第二話
「私はアリシア・ローゼンバーグだ。貴公の名を聞かせてほしい」
アリシアは真剣だが嬉々とした声でシュラウドに名を尋ねてきた。シュラウドは突然のことに何が何だかわからず困惑している。隣にいるレイネはリンゴ飴を好きなだけ買ってもらえることが余程嬉しいのか、リンゴ飴のことを想像してるのかとにかく顔が嬉しそうだった。
「俺はシュラウドだが・・・」
「シュラウド・・・・・シュラウドか。覚えたぞ」
口元をにんまりとさせながら自分を見ているアリシアを奇妙に思いながら、アリシアを下から上までをみやる。
長く鍛えられた脚は、括れた腰回りは上下が一緒になったライダースーツのような赤い服に包まれ、より細く見える。豊満な胸は黒い胸当てで覆われており、手には黒いグローブ、腰左側には金の装飾の施されたバックラーを、右側には長い剣が鞘に納められぶら下げてある。金の稲穂色の髪は長く、美しい鼻梁と碧い瞳は強い意志が秘められているのが見て取れる。赤いぷるっとした唇の左下にはほくろがあり、そのほくろがより一層アリシアの美しさを際立たせている。
この女、1階のカウンターにいたやつだな。そういえば俺を見ていた気はするが、いったいなんのようなんだか。
まぁ、美人に話しかけられるのは悪い気分じゃないが・・・・・
「それで何の用だ?」
だんだんと腹が減ってきたシュラウドはめんどくさそうにアリシアを見やる。
「ここにいるということは、シュラウドもハンターなのだろう。私はシュラウドとパーティーを組みたいとおもっているのだ。シュラウドのハンターランクはいくつなのだ?」
周りがざわめく。「あのアリシア嬢がパーティーだって」とか、「同じBランクのユナイトの誘いを断ったのに」、「うらやましい」などといった言葉がシュラウドの耳に入ってきた。
「俺はFランクだ」
相当の技量の持ち主だとは思ったが、Bランクハンターだったのかと思いながらアリシアに答える。
「Fランクだと!」
「嘘をつくな。あれほどの殺気を放った貴公がFランクなわけないだろう」
さきほどの殺気に気付いていたアリシアにシュラウドは驚く。
ほんの一瞬放っただけだったんだけどな。
「まぁ。いまさっきハンター登録を済ませたばかりだからな。Fランクのなのは当然だろう」
「・・・なんだ、そういうことか」
「そういうことだから、Bランクのお前とは釣り合わないだろう。」
納得した様子のアリシアにそう言い放ち、レイネをつれアリシアの横を通り過ぎる。
「まて、どこへ行く。まだ話は終わってない」
「腹減ってるんだ、飯食いに行くに決まってるだろう。その話はまた今度にしてくれ」
「なら、一緒させてもらおうか。私も昼飯はまだなんでな」
「好きにしろ」
しつこく食い下がるアリシアにうんざりし、諦めたように肩をすくませる。アリシアはそれを肯定ととったのかしてやったりといった表情でシュラウドの後をついてくる。その表情に少しイラッとしたのか顔を顰める。シュラウドはレイネ以外の者が自分に対して勝ち誇ったりするのが嫌いなのだ。それがたとえとてつもない美人であろうともかわらない。唯一何されても怒らない相手はレイネだけ、レイネにならころされてもいいと思えるほどにレイネを可愛がっているのだ。
レイネと勝手についてくるアリシアをつれて、ギルドから出ようとするとその進路を阻むように4人の男が扉の前にたっている。その男たちは登録を済ませるまえに1階で見かけた、ひげ・はげ・しかめっ面・傷アリのハンターだった。
「おうおう、どこにいこうってんだ。ハンターになったのなら俺たちに挨拶するってのが筋だろうよう兄ちゃん」
右目に傷のあるおっさんが俺に顔を近づけ唾を飛ばしながら話しかけてきた。唾が飛んでいることに気付いてない様子で顔に下品な笑みを貼り付けている。おれは汚い唾と吐く息の臭いに顔を顰めながら相手を睨みつける。何も言わないのは口を開けたくないからだ。おっさんの口臭がすさまじく、息すらとめて臭いの侵入を防いぐ。それでも不快感は拭えなかった。
「なんども誘ってる俺たちとはパーティー組まないで、なりたてハンターと組もうたぁどういうことだアリシア」
傷ありの男はシュラウドから顔をはなし、アリシアに顔をむける。顔をむけられたアリシアは嫌そうに眉間に皺をよせ男をにらみつけた。
シュラウドは男が顔を離したとみるや思いっきり呼吸をした。さっきの時点で攻撃されたらシュラウドは避けることはできなかっただろう。なぜなら、ものすごい口臭のせいで身動きすらとるここができなかったのだ。
いくたびの修羅場を潜り抜けてきたシュラウドだったが、身動きすらとらせなかった傷アリのおとこの口臭に対して冷や汗をかいたのを感じていた。
「おまえたちのような下種とパーティーを組むくらいなら、ゴブリンと組んだほうがましだ」
自分の体を嘗めまわすようにみてくる男たちを睨み付けながらそう言い放った。
アリシアはこの男たちを知っている。ここらでは有名で、なりたての新米ハンターに嫌がらせをする、新米ハンター泣かせの嫌なやつらだ。他にも、女性に破廉恥な行為を働いたり、複数のパーティーを組んでのモンスター討伐の際、自分たちの身が危うくなるとほかパーティーのものを見捨てて逃げるような連中だ。なぜ、いつもこいつらは捕っても罰を受けないのかアリシアは不思議におもっていた。
