隼人
「は?」
職員室の片隅にある小さな応接間で、隼人は頓狂な声を上げる。
「だから、2人に反省文を書かせてください」
猿渡の耳障りな高音のせいで、ついに聴覚がイカれてしまったのかと勘違いしてしまうほど、タバコ所持に関する処分は軽かった。あまりの軽さに、「反省文だけ、ですか?」と隼人は聞き返す。すると、猿渡は苦虫を噛み潰したような表情で、首を縦に何度も振る。
「今回は反省文だけです。次回はもっと重い処罰になるので、それもしっかり、しっかり言い含めておいてくださいよ!」
そう言うと、猿渡はあっという間に立ち去ってしまった。隼人は多すぎる疑問の数々に、しばらく呆然としてしまう。
なぜタバコ所持でこんなに処罰が軽いのか。普通は最低でも停学、下手をすれば退学になるほどの行為だ。そして、何より疑問なのは、生徒指導部がこの話し合いに全く参加していないことだ。猿渡と隼人。今回の問題に対する話し合いは2人だけで、しかもこんな辺境の、汚らしい応接間で行われた。
回答の見つからない疑問の数々に、隼人の頭は中々整理出来なかったが、とにかく教室で待つ2人に結果を伝えようと立ち上がる。その時、隼人はエリの挑発的な笑みを思い出した。猿渡に対するあの態度は、自分が退学させられないことを確信しているようだった。その確信があったから、美優を庇った。
隼人は、あの2人の関係が今まで以上にわからなくなっていくのを感じていた。見えない糸が絡み合い、どれが本物でどれが見せかけの糸なのか、判別することが出来ない。そのことが、隼人を無性に不安な気分にさせ続けているのだった。