美優
美優は夢を見ているようだった。晃太とデートなんて夢としか思えない。美優は1日中、夢見心地のまま過ごしていた。その為、映画の内容なんて全く覚えていないし、晃太が何を話していたのかも、自分が何を話したかも定かではなかった。
「美優ちゃん」
「え?なに?」
夢のような時間の余韻に浸っていた美優は、晃太に呼ばれて我に返る。だが、次の言葉は聞こえてこなかった。美優は自分が聞き逃したのかと思い、慌てて晃太の方を見る。すると、晃太は真剣な眼差しで美優を見ていた。
「今日は楽しかった。…また遊んでくれるかな?」
「え?あ、…うん。こちらこそよろしくお願いします」
美優はすぐに視線を逸らし、軽いパニック状態で答える。まさか次のデートの約束まで出来るとは思ってもいなかった。
「よかった。じゃあまたメールするね」
「うん。…待ってる。じゃあ、ばいばい」
2人は手を振って別れる。晃太は何度もこちらを振り返っては手を振っていた。もちろん美優も。
今日はなんて幸せな1日だろうか。そんなことを考えながら公園への道を歩く美優の顔は、ずっとニヤけていた。晃太とデートした後にエリが泊まりに来るのだ。美優にとっては世界一贅沢な1日になるはずであった。
そんな幸せな考えに浸りながら歩いていたら、約束の時間よりも1時間も早く待ち合わせ場所に着いてしまった。それでも待たせるよりはいいかと、美優は噴水前に座ることにした。
暗くなっても尚、真夏の暑さは残っていたが、噴水の前に座っていると、少しだけ気温が下がったような気がした。
(今日はエリちゃんに何を話そうかなぁ?あ!始めにお礼言わなきゃいけない。エリちゃんのアドバイスのおかげで、大村君とデート出来たんだから)
相変わらず美優の顔はニヤけたままで、端から見たらおそらく、いや、確実に公園に現れた変質者だった。もちろん美優にそんな自覚があるわけないので、月明かりに照らされる怪しいニヤけ顔を保ったまま、1人エリの到着を待っていた。だが、エリを待っているはずの美優の所にやって来たのは、3つの黒い影であった。