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Dear Friend  作者: 橘 零
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美優


(歩くの速いなぁ)

美優はそんなことを考えながら必死にエリについていく。エリが家に泊まってくれるのは、この雨の中で何時間も過ごしたくないからだろう。そう考えると、美優は両手を合わせて上空を覆う雨雲に感謝したくなってしまう。

その喜びを噛み締めながらも、歩き始めて10分以上経った今まで、一言も会話を交わしていないことに焦りを感じていた。

美優は、何でもいいから話さなければいけないと必死に考える。

「最悪」

「え?」

美優が頭をフル回転させて話題を探していると、突然エリの声がした。

「水溜まり」

一瞬何のことかわからなかったが、前方を見てエリの言った言葉の意味を知る。

「本当だ。大きい水溜まり」

2人の前方に、道幅いっぱいに広がった水溜まりがあったのだ。通るには水溜まりの中を歩かなければいけない。

しばらく立ち止まっていたエリだったが、溜め息を吐いて水溜まりの中に歩を進める。それを見た美優も、慌てて後に続いた。

1歩目で靴の中に水の入る感覚があり、その次の瞬間には、美優の靴下は水を吸い始めた。かなりの不快感の中、何とか水溜まりを抜けた2人だったが、靴の中は濡れてグチャグチャになってしまっていた。

エリは顔を顰めて、一層不機嫌そうな顔になりながら歩き続けていたが、美優は足元の不快感など忘れ、昔あったある出来事を思い出していた。

「エリちゃん」

「何?」

やはりエリはかなり不機嫌な様子だったが、美優は構わず話し続ける。

「6年生の時にさ、私とエリちゃんが今日みたいに一緒に帰ってて、私たちの横をトラックが走り抜けた時に水溜まりの水を跳ね上げてさ、私だけびしょ濡れになっちゃったの覚えてる?エリちゃんは私の陰にいて、私だけびしょ濡れになっちゃったの。あの時、エリちゃんが走り去るトラックに向かって、ふざけるな!って怒ってくれて、しかもエリちゃんの家で制服も乾かしてくれて、お風呂も入らせてくれたよね。私、びしょ濡れになったのにすごい幸せだったの覚えてるなぁ」

美優はその時のことを思い出しながらエリに説明しているつもりだったが、いつの間にか本当に幸せな気分になっていた。笑顔でエリの顔を見ると、エリは下を向いたままスタスタ歩いて行ってしまう。

(違う話のほうがよかったかな?)

エリの表情を見た美優が、そんなことを考えながら歩き続けていると、もうすぐ美優の家に着くという頃になってようやく、エリが言葉を発する。

「覚えてない」

エリの言葉はその一言だけであった。そして、その一言が嘘であると、美優は知っていた。


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