罪に走るとか言われるけど、僕はちゃんと現実と妄想の区別がつくのでご安心あれ。今夜が待ち遠しいなあ。
結論として楽しみにしていた夜は来なかった。盗撮という犯罪に手を染めた事に罰が下ったのか、僕は交通事故に巻き込まれた。すごい衝撃だった。自分の体から血が大量に出ているのか見て取れる。意識もすでに朦朧としている。ああ、人間ってこうもあっさり人生終えちゃうんだな。死ぬかもしれないというのになぜか落ち着いていられた。まあ、生きていてもしょうがない人間だと自分でもわかっていたからな。現世では良いことなんてほとんど無かったけど、来世ではちょっとはいい人生でありますように。
-・-・-・-
気がつくと僕は見知らぬ部屋のベッドに寝かされていた。
「どこだ?ここは」
入院患者が着ている服を着させられているからどっかの病院か。どうやら一命は取りとめたようだ。しかし、参ったな。入院代なんて払えないよ。
「どのくらい寝てたんだ?」
外はもう日が沈もうとしていた。夕焼けマンが仕事をしている時間帯か。それが今日なのか違う日なのかまではわからない。
「……さて逃げるか」
医師や看護師に見つかる前にトンズラしよう。その前に体がちゃんと動くかどうか。腕を動かしてみる。痛くない。どこか痛いところはないか体中を触ってみる。どこも痛くない。と、手が胸に触れた時だった。むにっ。
「……むにっ?」
あれ、僕ってこんなに脂肪がついてたかな?両手で触ってみた。むにむにっ。シャツの下から胸を確認する。
「……」
いかん、事故で視神経に異常を来したらしい。ありえないものが見える。やはり、あれだけの事故で何とも無いわけがない。
「ここは正直に金が無いと言うしかないか…」
……。気のせいかな。自分の声じゃないような。さっきまでは寝起きだったせいか気にもとめなかった。もう一回確かめてみる。
「あーあーあー」
どうしよう、目だけじゃなくて耳にも障害が発生しているようだ。いや、声がおかしいのか?思った以上に体へのダメージは深刻かもしれない。交通事故だからな。包帯だらけになっていても不思議ではない。
「それにしても人気が無い病院だな」
この部屋にはドア以外には窓すらない。あるのは僕が寝かされているベッドとトイレと思われる小さい個室だけだ。僕は他に体に異常がないか調べた。あった。髪の毛が長くなっているのだ。人間って過度な衝撃を受けると髪の毛が長くなるのか?自分自身はもちろん、身内や知り合いに事故に遭った人がいないからわからなかった。
「……」
……。見たところこの部屋には鏡もその代用になりそうなものも見当たらない。膨らみのある胸、長い頭髪、他にも明らかに自分のとは異なる肌などなど…。鏡を見なくても自分の身に何が起きているかはだいたいの想像がつく。しかし、まさか…そんなことが……。
「……」
確認する術はある。しかし、確認したところで状況が良くなる事はないだろう。殴られるか蹴られるかの違いだけで僕が痛い目にあうのは同じということだ。僕は手を股間にそっとあてた。…ごくり、生唾を飲みこむ。そして、手を股間に押し当てた。
「……マジか?」
にわかには信じがたい事に僕は股間をまさぐってみた。でも、無い。何が無いって?股間にあるべきものだよ。
「すーっはー、すーっはー」
僕は深呼吸すると覚悟を決めて股間を直接視認する事にした。
「……そうだった、僕は事故で視神経をやられてるんだった」
だから、無いはずのものが見えたり、あるはずのものが見えなかったりするんだ。……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。
「んなわけねえだろ」
認めたくはないが目の前の現実は受け入れるしかない。しかし、なぜだ?なぜ僕はこうなった?僕は無性に鏡が見たくなった。もう自分が以前とは似ても似つかぬ変わり果てた姿になっているのは明白だ。でも、それでも僕はいまの自分の姿を見てみたかった。でも、この部屋に鏡なんて……。
「あ、トイレになら小さい鏡があるかも」
トイレと思しき小部屋に行ってドアを開けてみる。案の定、そこはトイレだった。そして、
「あった」
手洗いの上に小さな鏡。そこに映っていたのは想像以上だった。自分自身なのに惚けてしまうくらいだ。僕が鏡とにらめっこしていると部屋のドアがガチャと開いた。僕はハッとなって身構える。状況からして僕はここで姿を変えられたと見るべきだろう。果たして姿を現すのは何者か。
「おお、目覚めておったか」
現れたのは頭の禿げた小太りの初老のおっさんだった。白衣を着ているから医者か科学者だろう。
「あんたは?」
「ワシは怪しい者ではない。この研究所の所長じゃよ」
「研究所?なんでそんなところに僕はいるんだ?しかもこんな姿で…」
研究所ってことはこのおっさんが僕をこんな姿にした張本人か?
