34:また会う日まで
魔物に囲まれ、絶対絶命のピンチに陥った新米冒険者の少年をサラが颯爽と助け出し、幼馴染の少女に送り届けてクールに去ったという、サラを知る俺からしたら少年を尾行して助け出し、あわよくばを狙ったらお相手がいて作戦が崩れたとしか思えない武勇伝を聞いていると、大人組が話し合いから戻ってきた。
「父様、母様、お帰りなさい」
「ああ、アルク。そちらの話はもういいのか?」
「はい、雑談をしていただけなので、宿の方に戻りますか?」
「そうだな、領に戻る準備もあるし、あまりシルバ達を待たせるのもよくないだろう」
昨日からシルバ達使用人、護衛組はせっかくのレイアということで1日ゆっくりと休暇を取ってもらっている。そのために帰宅の準備は俺達が宿に戻ってから、ということになっていた。
「ではレイン家の方で宿までの馬車を用意しよう、セバス、手配を頼む」
「畏まりました」
「レイン公爵、お心遣い感謝します」
「なに、スティング伯爵とは今後ともよい関係をと思っている、馬車の手配ぐらいなんてことはない」
馬車の準備ができたら俺はいよいよレインを離れることになる。レイン公爵に認められるための条件を考えると、すぐにガーランド達と今後の訓練についての方針を相談しないとならないだろう。次にプリムと会えるのは恐らくプリムが学園に来る3年後、俺が学園に通うまでの残り2年は正直訓練漬けになるだろうし、宿に戻る前に、一つだけプリムにお願いしたいことがある。
「プリム、帰る前に一つだけいい?」
「なんでしょう、アルク様?」
「多分俺達が次会えるのはベルデ学園だと思う、だからそれまでは文通をしたいんだけどいいかな?」
「…はい!私の方からもお願いします!」
領についたら俺の方から手紙を出し、それから文通をスタートすることになった。この世界において手紙は冒険者ギルドが配達している。冒険者ギルド間を定期的に巡回する連絡網、そのついでに運んでくれるのだ。当然ギルドの連絡網を使用するので直接行くよりも時間は少しかかるが、それでも遠方に手紙を送れるのはありがたい。
「スティング家の方々、馬車の用意ができました」
レイン家の人たちと最後の挨拶をすませ、馬車に乗り込む。宿に戻れば帰り支度を整えて、数日後にはレイアを出発することになるだろう。来るときには将来の学友との顔合わせついでに観光気分だったが、こんなにも自分の将来を変えてしまう出会いがあるとは思わなかった。
プリムと出会わなければ、俺はあと2年普通に過ごして、学園生活でなりたい仕事や結婚相手を探し、しっかりと自立して生きていけたらいいなと思っていた。しかし、今回の出会いで俺はあと10年以内に英雄を倒せるだけの力を付けなければならない。学生となってしまったら冒険者として活動し、経験を積める機会はかなり限定されるだろう、卒業後ではガーランド達に教えて貰えるかもわからない。となればそれまでの2年間で積めるだけの経験を積んでおきたい。
幸いにも俺の師匠はガーランドとサラ、冒険者の中でもトップクラスの二人。俺に足りない経験は何か、俺が強くなるには何をしたらいいのか、それぐらいのことはいくらでも思い浮かぶだろう。二人が与えてくれる経験から、俺は学ぶべきことを考え、どのように活用するかを考え、どのように実践するかを考えていけばいい。ただ訓練の強度は一段階上がるだろう。目標が英雄を倒すことになった以上、今まで通りの訓練では間違いなく間に合わない。辛くなるのは目に見えてる。
でも、うん、目標に向かって頑張れる。頑張る先の目標がある。そしてその先にあるのは惚れた女性との結婚だ。当然、俺がプリムに振られる可能性はあるだろう。プリムが誰か他の男に惚れるかもしれない。けど、そんなもしもの最悪は、俺が努力しない理由にはならない。むしろ、そんなもしもの最悪があるからこそ、俺は惚れて貰えるよう努力しなければならない。
前世で結婚していた友人たちは言っていた、結婚はゴールじゃないと、始まりに過ぎないと。全くもってその通りだろう、俺はプリムを幸せにしたいと思ったのだ。俺と結婚したらそれで幸せ?そんなわけない、そんなことを思えるのはとんだナルシスト野郎だ。俺がこれから目指す先はプリムを幸せにするためのスタート地点だ。




