第3章 美優
7月30日。
美優はベッドの上で携帯とにらめっこをしていた。勝敗が着くことは一生ないにらめっこだった。
携帯の液晶画面にはメールの編集画面。その文面は、“私、観たい映画があるんだ。大村君は映画とかって観ないのかな?”だ。
エリのアドバイスを受けてから、美優は毎日のようにこのメールを送ろうとしていた。だが、あとは送信ボタンを押すだけ、という状況になるとどうしても指が動かなくなってしまうのだった。
「う~ん…これならストレートに誘ったほうがいいかなぁ?」
そう独り言を言いながら新たな文面を作成する。
“観たい映画があるんだけど2人で一緒にどうかな?”
「2人で一緒になんて無理無理。そんなの送れないよ」
削除。
美優は自分で作ったメールに赤面してしまう。
「もっと気楽な感じで送ったほうがいいかな?」
“映画でも観に行こうよ。面白い映画があるんだ”
「軽いかなぁ?もうちょっと礼儀正しくかなぁ?」
“映画でもご一緒しませんか?”
「…他人行儀すぎるかな?」
“レッツ・ゴー。ムービー!”
「……」
削除。削除。削除。
「ダメだぁ!どうしよう?」
美優は、メールを作成しては削除するという行為を繰り返し行う。気付くとメールを作成し始めてから、もう2時間近く経過していた。
「やっぱり最初のにしよう」
そう言って、一番最初に作成したメールをもう一度作成する。
“面白そうな映画があるんだ。大村君は映画とか観ないの?”
「あれ?こんなんだったっけ?なんか違う気がする。まぁいっか。よし!……えい!」
最初のメールとは明らかに違うメールを、気合とともに送信する。画面に送信完了の文字が出ると、また赤面してしまった。
「…送っちゃった」
呆然とベッドの上に寝転がる。あれほど悩んでいたメールも、送ってしまえば何ということもなかった。
「あれで伝わるかなぁ?」
今頃になって大したことを送っていないことに、美優は気付く。大したことを送っていないのだから、何ということはないに決まっているのだ。
メールの文面で悩んだ後は、晃太に自分の意思が伝わったかどうかで悩んでいると、美優の携帯が大きな音を立て鳴り響く。ベッドに寝転んでいた美優は飛び起き、すぐに携帯を取る。
「来た…」
送ったことよりも、返信がこんなにも早く来たことに、美優は動揺する。そして、次は受信したメールを開くかどうかで悩むことになった。
「…よし!」
しばらく悩んだ後、開くことを決意し、気合とともに恐る恐るメールを開くとそこには、“観るよ。美優ちゃんと一緒に観たいな…なんて思ったりして。”と書かれていた。
「…うそ?本当に誘われちゃった」
美優は驚きのあまりメールを何度も読み直す。そして、何度読み直しても文面が変わらないことを確認すると、またも赤面してしまった。
「どうしよう?恥ずかしくなってきた。よし…寝よう」
美優は自分を落ち着けようと布団に潜り込む。だが、緊張と興奮で全然眠気がやってこない。…と思っていたが、3分後には夢の中へ旅立っていた。