刀に
追われる少女の、その後。
少女は荒い呼吸をしながら、寂びれた街の中を駆け回る。
もっと、もっと、もっと。生きたいという欲望のままに走る。
走る。走る。
転げるようにある家の角を曲がった時、初めて少女の足が止まった。
彼女の顔に絶望の色がうきでる。
目の前には、壁。
どうしようもないほどの高さだった。
彼女を追っている相手でも乗り越えられないだろう。
かすれた、浅い呼吸を繰り返しながらも少女は壁にぶつかってゆく。
「壊れろ。壊れろ。ねえ、おねがいっ壊れてよおおっ!」
体をぶつける。 壁をかきむしる。 登ろうとする。
しかし、服が苔で汚れていくだけで、まったく進まない。
その間にも先ほどの足音は近ずいている。
ズルッズルッズルッ
コンクリートに爪を立てる。肉が削れて雨と血がドロリとまじる。
不規則な呼吸をくり返しながら、あるとき少女はフッと肩の力を抜いた。
ゆっくりと振り返る。
その目に先ほどまでの恐怖はない。
全てを受け入れたかのように彼女は微笑む。
目の前の男に向かって。男は片手に斧を持っていた。
男が黄色い不清潔な歯をみせて、ニタリと笑ったその時。
彼の目に短刀がささっていた。一瞬の出来事に男は気付かない。
そしてその次の瞬間、勢いよく目から血が噴き出た。
少し遅れて男のみにくい叫び声が響く。
壁の上からおりてきた女性が、その間に少女をつかんで再び壁を飛び越えた。
唖然とすべてを見ていた少女は、その女性の顔を見てハッとわれにかえった。
「ったく・・・。あんなの助けないわけにはいかないでしょう?
お代はいらないからさっさといきな。あんたも私も、知らない他人。いいね?」
少女はコクコクとうなずく。それしかできなっかた。
「ん。じゃあね。わたし急いでるから。」
ひらりと手を振って女性は優雅に角を曲がっていく。
一人残された少女は、最後にぽつりとつぶやいた。
「あの人・・・RMT社の副社長の・・・」
神さん。短剣使いの影のリーダーだ。