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36:境界線

 マジで辛い戦いだった。ジュリアスは炎の魔法しか使えないようだったがその操作精度、持続時間、威力、どれも超一流で炎魔法の扱いはサラよりも断然上だろう。炎の鳥や炎の狼が俺のことをしっかりホーミングして襲い掛かってくるし、魔法と武器で散らしても再生成が一瞬だし、Dランク試験用に手加減をしているからあの程度で済んだのだ、本気でやられたら俺なんて一瞬で遺灰となっていたに違いない。というか散々イメージ裏切っておいて炎の部分だけはイメージ通りなのかよ。


 なぜ純魔法使いタイプなのにそこまでの筋肉を付けたのかと聞いたらボディビルが趣味らしい。ふざけるな。せめて近接戦用とかもっとまともな理由であってくれ。


 なにはともあれ試験は合格、無事にDランクに上げてもらえた。Dランクは冒険者として1人前、様々な依頼を受けられるようになるし、危険な魔物の情報も貰えるようになる。


「じゃあ坊主、早速だが依頼を受けるぞ」

「うん、ガーランドの目当てはなんの依頼だったの?」

「ああ、これだな」


 そうしてガーランドが俺に差し出した依頼書、そこに書いてあったのはゴブリンの群れの討伐だった。単体ならば俺が今まで戦ってきたどの魔物よりも弱い。Eランク冒険者でも十分に倒せる相手だ。けれどゴブリンが本当に怖いところは群れとしての数だ。人の女性や猿の雌全てにゴブリンの子供を産ませることができる異常な繫殖力、単体でいることはまずなく、Dランク冒険者でもパーティーでなければ依頼の受注がそもそも許されない。


「坊主の弱点は明確、多数の敵、攻撃を一度に相手にすることができない。魔法で攻撃を迎撃することはできるだろうが、初級魔法単体じゃ中級魔法を相殺するには足りてねえ」

「威力を下げたり、着弾を遅らせたり、命中先を反らすぐらいだね」

「ああ、まあその練習は別にサラとでもできるんだが、坊主が鍛えるべきは死への嗅覚、生死の境界線を見極めることだ」

「生死の境界線?」

「この攻撃を受けたら戦闘に支障はあるのか、ないのか、生きるか死ぬか。その見極めとそういった極限状態にその身を鳴らすこと、それを見極めることができれば相手の対応に必要な坊主の手数が減る、対応しなくて良い分、相手の打倒に使う手数に回せる」

「そのために必要なのがゴブリン戦ってこと?」

「そうだな、本気で自分を殺しに来る相手じゃなきゃ死の実感を得られない。死の実感を乗り越えなきゃ生死の境界線上で戦うことができない。だからこそのゴブリンだな」


 今までの戦闘で感じた死の予感、それは所詮いざとなれば守られる保険があったものだ。だがここで俺が感じるべきは死の実感、明確に訓練のステージが一段階上がったことを意味している。


「まあだからと言ってそのために死んだら元も子もないからな、念のため一人治療魔法使いを雇って坊主、俺、サラ、そいつの4人パーティーでいく」

「わかった」

「それと死んじまったら治療も何もないからな、死ぬまではいかないための対策も取っておく」

「そんな対策とって死の実感は大丈夫なの?」

「ああ、別に防具を追加するわけでもねえし、ゴブリンはそもそも手加減ができるような魔物じゃない。気を失った後に殺されるかどうかを変えるための対策でしかねえ」

「そんな対策あるんだね」

「おう、坊主ならまだ問題なくその方法がとれるからな」

「出来る人と出来ない人なんているんだ、俺は何をしたらいいの?」

「女装だ」

「は?」

「女装、ゴブリンに女だと思わせて気を失った後に失うものが命じゃなく貞操で済むようにする」


 …リンダ、ごめん、ゴブリンの生態について教えてもらっていい?ゴブリンにとって異種族の雄は全て食糧だから戦闘で気絶させたらあとは死ぬまで袋叩きにして食べてしまう。一方で異種族の雌はだいたい繫殖相手に使えるから気絶させたら生きてるか死んでるかに関わらず犯して繫殖に利用する。なるほどね、流石魔物だ、とても怖い生態をしてるね。


 で、気絶した後の袋叩きを避けるために女装をすると。流石ガーランド、合理的な対策だと思うよ。え?女だと思えば強さを見せてもゴブリンは逃げにくくなるのもある?うん、理にかなってるのはわかるよ、ガーランドの提案だし。でもそれはそれとして少し悩ませてもらっていいかな?


 結論として、俺は性別の境界線を越えることにした。死なないために、死ぬほど恥ずかしい思いをすることを受け入れた。幸い?我が家には女装のプロであるリリィちゃんがいる、ゴブリンを騙すためにも、俺の心を騙すためにもクオリティの高い女装は必須だ。


「アルクちゃんを女装させればいいのね!任せてとびっきり可愛くしてあげちゃう!」

「お母さんも張り切っちゃうわよ!」

「専属メイドとしてお仕えする相手の変装姿は把握しておく必要があります」


 屋敷に戻り、リリィちゃんに女装をお願いしたわけだがどうして母さんとリースもいるんだろう。父さんは俺を憐れむ目で見た後に肩をポンと一度叩いて執務室に去っていった、助けてよ父さん!見捨てないでよ!


 リリィちゃんは真面目にやってくれている。真剣に服を選び、真剣にメイクを施し、真剣に女性の仕草を教えてくれる。ゴブリンを騙せるかどうかは俺の命綱だ、もともと女型俳優だったこともありそこに一切の遊びはない。


 問題は隣の野次馬二人である、きゃあかわいい、あれも似合いそうこれも似合いそう、こんなメイクも見てみたいと完全に俺を着せ替え人形にして遊ぶつもりしかない。サラ?サラが興味あるのは可愛い男の子であって可愛い男の娘じゃないからこの場にはいない。


 そうして遊ばれること数時間、そこにいたのは街の女の子が好むようなフリルをあしらった可愛らしい服を着た女の子。スティング家の次男アルクはもういない。私はルゥ!スティング伯爵が街の女性に産ませた私生児の女の子!一生懸命練習した魔法の力で!街の女の子を狙うわるぅ~いゴブリンたちを懲らしめちゃうんだから!


 ねえリリィちゃんここまで変な設定詰め込む必要あった?設定があったほうが仕草の方向性も決めやすい?それはそうかもしれないけどさ、どうして目を合わせて言ってくれないの?どうして肩を震わせているの?本当にそれだけが理由なら俺を真っ直ぐ見て言ってくれないかな?


 そしてそこでもう隠す気もなく笑ってきゃあきゃあ言ってる二人、真剣にやってたリリィちゃんを悪ノリさせたことは反省しなさい。こちとら遊びでやってんじゃないんだよ。

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