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Dear Friend  作者: 橘 零
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エリ


麗子の運転する車は、信じられないくらいのスピードで走り、エリは目を瞑り、必死にそのスピードに耐えていた。ほんのわずかな時間目を瞑っていたはずのエリが次に目を開けた時には、車はもう停止していた。

停止した車の中で、エリが放心状態になっていると、麗子が身を乗り出すように目を覗き込んでくる。その表情は楽しげで、エリが放心状態になることを予想していたかのようだった。

「大丈夫?」

全く心配していない口調で聞く麗子に腹が立つ。はずだったが、あまりにも衝撃が大き過ぎたのか、エリは自然と首を縦に振っていた。

「…大丈夫です」

「そう。よかったわ。じゃあ行きましょ」

そう言うと、麗子はあっという間に車から降り、スタスタと歩き始めてしまう。エリはフラフラする体を必死に動かし、麗子の後を追った。

麗子の後ろを歩きながら、エリは少しずつ冷静さを取り戻し、周りを確認する余裕も出始めていた。歩きながらゆっくりと周りに視線を巡らせてみる。おそらく今いる所は地下駐車場だろう。いつ地下に下りたのかもわからなかったが、ここが麗子の自宅なのだろうか。麗子は相変わらずかなりの早足で歩いているが、その歩き方はとても美しく、あの槙村隼人と姉弟だとは思えなかった。

しばらく歩くと、麗子はエレベーターの前で立ち止まり、上ボタンを押す。

「何階に住んでるんですか?」

エリは無言の空気が嫌で、たいして気にもならないのに質問をしていた。

「7階よ」

「結構高いんですね」

「10階建てだったかな。駐車場に入る前に見なかったの?」

「そう…でしたっけ?あんまり見てなかったから」

エリは内心、見れるわけねぇだろ!と思っていたが、口には出さずに、適当にごまかす。そんなエリの答えを聞いて、麗子は首を少し傾げ、微笑んでいた。その瞬間、エリはこの女刑事がわざとそんなことを言ったのだと気付いた。

「悪魔!」

……そんなことを麗子に言えるはずもなく、エリは降りてくるエレベーターの階数表示を睨み付けていた。

チン。という最新のマンションには似つかわしくないレトロな音とともに、扉が開き、麗子とエリはエレベーターに乗り込んだ。

「ご飯食べた?」

エレベーターが動き出すと、麗子が正面を向いたまま聞いてくる。

「まだです」

「そう。じゃあ麗子姉さんがあなたに手料理をご馳走してあげる」

「姉さん?」

麗子の言った言葉に、エリは思わず笑い出しそうになる。だが、当の麗子は真剣そのものという表情のままだった。

「そうよ。端から見れば姉妹みたいに見えるでしょ?」

「姉妹って…」

2人の年齢差を考えれば到底姉妹とは思われないだろうが、見た目だけで言えば、麗子の言うように姉妹に見えてしまうのが不思議だった。

「それは、あたしが老けてるってことですか?」

エリは、実際には全く腹を立てていなかったが、少しだけ不機嫌そうな声音に変えて問い質してみる。「まさか。エリちゃんが老けてるんじゃなくて、私がピチピチなのよ」

麗子はエリのそんな変化など無視し、開いたエレベーターの扉から、さっと7階フロアに足を踏み出す。

「ピチピチなんて今時使わないっつうの」

麗子には聞こえないくらいの声でエリは呟き、その後ろ姿を追い掛け、エレベーターを抜け出す。そうやって1人文句を言うエリは、ほんの少しだけ微笑んでいた。


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