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Dear Friend  作者: 橘 零
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第2章 美優


5月10日。

ゴールデンウィークも終わり、3年生にとっては慌ただしく忙しい、これからの人生の全てを決めると言っても過言ではないほどの大事な日々が始まる。美優も、3年生らしく、朝から慌ただしく走り回っていた。ただ美優の場合、慌ただしいの意味が他の生徒たちと少し違うだけだ。

起きたのは8時。どう考えても遅刻だった。

「美優ちゃん。朝ご飯は?」

「いらない!食べてる時間ないよ」

美優の母である好子がのんびりと尋ねてくる為、美優はムッとしながら答える。

(起きてこなかったら起こしてくれてもいいじゃん)

美優は内心、母親に文句を言いながら準備を急ぐ。

好子は美優よりマイペースな人だった。好子が慌てているところを美優は見たことがなかった。たぶん好子は、世界が明日滅びると言われても、「へぇ~。大変ねぇ」などと、のんびり言うのだろう。

美優はそんなマイペースな母親が大好きだった。それなのに母親に似てしまった自分のことは大嫌いだった。美優と好子は、顔も性格もよく似ており、たぶん端から見たら仲のいい姉妹のような親子に見えるのだろうと、そんな下らないことを美優はよく考えるのだった。

こんな慌ただしい朝にもそんなことを考えている自分に思わず苦笑しながら、準備を終えた美優は、急いで玄関に向かい靴を履く。

「あ、今日は先生と面談があるからちょっと遅くなるからね」

「はい。慌ててるけど気を付けて行ってね」

(だからお母さんのせいで急いでるんだって)

美優はまた、心の中で文句を言いながら玄関を出る。

「わかってる。じゃあいってきまぁす」

「はい。いってらっしゃい」

母の声を背中に聞きながら、美優は軽快、とは言い難いスピードで走り出した。


新しいことなど何一つない、昨日と全く同じような今日が終わる。生徒たちは、ほんの少しでも昨日と今日の違いを見つけようと、暮れゆく街に飛び出していく。そんな後ろ姿を見ながら、美優とエリは廊下に座っていた。

結局、今日も1限目が始まるまでには間に合わず、学校に着いたのは9時過ぎだった。だが、最近では教師もクラスメートも、呆れているのか興味がないのか、美優が何時に来ても何も言わなくなった。それがいいことなのかはわからないが、怒られないことは美優にとってはありがたかった。

学校では今日から、1日8人ずつ、1週間でクラス40人全員を面談する、進路面談が始まる。美優も隼人と面談する為、今日は学校に残っていた。

隣には、エリがいつものように不機嫌そうに座っていた。美優の順番はエリの次なので、エリが呼ばれるまでは一緒に話していられる。それだけで、美優は嬉しかった。

「今日なんで遅刻したの?」

美優が何か話そうと、頭をフル回転させて話題を探していると、エリの方から話し掛けてくれた。

「ちょっと寝坊しちゃったんだ。お母さんが起こしてくれなかったの」

クラスメートは、美優がどれだけ遅刻しようと何の興味もなくなっていたが、エリだけは、こうやって話す機会がある度に、遅刻の理由を聞いてきてくれる。エリが自分のことを心配してくれているのが美優にはわかり、毎回その喜びに飛び上がりそうになってしまうのだった。

「ふ~ん。また寝坊か」

「うん」

今日もやはり会話が続かない。せっかくエリと2人だけで喋る時間が出来たのだからと、美優は必死に話題を探す。

「そういえばエリちゃんは進路どうするの?やっぱり就職?」

「就職もしないし進学もしない。渋谷歩いてりゃお金くれるオヤジいっぱいいるし」

美優が見つけ出した質問に、エリが何でもないことのように落とした爆弾は、美優の心を激しく襲う。

「そ、そ、それって…エリちゃん…そんなことダメだよ!そんな…そんなこと…」

美優がさらに言葉を繋げようとした時、教室の扉が開き面談を終えた女生徒が出てきた。

「神谷さん。次は神谷さんだって」

女生徒は怯えたような声でエリに言う。

「……」

エリは、そのまま教室に入って行ってしまった。美優には、エリがひどく遠い世界に旅立って行ってしまったような、そんな気がした。


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