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39:宿場町ポート

 ステンを出て馬車で数日の朝、ゴブリンが確認されたという山近くの宿場町ポートに到着した。もともとは村だったポートだが、山を通る街道が出来たときに、山越えした人やこれから山を登る人用に拡張されて宿場町となった。


 もともとの村民が住む居住区画、宿と商店が並ぶ宿場区画、街道を挟むようにして2つの区画が分けられ、それらを魔物対策の塀がぐるっと一つに囲んでいる。俺達が到着したのは昼前、宿場区画ではこれからポートを出発する人々が食事を取り、旅商人は少しでも荷馬車に商品を詰め込もうとポートの名産を買い込んでいる。


 宿を取った俺達は二手に分かれて物資の補充を行うことにした。組み分け?当然ガーランドマチルダ組とその他だよ?マチルダ何か問題ある?なんでその組み合わせかって?マチルダは格闘戦をするならガーランドと同じで前衛でしょ?ならいざ戦うって時に息を合わせられるように少しでも互いを知っておいてよ。ほら、ガーランドも納得してるじゃない。他意なんてないよマチルダ、いくら顔を真っ赤にして俺を揺さぶってもなにも出てこないって。ダイジョブダイジョブ、アルクウソツカナイ。


「じゃあ視察組いくよー」

「…当然」

「畏まりました」


 俺達担当の補充分は既に宿に金を払って調達を頼んでいる。こまごまとした仕事など金を払って下々の者にやらせればいいのだ。そして貴族たる俺は大衆の生活を知るため視察に出る、視察先が偶然ガーランド達と同じで、貴族であることがバレないようにお忍びであるだけで、これは視察なのだ。それに護衛と側仕えがお供するだけのことだ。


 ちなみにここまでの行程でそれとなく探ったところ、ガーランドはマチルダに冒険者として憧れられていると思っている。ランクA冒険者、"総武(そうぶ)"ガーランドとして憧れの視線で見られることはよくあるから慣れていると言っていた。


 こいつ視線には鋭いのに込められた感情が戦闘関係じゃないと感情を読み取るのがとんでもなく鈍い。情緒を育まないからそういうことになるんだぞ。だが、その勘違いを俺達が正すというのはマチルダが可哀そうだろう。本人のあずかり知らぬところで自分の恋心を暴露されるなんて酷い辱しめだ。


「…二人が移動した、盗聴魔法を使う」

「わかった、俺も強化魔法を使うよ」


 サラが風の盗聴魔法を使い、俺は強化魔法で全員の視力を強化する。ガーランドを尾行するのだ、バレないためにはこちらも全力でかからなければならない。ガーランドの弟子である俺、一流冒険者のサラ、完璧メイドのリース、視線を誤魔化しながら対象を視界に収めるなんて朝飯前、視力強化をすればガーランドにバレない距離から二人を見ることができる。


「マチルダ、ひとまずポーションやら包帯やらの物資を買うか。治療魔法使いはお前だからな、それを補うのに必要なものが一番分かってるのはお前だろ」

「わ、わかりました」


 なるほど、ガーランドとしては荷物としては軽く、かつマチルダの治療魔法使いとしての実力を知れる救急物資から行くことにしたか。偶然とはいえこれはマチルダの良さをアピールするチャンスだ、どうしても思考の方向性が戦闘に向いているあの筋肉。ただでさえ貴重な治療魔法使いが、最も治療を必要とする前衛として戦うのだ、そのサポートの迅速さは言うまでもなく、治療の程度を知れば有用さに筋肉の興味を引けるだろう。


「…ガーランドらしい選択だけどこれはチャンス」

「そうですね、マチルダ様がしっかり自分をアピールできればいいのですが」


 こちらの二人もしっかりとわかっている。ガーランドを落とす第一歩はまず戦力として興味を持たせることであると、女性としての魅力の前に、戦士としての魅力がなければ視界に入ることができない、ある意味でマチルダの努力は恋を成就させるのに正しい努力だったのだ。…いや特殊すぎるだろ、戦闘の強さが恋の秘訣になるの。


「とりあえず坊主の解毒で対応できない毒の薬は買っとくとして、マチルダが治療する上でほしいものはあるか?」

「そ、そうですね。造血剤と包帯、布、添木は欲しいです。魔法で治しても血は戻りませんし、私で治し切れないほどの重症だった場合に、魔法に加えてそれらの処置が必要になりますので」

「そうか、わかった」


 うん、流石冒険者同士、こんな調子で順調に必要物資を調達していく。依頼に挑む前の準備とあって会話も非常に実務的。冒険者として満点だが、マチルダがガーランドと共に戦えるほど気を許せているかというと難しいだろう。


「よし、だいたい調達も終わったか?」

「あ、はい、そろそろ宿に戻りましょうか」


 とてもいい買い出しだった、必要な情報をすり合わせ、効率よく物資を集め、共に戦うものとして信頼のおける相手だと確認ができる。冒険者仲間として完璧な買い出しだった、これならばガーランドの心象も間違いなくいいだろう、冒険者仲間として。


「サラ、リース、これで終わっていいわけないよね?」

「…当然、みてるこっちが面白くない」

「マチルダさんもある程度慣れていますが、もう一歩踏み込んでいただきたいですね」


 流石にこれで終わっては事務的過ぎて一緒に戦えるほどマチルダはガーランドに慣れてはいないだろうと確認したら女性陣は完全に恋する乙女を見守る野次馬モードだ。気持ちはわかるけど何かあったら俺の命にも関わるんだからね?


「リース、お願い」

「畏まりました」


 リースに行って貰い、適当な理由を付けて二人にはどこかで時間を潰して貰えるようにする。なんなら酒でも飲んで来いと、命を預ける相手と酒の席で腹を割って話すのは冒険者ではよくあること、出発は明日なんだし俺達も荷物を宿に預けたら軽く観光をして回るからと。


 はい、その間に俺達は変装の準備です。視力を強化しようが屋外から屋内を見るなんて無理だ、なら同じ屋内に入るしかない。俺の女装はガーランドにはバレているがメイクというのは凄いもので少し変えるだけでも全く印象が変わる、マチルダは俺の女装をまだ見たことがないのでメイクを変えればバレたりはしないだろう。


 サラは髪色を明るめな黒に変え、服装も魔法使いらしい服装から大人しめな三姉妹の長女コーデだ。次女リースの服は少し開放的な服装で明るいギャルコーデ、ちょっと生意気でクールな俺、いや私のお人形コーデと合わせて旅商人を親に持つ三姉妹の完成だ。


 変装の基本は特徴を消し、別の特徴を作ること。そう、別の特徴を作らないとならないのだ、バレないようにするのではなく、別人であると思わせる、そのためのデコイ。でもさ、二人の下に行く前に変装道具を指定していったリースよ、俺が女装である必要はないんじゃないかなあ?

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