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35:ランクアップ

 スティング領都ステンに戻ってきて、俺とガーランド、サラ、両親の5人で話し合うことになった。議題は当然今後の訓練方針。英雄を倒そうというのだから当然生半可な訓練では目的を達成できない。かといってその訓練で命を落としたら元も子もないし、いくら跡継ぎではないとはいえ俺はエリック兄さんに何かあった場合の保険的な意味合いもある。保険が先に無くなってしまったら意味がない。


「坊主の弱点は明確だ、足りてない経験もわかる。安全な訓練はあるがそれじゃあ到底あの英雄様には届かねえ、けど届かせるための訓練は当然命の危険があるし、そのレベルじゃなきゃ意味がねえ」

「だろうね、英雄はもっと強い人に任せたかったんだけどね」

「ははっ、いいじゃねえの、惚れた女のために英雄を超える。男らしくて俺は気に入ったぜ」

「…アーくんは私のものだったはずなのに。むぅ…」

「いやサラのものになったタイミングは一瞬たりとてないからね?」


 何を言っているんだこの変態は、今も昔も未来もサラのものになるタイミングなんてない。


「アルク、正直に言うとな、父としての私と貴族としての私、どちらの私も賛成半分、反対半分なのだ。息子の恋路を応援したい、息子に危険な目に会ってほしくない。公爵家との繋がりは欲しい、跡継ぎの保険を失うわけにはいかない、どちらの立場を取ればいいかが私にはわからない」

「お母さんは応援するわ、危ない目にはあってほしくないけど、男の子ですもの女の子のために頑張りたいわよね」


 父さんは2つの立場で板挟み、母さんは母として俺のやりたいことを応援してくれる。父さんの意見は当然だ、ここからの訓練は死のリスクを伴う。今までの戦闘訓練は何かある前にガーランド達が割って入る前提があった。しかしそれでは足りないのだ、何かあっても大丈夫、なんて心構えで手が届くほど、英雄の頂は低くない。


「当然俺達がついてるから死ぬまではやらせないが、それでも今までより割って入るタイミングは一手どころじゃなく遅くなる。当然それまでに当たり所が悪ければ死ぬ可能性が無いとは言えねえ」

「まあそうじゃないかなとは思ってたよ。父さん、父さんの賛成と反対の天秤が、貴族としての心と親としての心を乗せても釣り合ってるならさ、そこに俺の気持ちも乗せてくれないかな?俺はやりたい。死ぬかもしれないとわかっていても、それをしなければ目標に届かないというのなら、やれなかった人生は死んでいるのと変わらない」

「そうか…。わかった、アルクの意思を尊重しよう。だが死ぬんじゃないぞ、死にそうな目にはいくらでもあってきていい、だが死ぬのだけはダメだ。わかったな」

「俺も死にたいわけじゃないからね、わかってるよ」


 これから2年、俺はガーランドとサラに付いてもらって冒険者として活動する。といっても受ける依頼の基準は俺が強くなれるかどうか、依頼料でも、確実性でもない。スティング家からはリースが付いてきて、身の回りのことや馬車の御者をやってくれることになった。


「話はまとまったな、坊主の今の冒険者ランクはE、依頼を受けずにただ狩った獲物を売ってただけだからな。これをまずはDに上げる。強い魔物の情報は冒険者ランクを上げないとギルドから教えてもらえねえ。俺が教えてもらって坊主に渡すっつーのはギルドの規約で禁止されてる」

「当然だろうね」


 しっかりと魔物相手に戦えるかどうかの判断基準としてランクがあるのだ、それを無視してしまったらただ死体が増えるだけだ。


「坊主の実力ならDはある、俺が保証人になって、ギルドマスターからの試験をクリアすればすぐにDには上げて貰えるだろう。それが出来たら目当ての依頼を受けられるようになるから本格的に訓練の開始だ、いいな?」

「うん、よろしく頼むよ」


 俺とガーランドは冒険者ギルドに来た、なんだかんだで小遣い稼ぎに売りに来まくったのでもう常連だ。


「あらアルク様じゃない?今日は何を売りに来たの?」

「やあ、リンダ。今日はちょっと売りに来たんじゃなくて俺の冒険者ランクのことでギルマスに話があってさ」

「?、まあわかったわ、呼んでくるからちょっとまっててね」

「悪いけど頼むよ」


 ここのギルマス、世紀末モヒカンのジュリアスと接するのも流石になれた。なんであの見た目でそんな高貴な王子様みたいな名前なのかは分からない。名に体を表してほしい。


「よう、アルク様、今日は俺に用事があるんだって?」

「ジュリアス、実はね」


 ジュリアスに要件を話す、強くなる必要が出たこと、そのために冒険者として訓練に必要な依頼を受けたいということ、だからガーランドを保証人としてDランクに上がりたいこと。なぜそんな必要が出たのかまでは言う必要はないだろう、恥ずかしいし。


「なるほどなあ、Dランクの依頼をこなしてくれるやつが増えるなら俺達は助かるし、ガーランドが保証人なら実力は問題ないんだろうが一応試験はさせてもらぜ?」

「こっちもそのつもりだから大丈夫だよ」

「よし、じゃあ善は急げだ、地下の訓練場に来い、直接俺が見てやるからよ」

「ジュリアスが直接やるの?試験官とかじゃなく?」

「ああ、俺が見るのが一番確実だし、ランク相当の手加減も普通にできるからな。なにより書類仕事ばかりだと体が凝ってしょうがねえ」

「なんだ?ジュリアス、鍛錬サボってんのか?」

「ガーランド、お前ももう少しで出会えるさ、鍛錬してる時間がないほどの書類の山ってやつに」


 労基法なんてない世界、ギルドマスターという重責を背負うジュリアスの仕事量は計り知れない。こんな見た目なのに、ギルドマスターとして認められる実力を持ち、書類仕事も正確で素早いらしい。強かったということは聞いたことがあるが、どんな戦い方をするかまでは知らない。情報を集められない突発戦闘のつもりでいい訓練と思おう。


 俺は地下にある訓練場にてウォームアップをする。ランニングをしながら足元の土の感触を確かめ、だいたいの広さを体に感覚として覚えさせる。流石冒険者が使う訓練場、模擬戦をしても十分に余裕のある広さだ。土と床の境には飛び道具を通さないよう、魔法、物理両方の結界が魔道具によって張られているらしい。魔道具そんなこともできるのか、今度真面目に勉強したいな。


「ウォームアップが終わったら中央にこい、ガーランドには審判をしてもらう。Dランクだしよーいドン!の実力を見せてくれればそれでいい」

「わかりました」


 ランニングを終え、中央に立つ。なにも知らずに戦う相手、どの魔具を選択するか悩むが最初は槍でいいだろうか。なにせジュリアスは見た所物理系、おそらくガーランドと近い戦闘スタイルと考えると最初は情報を集めるためにも牽制するためのリーチが欲しい。


「坊主、準備はできたか」

「うん、大丈夫だよ、ガーランド」


 そう伝えて、俺は思考に沈めていた目線を上にあげる。目の前に立っていたのは右手に着けていた髑髏の指輪がなくなり、杖を構える世紀末モヒカンの姿だった。


 お前魔法使いかよぉ!!???

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