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Dear Friend  作者: 橘 零
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美優


「今日も暑そう」

今朝、美優は病院の固いベッドで目覚め、1人呟いた。病院内は当たり前ではあるが、非常に快適な温度に保たれており、美優はこの記録的な猛暑を、想像で感じることしか出来なかった。

美優は意識を取り戻してからの2週間、ずっとエリのことを考えていた。エリはあの日以来1度も会いに来てくれていなかったが、美優は全く気にしていなかった。エリが自らのことを許せない間は会いに来ないだろう。そう思っていたのでショックはなかった。ただ美優は、エリが1人で苦しんでいるのにそばに居てあげられないことが辛かった。私は何も気にしていない。そう何度も何度も言ってあげたかった。

美優がそんなことを考えながら1人悶々としていると、目の前に影が落ちる。瞬間、珍しく雲が太陽を隠したんだなと思った美優だったが、先ほど窓から見えた快晴の青空を思い出す。そして、不審に思い顔を上げると、そこには隼人の白い顔があった。

「ひゃっ!」

美優は思わず悲鳴を上げ、後ろに飛び退く。だが、飛び退いた先には隼人の顔と同じくらい真っ白な壁が待ち構えており、その壁に頭をぶつけた美優は思わず顔を顰める。

「だ、大丈夫か?」

隼人は美優が頭をぶつけたのを見て、慌てたようにそう言った。心配そうに美優のことを覗き込む隼人の顔は、思ったよりも白くはなく、しっかりと血の通った顔だった。

「あ、…はい。すみません」

「いや、いいんだ。俺は幽霊か何かに見えたかな?」

美優は隼人のその言葉を聞き、痛みも忘れて必死に首を振った。そんな美優の姿を見て、隼人は苦笑いを浮かべながら椅子に腰掛ける。

「そんなに否定しなくても大丈夫。そんなに否定されたら逆に不安になるよ」

「あ、そうですよね。すみませんでした」

「大丈夫。そんなことより本当に頭は大丈夫か?」

隼人は再び美優の頭を心配する。頭に包帯を巻いた人間がその頭をどこかにぶつければ心配になるのは当然だろうが、当の美優は本当に痛みも感じていなかったので、「大丈夫です」と答える。答えた後に、美優はふと疑問に感じたことを聞いてみることにした。

「そういえば今日って始業式ですよね?先生は行かなくていいんですか?」

すると隼人は、その質問を待っていたかのようにすぐに答えを返してきた。

「学校に行く前にちょっと寄ったんだ。学校には佐藤に会ってから行くと伝えてある」

「そうなんですか。なんか…すみません」

美優は学校に行く前にわざわざ病院に見舞いに来てくれた隼人に悪いと思い、ペコリと頭を下げた。だが、隼人はなぜ美優が頭を下げたのかわからなかったようで、不思議そうに見つめ返してきた。その視線が思いの外強く、美優は恥ずかしくなってしまいすぐに目を逸らし、下を向いてしまう。

「あ、いや、あの、わざわざ来てもらってすみません」

そして、そう言い直してもう一度頭を下げる。すると、ようやく意味がわかったらしい隼人は慌てて言う。

「いや、いいんだよ。気にしないでくれ。聞きたいこともあったしな」

「聞きたいこと?」

隼人の言葉を聞き、次は美優が不思議そうに隼人を見つめ返してしまった。だが、美優がいくら見つめても、隼人が目を逸らすことはなかった。それどころか、その視線を真っ直ぐに受け止め続けた。そして、隼人は言う。

「佐藤は神谷の友達か?」

あまりに突拍子もない質問に、美優は戸惑う。隼人もそれに気付いたようで、少しだけ下を向き、質問の真意を語り出した。

「突然すまない。だが聞いておきたかった。俺は神谷が1人で生きているわけじゃないってことを伝えたい。神谷を救い出したい」

その言葉は小さな声だったが、心の芯を揺さぶる、強い言葉だった。

「だから聞きたい。佐藤は神谷の友達か?」

美優の口は、何かを考えるよりも先に動いていた。

「はい。私とエリちゃんは友達です。それに、靖子ちゃんと知香ちゃんも。4人は友達ですよ」

隼人は、「そうか」と言い、ゆっくり顔を上げる。その瞳は、先ほどよりも強い意志で、美優のことを貫いていた。美優は、目を逸らさなかった。その意志とシンクロするように、微笑み返していた。


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