3:訓練スタート
午前に勉学、午後から魔具、魔法の訓練をする予定だったが全適正であったこと、魔具が特殊であったことから大幅なカリキュラムの見直しが行われた。やらないとならない訓練が多すぎてとても時間が足りないのだ。もともと算術の講義をスキップしていたために勉学の時間には余裕がある、勉学を夜の最低限にし、午前から昼過ぎ程度まで武術を、その後から夜まで魔法の訓練を行う、その魔法の時間も俺は初級魔法しか使えないので進み具合によって武術の時間に回すとのことだ。
スティング家には屋敷の隣に訓練場があり、土製の大きなトラック、内側に一回り小さい石畳のトラック、さらに内側には土と石2種類の模擬戦場、トラックから外れたところには魔法用の訓練、模擬戦場が設営されている。そこでは朝早くから騎士団が全体訓練を行っており、ウォーミングアップなどを終えた後はそれぞれの適正に合わせたグループに分かれて昼まで訓練を行う。
訓練にエリック兄さんと加わり、ウォーミングアップを終わらせたら魔具が槍のエリック兄さんとは別メニューとなる。
「アルク、お前は特殊なので個別に講師を雇っている、紹介しよう」
「はい、父様」
ウォーミングアップを終えたところで父さんから話かけられる。様々な武具に形状を変える俺の魔具では他の訓練に加わってもいいがそれでは非効率ということで専用の講師を雇ったようだ。
「Aランク冒険者のガーランドだ」
「よう、面白い魔具を持ってる坊主ってのはお前か」
「あ、はい。アルク・スティングと言います、よろしくお願いします。」
「貴族様なのに冒険者相手に礼儀正しいなおい。6歳なんだもっとガキらしくしとけよ」
紹介されたのは冒険者だと一目でわかる筋骨隆々なおっさんだった。高い身長、手入れのされていない無精ひげ、重そうな大剣に所々痛みのある機能性重視の防具。粗野な言葉遣いと相まって余りにもテンプレ冒険者すぎて感動を覚える。
この世界にも冒険者という職業があった。魔物を狩ったり依頼をこなしたり、遺跡や迷宮を探索したり、戦時には傭兵のようなこともしたり言ってしまえばなんでも屋である。初めて屋敷を抜け出したときにギルドを覗きに行ってみたが、冒険者に絡まれるようなテンプレ展開はなく、ひたすらに可愛がられてお菓子やジュースをごちそうになってしまった。強面にも怯えない子供は珍しくかわいくてしょうがなかったらしい。命の危険と隣り合わせな仕事をしているからか父性や母性に飢えているようだった。そういう意味では怖い場所だった…。
Aランク冒険者というのは冒険者の中でもトップオブトップ、その上にはSランクしか存在せず、Sランクはドラゴンを倒すなど伝説級の活躍をしてなる言わば名誉ランクだ。そう考えるとAは事実上の頂点だろう。
「Aランクの方に教えていただけるのはありがたいですが、ガーランドさんはなぜ受けてくださったのですか?魔物を狩ったりしていた方がもっと稼げるのでは?」
「ああ、俺ももうすぐいい年だしギルドから支部長になってくれないかと打診されていてな。我の強い冒険者は強いやつ相手じゃないと言うことを聞きやしねえ、だから支部長には実力が何より必要とされるんだ。坊主の講師をやるのは支部長になる前に、人に教えたりと言ったことへの練習だな。」
「なるほど、そういうことですか」
「アルク、お前は12歳になるころには王都のベルデ学園に通うことになる。それまでの6年間、武術に関してはガーランドが教えてくれる、しっかりと学ぶように」
「わかりました」
どうやら教育実習のようなものらしい。ガーランドとの事情が噛み合った偶然ではあるがAランクの人に教えてもらえるのは相当いい条件だろう。
「ガーランドさんには主に何を教えていただけるのでしょうか?」
「ああ、俺はどの武器、武術でも扱うことができるから全てだな。戦場で剣が壊れたから戦えません、じゃあ話にならないだろ?そうなると素手でも戦えないといけないし、人から槍をもらって戦うこともある。一流の冒険者になる第一条件は死なないことだが、そのためには武器を選ぶなんて贅沢を言っちゃあいけねえ」
なんということでしょう、大剣担いだ脳筋に見せかけてその実は結構な理論派だった。つまり特殊な俺の講師がこんな簡単に見つかったのも、そのおかげで訓練スケジュールが全てを網羅するものになってしまったのもガーランドの存在が悪いみたいだ。
「とりあえず坊主の魔具を変化させてみろ、それぞれ武器の基本を教えるからやってみて坊主が何に向いているかによって訓練の方針を決めていく」
「はい、ではまず剣から行きます」
そうして剣、槍、弓、薙刀、特殊なところだと籠手を用いた武術等の基本を教わり実践していく。
「よし、だいたい分かった。坊主お前すげえな」
「本当ですか!?」
「ああ、どの武器にも向き不向きがない。苦手がないが得意もない。訓練を真面目にこなせば大会上位ぐらいにはなれるが優勝はできない。すべての武器がそんな感じだ」
「えぇ…」
なぜ俺の今世はこんな感じなのか。全てにおいて器用貧乏。全てにおいて真面目に取り組まなければ全てがダメになってしまうという手抜きを許されない才能構成である。
「落胆すんな、真面目にやればどの武器もある程度にはなる。それに坊主は魔具だから武器を失うこともないし魔法もある。相手に常に優位な武器、魔法を選択して戦えるのは坊主にしかない強みだ。全てを使いこなせないとその強みも活かせないがな」
ガーランドがそう慰めてくれる。見た目に反し理論派なガーランドは慰めの言葉も論理的だった、そして論理的だからこそ俺も納得して気を取り直せる。俺の取るべき戦術、目指す先はガーランドの言った通りなのだろう。カードゲームでいうコントロールデッキの理想だ、常に相手のやりたいことを潰し、優位な選択をし続ける。あらゆることに対応できるが一つのミスも許されない、そのためにはあらゆる練度を上げていくしかないだろう。
「よし、じゃあとりあえず、走り込みだな」
「…はい?武術の訓練ではなく?」
「何言ってんだ、どの武器を使えてもまず体力がなきゃ始まらねえだろ。それに坊主はやらないとならない訓練が多すぎる。まずは大量の訓練に耐えられる体力をつける、そうしなきゃ坊主ほどの種類の武器の訓練なんて満足にできねえぞ」
「oh…」
とてつもなく論理的だった、沢山訓練しないと訓練が間に合わない、だったら訓練しきれるだけの体力をまず付けたらいいよね!というお話である。論理的に脳筋な解決策を提示しないでほしい。心情的には反論したいのに反論の余地がない。
「とりあえず限界まで走れ、後ろから追いかけてやる、少し倒れたくらいなら起こしてやるからぶっ倒れるまで走れ」
「oh…」
走り込みの途中で少し倒れた時点でそれはもうぶっ倒れてませんか?方針は論理的なのに訓練は脳筋すぎる…。理論と筋肉のハイブリットカーですか、そうですか。論理的な人だと油断させて筋肉で襲ってくるのはひどいよぉ…。
その後、ふらついて転んだぐらいなら走らされ、躓いて転んでも走らされ、いつ走り込みが終わったのかが全く記憶がない。
意識がなくなるまで走らされたってことですよね?ぶっ倒れるまでってそういう…?




