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7:見送り

 エリック兄さんが王都に向かう日がやってきた。俺がエリくんティウスを失う日である。3年で戻ってくる?違う、次に会う時はエリック兄さんは15歳、エリくんティウスとしての資格(12歳以下)を失っているのである。これは永劫の別れだ。


「では父様、母様、アルク、行ってきます」

「ああ、エリック、王都でもしっかりと学んでこい。それにそこで出来る友情は私たち貴族にとっては一生ものだ。心許せる友人を見つけてくるといい」

「エリくん、楽しんできてね。お母さん、大きくなったエリくんに会えるのを楽しみにしてるから」

「兄さん、行ってしまうんだね…。かわいい弟を置いて行ってしまうんだ!!」

「いやアルクが欲しがっているのは兄ではなくサラへの盾なのはわかっているからね?」


 なんということでしょう、このアルクくんの無邪気さに隠されていた神算鬼謀はイケメン完璧超人エリック兄さんには見抜かれていたらしい。伯爵家跡取りとして非常に頼りになる、従者の方々も将来安心だろう。僕はお先真っ暗だけど。


「まあ僕でも1年間メイド、執事たちの協力でなんとか逃げ切れたし、魔法戦闘ができるアルクなら3年間頑張れるでしょ。アルクから頼られた1年間お兄ちゃんとしての役割は果たしたよ?」


 なんということでしょう、エリック兄さんからこれまで感じたことのない圧を感じる。最初は高ランク冒険者から魔法を学べる機会をもらったと思ったら捕食者からの盾にされたことに気付きしっかりと怒っていたらしい。


 兄さん付きの執事もクスクス笑っている。後で聞いたところによると騙されはしたが被害としてはかわいらしいもの、女性を捌く練習にもなるということで執事的にはエリック羊の鍛錬兼勉強としてウェルカムだったそうだ。決してサラに追われて、怯え、逃げ惑う兄さんを楽しんでいたわけではないとの供述だ。うーん、NOTギルティ。


「仕方ないね…。王都のお土産なにか送ってきてよ!」

「なにか良さそうなのがあればね」


 そう言って兄さんは王都に向かっていった。兄さんが向かった王都の学園はその名を王立ベルデ学園と言い、軍事系、商業系、政治系、技術系、魔法系、医療系と多種多様な学部を持つこの国一番の学園だ。国中に多くある学園の中でも魔法科はベルデ学園のみであり、魔法使いは全員そこに通う。魔法科は学費、寮費は完全に無料。これはどのような魔法でも戦闘、生活、生産面での活用が見込まれ、平民にも一人でも多く正しく安全に使える人が増えたほうが国益に叶うという国王の方針によるものだ。


 現在の王となってから本洗礼と魔法科は国庫負担となり、魔法使いの数、質共に激増。今では平民の魔法使いが領地経営の役に立つ例も珍しくない。共に学んだ貴族、平民が互いにその苦労を知るなどの相互理解も促進された結果、今の貴族、平民間の距離が近い国風になったらしい。


 後継者争い直後、若くして王となった現ベルデ王が最初に着手した魔法科への改革は、貴族平民の距離が近くなったことで防諜としても機能し、多方面にわたったその好影響はベルデ王は希代の買い物上手であるとの評価をもたらした。彼の提案する予算は円滑に執行され、その度に多方面に好影響を与え、瞬く間に荒れた国を立て直した。彼が欲しがっても組まれない予算は毛生え薬以外にないと言う。


 国王、ハゲてるのか…。そして発毛剤買ってもらえないのか…。まあ、現代日本でも即効性ないし個人差あったしな…。


「…アーくん、エリックくんも行っちゃったし、明日のからは領内を回って魔法の実地訓練をするよ」

「実地訓練?」

「実際に外に出て、住民の困りごとを魔法で解決していくの。困ってる人がいるかわからないし、どんなことで困っているかもわからないけど、問題解決能力、魔法の応用が学べるし領民との距離も縮まる。領地の視察も兼ねられる訓練だよ」

「おお、すごいお得な訓練だね!」

「…うん、お得。カイルさんにはもう話してあるし、場所によっては泊りがけで行くからそのつもりでいてね」

「わかった!」


 この訓練では目的としても様々なケースを対応しておきたい、となると様々な街、村を回る必要があるのだろう。場所によっては日帰りもできない、お泊り旅行のようで楽しそうである。この世界では遠出となると基本は馬車移動、食料も必要だし、リースに準備とかあるか確認しておこう。


「当日は私もお供しますし、準備は滞りなく進んでおります。視察スケジュールも凡そ決定、先方にも通達が行ってますのでアルク様は心構えだけお願いします。」


 さすがお姉ちゃんもう準備終わってた。明日は練習として屋敷のあるこの街、次から領内の村々となる。村を回る時はシルバが御者として、リースが供として付き添い、ガーランドとサラが護衛をしてくれる。


 護衛が最低限なのはそれで充分な実力を持つ2人なのと、そこそこの魔物程度ならついでに俺の戦闘訓練にも使えるからとのことだ。訓練に向かうついでに訓練をさせようというその発想。訓練の詰め放題かな?


「ああ、それとアルク様」

「何?リース?」

「泊りがけの間はサラ様にお気をつけくださいね、私とシルバ父様も警戒はしますが」

「……」


 俺はエリック兄さんが家を離れることで少しセンチメンタルになっていたのだろう、そのことで咄嗟に気付くことができなかった。普段の俺であれば即座に気付くことができただろう。いや、だからこそサラは見送りのタイミングで訓練のことを言い出したのだ、俺にサラの狙いど真ん中160km/hのストレートを見送らせるために。 


 邪痴好色の捕食者が今、俺に牙を剥こうとしていた。

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