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Dear Friend  作者: 橘 零
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エリ


7月4日。

シトシトと降り続ける雨が、窓を濡らす。窓から見える景色は、ここ数日ずっと灰色だった。エリの心は、降り落ちる雨粒と同じように、落下を続けていた。

梅雨の長雨で渋谷に繰り出すのも嫌になり、1週間以上、知香と靖子の家を行ったり来たりで過ごしていた。

そんなエリの気分とは対称的に、生徒たちのテンションは高かった。なぜなら今日で期末テストは終了。もう夏休み気分で学校に来ている生徒が大半だったからだ。そういう周りのテンションも、エリをイライラさせる原因の一つであった。

そのような負の連鎖は続くもので、今日は知香と靖子に用事があり、泊まることが出来ない。2人とも彼氏と“お泊まり”らしい。そんなところに無理矢理泊まりに行って、見たくもないものを見せられたら、本当に人殺しをしかねないので、仕方なく諦めることにしたのだ。

雨の中、渋谷の街を歩く気分ではないし、どうしようかと朝から考えていると、美優が音も立てずにやってきて、「エリちゃん」と話し掛けてきた。なぜいつも機嫌の悪い時にばかり話し掛けてくるのだろうか。美優はエリをイラつかせる才能だけは抜群で、その苛立ちを隠そうともせずに、エリは答える。

「何?」

「この前買った服とか、まだ家に置いてあるけどいいの?」

美優の用件は実に下らなかった。

「そのまま置いといて。あたしが帰ってないの知ってるでしょ?またいる時に取り行くから」

エリは強い口調で言い、その直後に気付く。美優がまた、あの顔になるということに。

「ごめんね。じゃあいる時に言ってね」

気付いた時にはもう手遅れで、美優は得意の泣きそう顔でしょんぼりしてしまう。エリはその顔を見て溜め息が漏れる。どうしてこうも毎回、同じようなやり取りばかり繰り返さなければならないのか、苛立ちを通り越して、呆れるしかない。

「そうして。使う時に言うから」

「うん。わかった」

そう言い、席に戻っていった美優は、体全体から悲しみのオーラを全開に放出していた。その姿を呆れながら見ていたエリは、美優の家に泊まろうかと思い付く。ここ何年も美優の家に行っていないので、久しぶりに行ってみようと思い、しょんぼりと席に座っている美優をもう一度呼び寄せ、聞く。

「ねぇ。今日みぃの家に泊めてよ」

すると、美優の泣きそう顔が、みるみる笑顔になり、輝き出す。

「うん!いいよ!エリちゃんとお泊まりなんて久しぶりだなぁ」

「じゃあ行くから」

「わかった。じゃあ、一緒に帰ろ?」

「いいけど」

「やった!早く授業終わらないかなぁ」

さっきまでの悲しみオーラはどこへやら。再び自分の席に戻って行った美優は体中から幸せオーラを全開に放出していた。その美優の姿を、エリはなぜか見ることが出来ずに目を逸らす。先ほどまで見ることが出来ていたはずなのに、突然見ることが出来なくなってしまった。

美優は、エリの一つ一つの言葉に、様々な感情を見せる。喜び、悲しみ、幸福、絶望。

美優には自分が必要なのだ。その気持ちを知りながら、都合のいいように利用している自分に、エリは激しい嫌悪感を感じた。

窓の外を見る。外は相変わらず雨が降っており、見上げると、空はどんよりと濁って、遥か彼方まで灰色に染まっていた。まるで、エリの心の中を見ているようであった。


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