告白
「あぁ、それか」
彼女はまるでいたずらっ子のような笑みを返した。
ワインを一口運ぶ。
「あたし、同性愛者なんです」
「へぇ」
ん?
「なんて言ったの?」
「同性愛者。女の人が性的対象者」
俺の顎は落ちた。どう考えていいのかわからない。ピンチに陥った。
「そ、そう。そして?」
彼女は俺の反応をみて、クスクス笑いだした。
「そして、最愛の人に、振られたんです」
「だから死にたいの?」
「そう」
クスクス笑いが止まらない。女の子にしか見えないよ。そう言ってあげたい。
「聞いてもいいかな」
「うん。私が男の方で、彼女は女」
「ふぅん」
頭がいいのか勘がいいのか、彼女は俺の先を読んだ。
「女の子にしか見えないよ」
結局言ってしまった。彼女が男だと主張したことばを否定したかもしれない。俺はそっと隣を窺った。
俺は探偵をしていながら、彼女ほどの勘は働かない。今し方そう思った。
彼女は目を閉じて唇を結んでゆっくり俯いた。
「どうしたの?」
どぎまぎして尋ねる。
「その言葉、待ってた」
「ん?」
「私ね、女に戻りたいんです…」
彼女は俺の顔を真正面から見つめて言った。
「どういうこと?」
俺はまたくだらない質問をした。
「…」
何か言いかける彼女を手のひらで制する。
「待って。俺から言う」
グラスに残ったワインを飲み干す。
「お、俺と…付き合ってください」
彼女はきれいに微笑み、静かに
「はい」
とだけ答えた。