「ああ、誤解せんでくれ。君をいまの姿にしたのはワシじゃが、君を死なせないためにはそうするしかなかったんじゃ」
「どうゆうこと?」
「自分が交通事故にあったのは覚えておるか?」
「うん、微かに」
「かなりのスピードで撥ねられたのじゃろう。あのままでは君は死んでおったんじゃ。そこでワシが君をここに運んで手術したんじゃ」
「?????」
「まあ、理解できんのも無理はないじゃろう。手術は成功じゃ。体に痛みや違和感はないか?無ければもう帰ってもいいぞ」
「待って。帰れと言われてもこんな姿じゃ……」
「心配は無用じゃ。ちょっと待っておれ」
おっさんは出て行った。いない間におっさんの話を整理しておこう。まず、僕が車に撥ねられた。そのままでは僕は死んでしまう。そこでおっさんが僕をこの研究所につれてきて手術した。そこまではいい。その後、手術の結果僕は以前とはまったく違う姿になっていた。
「……さっぱりわからない」
なぜこの姿になっているのか、そこがまったく理解できない。元々そんなに頭が良い方ではないので考えるのはやめにした。問題はこれからどうするかだ。
「すまんすまん、待たせたのぉ。これじゃ」
おっさんが持ってきたのは紫色の液体が入っているエルレンマイヤーフラスコ だった。
「これを飲むとお前さんの体は元にもどる」
本当か?こんなわけのわからない薬を飲んで大丈夫か?
「ワシを信用せい」
信用に足る情報を僕は得ていない。でも、この姿のままというのは困る。逡巡した末に僕は思い切って飲み干した。無味無臭だ。
「別に何とも……」
ないように思えたのは少しの間だった。口から鼻から大量の気体が吹き出てきたのだ。見る見る間に視界を遮って行く。
「な、なんなんだよ」
手で煙を払いのけると、僕は目を疑った。
「嘘……」
驚いたことに僕は元の姿にもどっていたのだ。
「どうじゃ?これで帰れるじゃろう」
「あ、ありがとうございます」
命の恩人に僕はペコリと頭を下げた。このおっさん凄い博士だったんだな。
-・-・-・-
翌朝、いつもどおり学校に向かうと皆がぎょっとした顔で僕を見てくる。いままでも僕を見ていい顔をする人はほとんどいなかったが、今日はいつもに増して周囲の僕を見る目が厳しく感じられる。さらに女子たちのヒソヒソ話も聞こえてくる。
「やだ、生きてたの?」
「死んだって聞いてたのに」
「なんで生きてんのよ」
「やだ、キモい」
「あのまま死んじゃえばよかったのに」
ひどい言われ様だ。教室内でも同じような会話が漏れ聞こえ、ただでさえ肩身の狭い思いをしてきた僕はさらに居心地が悪くなってしまった。参ったね、こりゃ。これでもし元の姿にもどれてなかったらさらに何を言われるかわかったものじゃない。昼休みになって僕は弁当を持って自動販売機でコーヒーを買っていつもの場所に向かった。ここは誰にも邪魔されない僕だけの空間だ。ここを知ってるのは僕以外ではあのイケメンくんしかいない。弁当を食べ終わってコーヒーを飲んで(ここの自動販売機はちゃんとフタをしてくれるでやんす)いると、イケメンくんがドリンクのカップを持って現れた。いつも、女子に囲まれているイケメンくんはそうしたことに疲れるとここに来るのだ。
