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第6節『窮鼠、座して死を待つ』

 帰宅の途上、厚手のコートを着た老紳士とすれ違った。まだ11月だというのに、世界はすっかり冬模様となっていた。

「どうだった?」

「無論、余裕だ」

 ずれ落ちた眼鏡をくいとあげながら、季節はずれの汗まみれの顔を誠に向ける様子から察するに直人の答案もきっと『余裕』とは程遠いことになっているに違いないと思われた。

「相野君、相野君ではないですか?」

 呆れた誠が口を開きかけたその時、突如、すぐ後ろから聞き慣れた声がそれを遮ったのだった。

「久しぶりですね、お元気でしたか?」

 誠は恐る恐るなんとか振り返ったものの、すっかりその場に凍りついてしまった。そして、間もなく息が荒くなり始めたのだった。肩で息をする誠は呼吸の仕方を忘れてしまったかのようだった。

「どうしたのです、『あの時』のことは水に流して一つ仲良くしませんか?」

「そうだ、どうしたんだ?ところで君は?」

 直人は誠を気遣いながらも、そう男に尋ねた。

亜礼総司あれいそうじと申します。相野君とはお友達でして……。少し彼と話がしたいのですが宜しいでしょうか?」

「亜礼というと、生徒会長の?」

「はい、そうです。構いませんね?」

「ああ、勿論だ。それじゃあ、誠。明日な?」

「あ……」 

 誠の言葉にならない言葉が直人に助けを求める。しかし、直人はそれを知ってか、知らずか、有無を言わさぬ総司の雰囲気に気圧されて、そそくさと帰ってしまったのだった。

 見れば見るほど、亜礼総司という男は美男子に見えてくるから不思議だった。女生徒からの人気も非常に高い優男だった。その物腰はイギリス紳士を思わせた。

「さて、先程の話だけど、どうかな?過去の清算ですよ」

「何を企んでる?」

「なに……つまるところ、僕の軍門に降らないかということですよ」

 『軍門』だなんて大袈裟な、と人は笑うかもしれない。しかし、現実に『軍』と呼べるような派閥は存在する。俗に言う不良グループのことだ。

「お前のことだ、どうせ下僕にでもなれというんだろ?」

「なら話は早い……」

「断る」

 誠はきっぱりと言った……つもりだった。実際は、総司の眼にどのように映っていたかは定かではない。

「おかしいですね~、相野君の自尊心はこの僕がズタズタにしたはずなのですが。まさか去年のことをお忘れになられたのかな、相野君?」

 指をパチッと鳴らすと、学ラン姿の不良が湧き出るように現れた。

「そうこなくては、確かに面白くない。調教して差し上げなさい」

 総司の毒牙はまさに誠に及ぼうとしていた。誠は覚悟した。

「一枝の馬鹿。これだから学校なんて嫌だったんだ。僕も悪運尽きたようだ」

 誠は呼吸を整え、眼を瞑った。誠はさながら介錯を待つ侍のようであった。


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