38:仮面
覚えているかと問われたガーランドは不思議そうにしながらもマチルダの顔をまじまじと確認する。しかしその顔には明らかに心当たりがありませんと書いてある。
「どっかであったことあるか?」
「やっぱり覚えていませんよね…。5年前にパーティーで魔物に襲われているところを助けていただいた魔法使いです。その時は髪が長かったのですが覚えはないですか?」
「5年前だと坊主の講師になる前か、確かに3人パーティーを助けたことはあったが…。もしかしてあの時の嬢ちゃんか!?」
「はい!そうです!」
「いやいや変わりすぎだろ!?」
「それはその…色々ありまして」
「色々あるにも限度があるだろ…」
どうやら二人は面識があったようだ。しかもガーランドがマチルダを助けたという物語のような関係、サラのようなショタを尾行して助けるような話でもなく、本当に偶然助けたのだろう。
「ガーランド、マチルダはそんなに変わったの?髪は確かに話と違って短いけど」
「いや、あの時助けた魔法使いの嬢ちゃんは前髪で目が隠れてたし、髪も腰まで伸びてて、話した印象も引っ込み思案な魔法使いだったぞ…?」
「そうです!その魔法使いです!」
「は?」
前髪で目が隠れてて?髪も腰まで伸ばしてて、引っ込み思案?この姐さん系拳闘士にしか見えないマチルダが?引っ込み思案?
先日話したマチルダは山賊とか海賊とかの姐さんみたいな豪快な女性だった。それが5年前は髪の長い引っ込み思案だという。人に歴史ありと言うし、人は変われるとは言うけれど、流石にそこまで急角度で変わってたらガーランドに分かれというほうが無理だろう。
「マチルダ色々って何があったの…?」
「それはガーランド様の前だとちょっと…」
「は?俺?」
「…ガーランド、乙女の秘密を聞くものじゃないどっか行って」
「えぇ…、まあいいけどよ」
ガーランドには申し訳ないが遠くで待っててもらう。ここまで急角度の変化、ガーランドを犠牲に理由を聞けるなら喜んでそこの筋肉は犠牲にしよう。
「マチルダこれで大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ!ありがとうな、アルク!」
「……」
マチルダの変わりっぷりにサラが付いて来れてない。わかるよ、俺もさっきのマチルダだと付いていけなかったもの。
そうして語られたマチルダの変身物語、共に冒険者となった幼馴染達と採集依頼中、運悪くその辺りでは出ないはずの魔物に襲われて窮地に陥った3人、それをステンに向かう途中で偶然通りがかったガーランドが救出する。
その姿に惚れたマチルダはいつかその隣に立ちたいと、共に戦えるようになりたいと強くなることを決意する。窮地に陥ったことから確実性を大切に安全に強くなっていくことにした幼馴染たち、ガーランドの隣に立つため急いで強くなりたいマチルダ、方針の違いからパーティーは解散し、マチルダは実力が付くまで様々なパーティーにヘルプで入り経験を積んでいく。
光適正を持ち、中級まで使えるマチルダは当然重宝されるが若い女性のソロ冒険者。まあそういうことを狙ってくる男たちもいるわけで、乱暴な男冒険者に舐められないように魔法を鍛え、筋肉を付け、口調も変え、一人で依頼をこなしていく今のマチルダが出来上がった。
そんなマチルダが依頼を受ける基準にしていたのは自分が強くなれるかどうか、偶然にも俺と全く同じな上にその理由も好きな人のため。俺の話を聞いたときに泣いていたのはマチルダと被る俺の理由から自分の苦労を思い出し泣いてしまったらしい。
「マチルダも俺と一緒だったんだね」
「そうさ、だから私はアルクへの協力は惜しまないよ」
「…マチルダのことはわかった、それにそういう話ならこの上なく信頼していいと思う。ただここまでキャラクターが変わってると…、マチルダはガーランドの前で戦える?」
「そいつは…ちょっとまだ難しいかもしれないね…」
マチルダの素の性格はガーランドが最初に出会った時の引っ込み思案なもの、今の姐さんみたいな言動は言わば強くなるために被った仮面のマチルダ。冒険者の中には戦闘用の疑似人格を作って戦うような人もいるらしく、マチルダがまさにそれではないかというサラの心配が的中した形だ。
「今回助けてほしいのはアーくんの治療、いざという時の救出はガーランドと私で十分できるから基本的にマチルダに戦ってもらう必要はない。けれどいつか隣に立ちたいならちゃんとその問題は克服しないとダメ。」
「そいつはその通りだね…」
「じゃあマチルダはガーランドの前で戦えるようにする訓練だね」
引っ込み思案状態でも戦えるようになるか、姐さん状態でガーランドと接することが出来るようになるか、どちらかが出来ないとガーランドの隣に立つなんて夢のまた夢だ。
「そうだね、一緒に依頼に行けるなんてことそうそうない。この機会に私もガーランドさんと普通に接することが出来るように頑張るよ!」
「「おぉ~」」
乙女の決意に俺もサラも思わず拍手だ。俺の恋路のために治療魔法使いを探したら別の恋路が引っ掛かった。しかもお相手はガーランド、今までの関係であの筋肉にいい人なんていないというのは分かっている、というかいたらこんな長期間で屋敷に滞在して俺の講師なんて仕事受けていないだろう。
「じゃあマチルダ、俺と同じく好きな人と一緒になるために今回の依頼頑張ろう!」
「そうだねアルク、こうなったらもう私達はただのパーティーとそのヘルプじゃない、一緒に目標に向かって頑張る仲間さ!」
「…私も協力する。リースにも後で事情は話しておく」
今回の依頼に新たな目的を加えた俺達はガーランドを呼んでサラの待つ馬車に乗り込む。冒険者ギルドステン支部前発、ゴブリン退治行のこの馬車は、2つの恋を乗せて目的地へと動き出す。