「参ったよ。そばでキャーキャー言われてよ」
羨ましいかぎりだが。僕には到底望めない事だ。彼は弁当を持ってきたことは一度もない。かといって食堂で食べるとか購買でパンを買うといった事もしない。いつも女子が作ってきた弁当をちょっとずつ食べるのだ。ここは彼にとっても秘密の場所だ。僕らだけが知っている僕らだけの場所だ。といって僕と彼が友達というわけではない。僕はただここで彼の愚痴や自慢話を聞くだけだ。
「でさ、あの女ときたら図々しいからありゃしない。ふざけんなって」
彼はイケメン優等生という仮面を被っている。普段、皆が見ている彼は本当の彼じゃない。彼が誰かを口汚く罵るなど誰が想像できようか。僕しか知りえない彼の本性である。
「ところでお前、昨日事故ったんだって?」
事故られたんだよ。
「間抜けだねぇ。でも、今日来たって事は大した事故じゃなかったんだろ。死んでもおかしくない事故って聞いたが」
「運が良かったんだろうね」
それしか言えない。まさかマッドサイエンティストに改造されたとは言えない。一応、元にはもどれたんだから博士の事は言わないでおこう。
「女どもが言ってたぜ。なんで生きてんだってな。お前さん、死んだ方が良かったんじゃないのか?」
そう言われても僕の意思の及ばない事なのでどうしようもない。
「そもそも女どもから徹底的に嫌われてるのによく毎日学校に来れるな?普通だったら登校拒否になるぜ」
普通ならここまで言われたら怒るなり不機嫌になったりするものだろう。でも、僕はある種の優越感に浸っている。彼は誰であれ誰かの前でその人の罵詈雑言を口にすることはない。それは彼が善人だからではない。善人という仮面を被るためだ。しかし、それは彼にとってストレスが溜まるのだろう。だから、唯一本音で喋れる相手、本性を隠す必要のないどうでもいい存在かつこいつが喋ったところで誰からも信用されないだろうし相手にすらされないであろう存在すなわち僕という人間が必要とされるのだ。この学校でいや世界でただ一人どんな形であれ僕を必要としてくれるのだ。また、彼の本性を知っているのは僕だけだから何か得した気分にもなる。僕と彼の間には友情なんてものは存在しない。でも、僕にとって彼は唯一一緒にいても拒絶したりしない貴重な存在なのだ。でも…おかげで昼寝する時間を失ってしまった。しょうがないから次の授業で寝ることにする。
「ここはこーであーでんでもって答えは……」
昼休みが終わり次の授業の時間となった。教師の説明が耳に入って反対の耳から出ていく。うっつらうっつらと眠りへのカウントダウンに入る。この教師は説明しながら黒板に書き込むのに夢中で、生徒が寝ていても気付かないのか放置しているのか、これまで一度も注意されたことがない。寝るにはうってつけの教師なのである。そして僕は眠りに入った…………。
「きゃあああああああっ!!?」
耳を劈く悲鳴が僕の惰眠を突如として終わらせた。一体、なにがあったんだ?魔物でも出たのか?目を開けて状況を確認する。……果て?何でみんな教室の端っこに寄っているのかな?自分の机にいるのは僕だけ。みんなの視線は僕に集中しているようだ。悲鳴の原因は僕?なんで?