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42:真っ直ぐに、その道を

 目が覚めると俺は宿のベッドに寝かされていた。体に痛みはないが頭にもやがかかったようにはっきりしない、おそらく血が足りていないのだろう。


「アルク様、お気づきになりましたか」

「ああ、リース、見ててくれたんだね。ありがとう」

「そのためにお供していますので、食欲はありますか?」

「んー、あまりないかな」

「では軽食と造血剤をお持ちしますので少々お待ちください」

「うん、お願い」


 食欲はなくとも食べなければ人の体は回復しない。まして治療魔法では失った血までは戻らない、多少無理にでも食べられるだけは食べて休まないと。


「やあ、坊や起きたのかい」

「うん、マチルダ治療してくれてありがとね」

「そのために雇われたんだから気にしなくていいさ、どこかおかしいところはないかい?」

「少し頭がぼーっとするけど、血が足りないだけだと思う。痛い所とかはないし、他は問題ないかな」

「そいつはよかった、雇われた甲斐があるってもんさ」


 そう言って明るく笑う、マチルダがいなければこの訓練も実行に移せていない、痛みもなく治してくれる彼女には感謝だ。


「アルク様、軽食をお持ちしました」

「ありがとうリース、サイドテーブルに置いてもらっていい?」

「畏まりました」


 リースが持って来てくれた二切れのローストチキンサンドとミルク、そして造血剤。このぐらいならば食べられるだろうし、怪我明けの肉と牛乳はやはり効果的だ。


「そうだ、マチルダ、せっかくだから食べてる間少し話を聞きたいんだけど」

「なんだい?」

「昨夜ガーランドとどんな話をしたか聞いても大丈夫?」

「あ~…、まあそうだね、坊や達には話しておいてもいいか」


 少し悩んだ後、マチルダは意を決して昨夜行われたガーランドとの会話を教えてくれた。お酒での失敗を許してもらえたこと、その中で告げてしまった自分の恋心と問題点、けれど問題の方は無事に解決し、ガーランドに戦闘指南を受けたこと、恋心に関してはまあ俺を惚れさせてみろとの事らしい。やだガーランド男前。


「マチルダもガーランドに教えてもらったんだね、じゃあ妹弟子?」

「くっ、ははっ!そういうことになるのかねえ、妹弟子としては優秀でがんばる兄弟子のために今後も協力しようじゃないか」

「頼りになる妹弟子で嬉しいね、ガーランドの前でもその口調で行けるようになったみたいだけど今後はどうするの?」

「そうだね、冒険者をしてるときは今の口調で、少し気を抜ける時なんかは元の口調でいこうかね」

「俺達の前じゃまだ気を抜けない?」

「…ふふっ!それは違うわ。アルクくんの容態を見に来た所だから冒険者としての意識が強かっただけ」

「そう、それならよかった。妹弟子に気を使ってほしくないからね」

「はいはい、兄弟子達には気を許してますよ」


 そういってマチルダは姐さんモードのときよりも柔らかく笑う。先ほど聞いた通り、やはりガーランドと話してなにか吹っ切れたのだろう、ガーランドの前で使っていた口調よりも幾分か明るくなっている。もともと気を許した相手にはこのぐらい明るい性格だったものが、人見知りなどで引っ込み思案に見えていたのだろう。明るい部分が姐さんモードに引っ張られて表に出やすくなっているようだ。


「そういえばガーランド達は何をしてるか知ってる?」

「お二人でしたら今回の結果を踏まえてアルク様への指導内容を相談なさっています」

「あ、そうなんだ。ありがとう」


 一対十の戦い、多数を相手にするのはケイルの街で行ったが所詮訓練、今回のような命の危険がある実戦ではない。当然訓練で負けるのと実戦で負けるのでは意味合いが違う、俺が感じた恐怖は訓練では得られないものだった、それに対する反応、立ち向かったのか、はたまた逃げたか、守りに入ったか。実際に経験した上での反応によって指導方針は変わるのだろう。


「アルクくんは今回の経験で死にそうになったけど、大丈夫?怖くない?まだ頑張っていけそう?」

「まあ、うん。死ぬなって思った時は怖かった、けどその後に思ったのは死ねないなってことかな。前に話した通り俺には好きな人がいる、その人と一緒になる前に死ねないし、その怖さを越えないと一緒になれないのなら越えるだけだなって」

「そう、さすがは兄弟子、強いわね」

「これ強いって言うのかなあ?目標のためにそうするしかないならそうするってだけの話だし。逃げても彼女と結ばれるならためらわずに逃げるよ」

「あら素直」

「マチルダもそうじゃない?ガーランドを強さで惚れさせるしかないなら強くなるしかないって思わない?」

「それしか道がないならその道を進むっていうのは私もその通りね」


 単純な話だ、俺にはそれしか道がない。いやもっとうまくやれる人もいるのかもしれないけれど、俺にはレイン公爵夫妻から出された条件をクリアして、正面からプリムを迎えに行く道しか知らないし他の道なんて思いつきもしない。なにせ恋愛経験がないもので…。


「マチルダはガーランドに稽古をつけて貰ったんでしょ?認めてもらう目途は立ちそう?」

「全く、中級の強化魔法も使ったし、格闘戦は私の領分なのに全然歯が立たなくて。総武の二つ名は流石ね、徒手空拳の技術の次元が違うし、魔法で力だけ上回っても何の意味もなかったわ」

「ガーランドは大剣をメインにしてるけどあらゆる武器、武術を使えるからね。俺の特殊な魔具を一人で全部教えられるのはガーランドぐらいだよ」

「そんな彼に私はどう認めてもらえばいいのかしら?ちょっと武の頂が高すぎて道のりが見えてこないわ」

「うーん、ひとまずガーランドに引き続き稽古をつけてもらうしかないんじゃない?流石にガーランドより強くなれってことじゃないと思うし」

「彼より強くなれなんて条件満たせる女性はいないでしょうね…、武の頂を目指して登っていけば見えてくる景色もあるかしら」

「まあ、ある程度は見渡せる強さはないとガーランドは認めないだろうね」


 ガーランドが認める強さ。強さにも色んな種類があるがマチルダに稽古をつけているし、話を聞いた感じ単純な武力としての強さを求めているのだろう、どの程度か、なのが問題だがゴールは見えなくても走り続けるしかない。そういう意味ではマチルダはゴールが明確な俺よりも困難な道だろう。


「まあ、走り続ければいつかは辿り着くと信じて走り続けるしかないわね。それしか道がないならその道を進むしかないわ」

「うん、その通りだね。お互い険しすぎる道だけど、その道しかない者同士頑張ろうか」

「ええ、そうね」


 そうして険しい一本道を進む兄妹弟子の戦友は、笑い合って互いの健闘を祈るのだった。

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