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Dear Friend  作者: 橘 零
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エリ


授業が終わり、エリと美優は隼人が来るのを教室で待っていた。

タバコ所持なのでおそらく停学だろう。ちょっと早いゴールデンウィークだと考えれば、逆にありがたいくらいだと思っていた。

エリの頭の中には、退学という処罰が下される心配など全くなかった。もしそういう処罰が下されたとしても、それはそれで構わないとも思っていたのだが。

そんなエリの余裕とは対称的に、美優は今日一日ずっと泣きそうな顔をしている。毎日のようにドジを踏むくせに毎回同じような顔をして落ち込むのだ。今日一日ほとんど無視し続けていたが、いい加減この顔にも嫌気が差し、隼人が来るまでの間暇も持て余していたので仕方なく話し掛けることにする。

「痛い?」

「え?」

「膝」

「あぁ。ちょっと痛いけど大丈夫」

美優はエリが心配してくれたことが嬉しかったのか、すぐに表情を崩してそう答えた。そんな美優の膝には、見たことないくらいの大きな絆創膏が貼ってあった。その絆創膏を見るだけで、美優がどれだけ豪快にコケたのかが目に浮かぶようであった。

「エリちゃん、ごめんね。私がドジったせいでエリちゃんにまで迷惑掛けて」

今さっきは嬉しそうに表情を崩していた美優は、次の瞬間には最初の泣きそう顔に戻ってそう謝る。

「別に。いつものことだからいい」

今日だけで飽きるほど聞かされた謝罪の言葉に、しっかり答えるのも面倒だったエリは、軽くあしらうようにそう返した。

「だよね。いっつも迷惑ばっか掛けちゃうもんね」

すると美優は、今日一番の悲壮感を全身から漂わせながら下を向いてしまう。このままだと美優の泣きそう顔が、泣き顔へと進化を遂げる可能性があったので、エリは話を変えることにする。

「なんであたしが吸う為に持たせてるって言わなかったの?」

「だって私がドジったせいでエリちゃんに迷惑掛けたくなかったから」

「チクったら袋にされると思った?」

「ううん。全然思わない。エリちゃんはそんなこと絶対しないもん」

「あっそ」

話を変えたことによって、次はエリが下を向くことになってしまった。

美優は全然わかっていないのだ。ムカついた奴、ウザい奴は徹底的に叩き潰す。それがエリの生き方だった。美優の中でエリは、まだ出会った時と同じ少女のままなのかもしれない。

そんなことを考えていると、不意に扉が開き、隼人が教室へと入ってきた。隼人の表情はどこか釈然としない表情だったが、エリと目が合うとすぐに表情を引き締めた。

「生徒指導部で処分を決めた。2人には反省文を書いてもらう。明日までに書いてくるように。以上」

「…以上?」

美優が不思議そうに首を傾げる。エリは隼人の釈然としない表情が、この処罰の軽さによるものだと確信した。美優と同じように不思議でしょうがないのだろう。

「タバコ所持で反省文だけ?」

エリは、隼人の表情が可笑しく、笑いそうになりながらそう聞く。

「タバコ所持だけで吸った証拠もないし。後は…わからん」

「誰が吸う為に持ってたのか、とか調べないの?」

「…わからん」

「ふ~ん」

やはり隼人にも何が何だかわからないのだ。そんな隼人が滑稽で、真相をお教えしたいところだった。

とにかく生徒指導部と教頭で決めたことだから、以上だ。2人とももう帰りなさい」

そう言うと、隼人は教室を出て行ってしまった。残された美優は呆然としている。エリはそんな美優を無視し、さっさと帰ろうと腰を上げる。

「…よかった」

教室を出かけていたエリの耳に、美優がぽつんと呟くのが聞こえた。

「何が?」

思わず振り返り、そう聞いていた。

「処分が軽くて。私はいいけど、エリちゃんが退学になっちゃったらどうしようかと思ってた」

美優は心底ホッとしたような表情でエリに言う。そんな美優の表情と言葉がエリを苛立たせ、エリは皮肉たっぷりに返す。

「あんたが退学になったら大好きなママが泣くよ」

「そっか。お母さん泣くかな?」

「泣くね。あんたの母親だからね。まぁあたしは停学くらって、1週間早くゴールデンウィークがよかったんだけど」

エリの皮肉にも気付かず、美優は不思議そうな顔でエリのことを見ていた。だが次の瞬間、大きな瞳をさらに見開き、「ああ!そっかぁ!エリちゃん頭いいね。私も停学がよかったなぁ」と言い、笑顔でエリを見つめ返してきた。その笑顔は、出会った時と何ら変わることのない少女のままで、その少女を、優しい光が包み込んでいた。


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