じつは4人組の男たちは、人の弱みを見つけ、その弱みを使って人をおどしているからだ。騎士団やギルドを運営してる幹部も脅されている。そして、闇ギルドの殺しはばかりが集まる『殺戮の宴』とつながっていると噂されている。このことをアリシアは知らないでいた。
「なんだと、このおんな少し美人だからって調子にのりやがって」
「ザジさん。この女やっちゃいましょうぜ」
ボサボサの手入れのしていないひげづらの男と、つるつるの頭をしたハゲが怒鳴り、武器に手をのばそうとすると、ザジと呼ばれた傷アリのおっさんがとめた。
「やめろや。なにもここでするひつようはねぇさ。だがなアリシア俺たちになめた口きいたことあとでこうかいさせてやるよ」
「それと兄ちゃんとお嬢ちゃんもきいつけときな。おれたちはなにするかわかんねーぜ」
そう言い残して4人組の男たちは去って行った。去りぎわにひげとハゲは舌打ちしながらアリシアをにらんで何か、おそらくくだらん捨て台詞を残していった。
「すまないな。私のせいで、貴公たちもやっかいなやつらにめをつけられたしまった」
「いや、お前のせいではないさ。ここにきたときから、やつら俺たちに目をつけてたからな。それにしても、以前にもあいつらと何かあったのか?じゃなけりゃ、あそこまで怒らんだろう」
ゴブリンのほうがましだと、といわれれば誰だって怒るけどなと思いながらアリシアに尋ねる。
「うむ。以前にも誘われたことがあってな、断ったのだがしつこいから、ぶっとばしてやっただけだ」
「なるほどね」
シュラウドは苦笑して納得した。さっきのやつらはみるからにしつこそうだな。コイツも高慢どうだし、他にも奴らを怒らせることをいったのだろう。
「そんなことより、飯の美味い食堂があるのだが、行かないか」
アリシアはさきほどのことをもう忘れてしまったようのか、自分のよく行く食堂をシュラウドに進める。そんなアリシアにシュラウドは悪いやつではなさそうだと心の中でつぶやく。
3人はアリシアのおすすめの食堂で昼食をとりながら、互いの自己紹介をした。アリシアの言うとおりここの飯は非常にうまかった。レイネも飯の味にご満悦のようで、飯をうまそうに食べるさまは実に可愛かった。レイネとアリシアはデザートを食べながら、この国のことと今までの旅について会話をしている。アリシアがこの国のことをレイネに説明し、レイネがシュラウドとの旅のことをアリシアに話していた。シュラウドは、二人の仲睦しい様に、複雑なかおで2人をながめている。レイネに同年代の友達ができたことにはうれしく思っているが、自分がレイネにとって唯一ではなくなってしまったことに寂しく思う。聞くとこによるとアリシアは18歳のようだ。レイネは見た目は12,3歳ほどだが15歳なのだ。歳の近い異性がいてくれると服を買うときなど助かるとシュラウドはおもっていた。シュラウドは自分ではセンスがあるとおもっているが、旅のなかでであった者たちに、そして、レイネにまでダメだしされて、自信をなくしているとこだったのだ。少なくともここにいる間はレイネの服装のことをアリシアにまかせようと決意していた。
昼食を済ませ、アリシアと親交を深めたところで依頼を済ませることにした。内容はホビーラビットの毛皮10個だ。
「さて、俺たちは依頼を済ませてくることにするよ」
「アリシア……またね」
レイネは相当アリシアを好いたみたいで、ほのかに笑みをみせ手を振る。この場を後にしようとしたところでアリシアは声をかけてきた。
「待て。私もついていくぞ」
アリシアはそういって近づいてきた。レイネと仲良くなってはなれるのがさびしいのかと思ったら、その顔はどこか拗ねたような表情をしていた。常は凛とした表情のアリシアが見せる拗ねたような顔はどこか可愛らしく、おそらく誰にでも見せるわけではないだろうその顔はアリシアもレイネに心許したということだろうか。
「ん?別にいいが、Bランクのお前にはつまらんものだと思うけどな」
「そんなことはかまわないさ。私はレイネが心配なのだ。ホビーラビットが生息しているのは、王都から北にあるミスカの森だ。あそこらには盗賊がいるからな。レイネが襲われないか心配なのだ」
「おれではたよりなくて心配だと、そういうことか」
アリシアがみせる表情は本当にレイネを心配していると伝わってくる。だが、それではまるで自分がレイネを守れない不甲斐ないやつのようではないかと、少しムッとするシュラウド。
「そんなことはおもっていないさ。シュラウドの動き方、雰囲気から強いであろうことはわかるさ。それでもレイネが心配なのだ。ついていってもいいだろう?」
「シュラウド……わたしもアリシアが一緒がいい」
どこで覚えたのか上目づかいを駆使しするレイネにしかたないなといいながら、頭を優しくなでてやる。それを受けながらレイネは嬉しそうに笑う。まぁ、断る理由はないけどな。それにアリシアがいてくれたほうがレイネも嬉しいだろうしな。
「わかった。これからよろしくな」その言葉にアリシアも笑顔をみせて頷く。
それからミスカの森に向かう途中に約束通りに、レイネにリンゴ飴をたくさん買ってやった。レイネは大好物のリンゴ飴を好きなだけ買ってもらえ、さらに初めての友人ができてにこにこだった。




