4:新任講師
とても早い1年だった。一瞬で走り去っていく1年間だった。走る、ぶっ倒れる、走る、ぶっ倒れる、走る、ぶっ倒れる、走る、訓練、ぶっ倒れる、走る、訓練、ぶっ倒れる、走る、訓練、訓練、ぶっ倒れる。走っていたのは時間ではなく俺だった.
ガーランドが満足できるまで走れるようになったら今度はぶっ倒れるまで武術の訓練、それも耐えられるようになったら追加でぶっ倒れるまで武術の訓練。仕事を早めに終わらせるほど仕事が増える前世を思い出すブラック訓練だった。
気絶から復活すると魔法訓練をしたが初級程度しか使えないので実践はそこそこに基本は座学。魔法という形に頼らなくとも魔力によって水属性なら水、火属性なら火を操るなどはできるため実践も基礎的な初級魔法の後は主に魔力操作を用いた対象の操作だった。
といっても出力の低い俺ではあまり大量に操作することはできない。ただ色々と試していたら複数属性の魔法を同時に発動、操作することができた。お湯が出せれば便利じゃないかと火、水の同時発動をできないか試していたらできた形だ。
エリック兄さんに聞くとたまにできる人がいるが、そのための魔力操作が難しい上に複数属性持ちが少ない、そのため余り研究もできておらず体系化されていない技術と言っていた。暇つぶしに魔法で遊んでいたり、本を読む明かりの光魔法と日常的に魔法を使用していたおかげで魔力の操作精度が上がっていたのが功を奏したらしい。
「ガーランド少しいい?」
「おう、どうした坊主」
せっかくできることが増えたのだ、Aランク冒険者のガーランドならなにか便利な使い方を知ってるかもしれないし、なんなら同じことができる相談相手も教えてくれるかもしれない。
「坊主その年で別属性の多重発動ができるようになったのか、やるじゃねえか。」
「多重発動?」
「ああ、複数の魔法を同時に発動することだ。一つの属性でやるなら魔法がある程度できれば可能だが、別属性でやれるのは冒険者でも一握りのやつだな。俺もできるやつは数人しか知らん。」
おお、どうやらかなりの技術らしい、すごいぞ俺、やればできるぞ俺、お湯が欲しかっただけだけど。
「流石に別属性の多重発動となると教えられるやつも少ないからな、シルバの爺さんも基本的な魔法ならともかく、それとなると無理だろう。俺の知ってるやつを紹介してやる。」
「おお!ありがとう!」
「なに、しっかり覚えないと戦闘に活かせないからな。それに坊主の魔法出力に、武術の才能じゃそれらを同時に扱えなけりゃ話にならん。魔法だけ、武術だけ、どっちでも勝てない坊主は魔法と武術、どっちも使って勝ちに行くしかない。それにはしっかりした訓練をする必要があるってだけの話だ」
あれ、便利な使い方知りたかっただけなのに訓練の方向になってしまった。やばい、ガーランドは冒険者だから最初に考えるのは戦闘なのだ。これは相談相手を間違えたかもしれない。
「ただ紹介するやつを雇うか決めるのは旦那だし、俺にできるのは紹介だけだ、あいつは少し難しいやつだが、まあアルクなら大丈夫だろ」
「うん、それで十分だよ、ガーランドありがとう!」
「おう」
それから1週間が経ち、部屋で本を読んでいるとリースから声をかけられる。
「アルク様、魔法講師の方がお見えになりました。」
「わかったよ、ありがとうリースお姉ちゃん」
「応接室にお待たせしております、旦那様も向かっておりますのでそちらにご案内いたします」
ガーランドが紹介してくれた人が屋敷に来てくれたみたいだ。先日父さんに相談したら実際に会ってみて、お互い問題なければ講師として雇うとその場で決まった。才能があるならばそれに対する投資を一切ためらわない、実家が太いって素晴らしいね。
「お待たせしました」
「来たかアルク」
「よう坊主、紹介するぜ、こいつがBランク冒険者のサラだ。水、火、風の3属性魔法使いで全て上級を扱う、これ以上の魔法使いは一人しか知らんし、そいつは自由すぎるから講師として留まるのは向いてねえ」
「…サラ、Bランクの魔法使い。3属性使えるけど得意なのは風。よろしく…」
応接室には父さん、シルバ、ガーランド、魔法使いの女性が待っていた。帽子にローブとみただけで魔法使いとわかる肩口まで伸ばしたサラサラの銀髪が綺麗なスタイルのいい女性だ。
「アルク・スティングです。使える属性は全て、ただ出力がDしかないため中級以上は使えません。今後、サラさんに魔法を教えていただければと思っています」
「どうだ、サラ、お前好みの生徒じゃないか」
「うん…、アルクならアーくんだね、講師をしてもいい…」
いきなりのあだ名である。大人しい口調、雰囲気と裏腹になかなかなパリピなのだろうか。
「ふむ、サラさんが問題ないというなら講師をお願いしたい、期間はアルクが学園に入学するまでの5年間。ガーランドと同じく住み込みで依頼料はこのぐらいで大丈夫だろうか」
「…問題ないです。5年という期間も丁度いいです」
「では細かいところを詰めよう、シルバ紙と筆を頼む」
「かしこまりました」
父さんとサラが雇用契約を確認していく。しかし思った以上にあっさりと決まってしまったため暇になってしまった。難しい人だと聞いていたのにそんな感じは微塵もなかった。
「ねえガーランド」
「なんだ坊主」
「難しい人だって言ってたじゃない?話してみたらそんな感じしないんだけどなんだったの?」
「ああそれな、あいつ自分が興味ないことはやろうとしないんだよ。まあ坊主なら問題ないし楽勝だとは思ってたがな」
「そうなの?全属性持ちに興味があるとか?」
「いや?あいつショタコンなんだよ」
「は?」
「だからショタコン、12歳以下限定の」
ショタコン…?それは世にいう年若き男子を主食とするお姉さま方のことであっていますか?あっている…?そう…。さっき言ってた5年間が丁度いいってもしかしてそういう…?
「とりあえず5年は戸締りに気を付けろよ、坊主にはリース姉ちゃんという頼れる護衛はいるが、サラもBランク冒険者だ。貞操を奪われないようにな」
契約の話をしながらもチラチラとこちらを見てくるサラの意図を理解した俺はリースの陰に隠れて震えることしかできなかった。助けてお姉ちゃん!




