終わり(ユメのこと)
「見合い、したの」
「え…」
あたしは耳を疑った。我々は付き始めて八年がたつ。いつものマクドナルド。カウンター席に並んだ状態で、あたしは死刑判決を受けている。
「あ、相手は?」
「うん。薬剤師をしてる」
俺たち付き合ってるよね。
思わず確かめそうになる。
「写真見る?」
見たくない。のに頷いてしまう。
彼女は携帯のギャラリーを開いてあたしに見せた。とても常識的な男性が、写っていた。彼女と並んでいる。彼はタキシードで、彼女は深紅のイブニングドレス。‘
「ドレス、似合ってるよ」
やっとのことでそれだけ言った。
「これって、式の衣装合わせ?」
「うん」
彼女は恥ずかしそうに、嬉しそうにうなずいた。
その日はそれ以上の記憶がない。どうやって家に着いたのかも覚えていない。
次に彼女から連絡があったのは見合いをした日からちょうど一週間後だった。
「もしもし」
「あ、久美?」
久美というのはあたしの名前だ。
「うん、どうしたの?」
彼女は電話口で深呼吸した。
「あのね、結婚が決まった」
嬉しそうなその声。僕は一瞬、電話を取り落とした。
「ごめん、まだ通じてる?」
「うん。大丈夫?」
心配なんかするんじゃない。俺は捨てられるんだろ?
「それでね、式の時のスピーチを書いてほしいの」
僕の時間だけ止まった気がした。
「いいよ。任せて」
付き合い始めたのは今からちょうど八年前だ。二人が通っていた大学のキャンパスで告白した。
「ねぇ、おまえ俺のこと好きだろ」
彼女は黙ってうなずいた。それから八年、喧嘩もしたし仲直りもさんざんした。そして、あたしは3ヶ月前に正式に振られた。多分お見合いはまだ付き合っている頃からしていたのだろう。でなければこんなにスピーディに決まるはずがない。あたしは長い間振られ続けて来たのだ。
あたしは一体何なのだろう?
生きるって何なのだろう?
あらゆる気力がなくなった。
残りの寿命、何に使えばいいのだろう?