31:出来たこと
魔法とバイオリンのウォーターショーが幕を下ろす。途中で物語の展開を変えたからそのために曲調を変える必要があった。複数のことを同時に行うのは慣れているし、バイオリンと2つの魔法ぐらいならば特に意識することなくできるが、流石にそこに曲のアレンジまで加えたからめちゃくちゃ疲れた。全力で頭を回して、アレンジのために集中したから額に汗まで滲んでいる。
プリムも、セバスさんも、驚愕に顔を染める。俺は見せたかった、初級魔法でも、決して一流とは言えないバイオリンでも、凡人が真面目に勉強しただけの曲のアレンジでも、努力して、磨いて、束ねて、一つのものとしてまとめ上げれば、大きな力を発揮するのだと、素晴らしいことができるのだと。
だからプリムも私なんかなんて言わないでくれ、役に立たないなんて言わないでくれ、これは君にも出来ることなんだ。君にだって素晴らしいことができるんだ。
「プリムさん、これを見てどう思った?」
「その…とても素晴らしいと、美しいと思いました」
「そう思わせることができたならよかった。これはねプリムさん、あなたにも出来るはずのことだ、既にある水を操り、光で彩る、初級魔法しか使ってないから魔力消費も多くない。俺にはバイオリンも、作曲も才能がない、それは王都劇団にいたリリィちゃんが保証してくれてる。いや才能がないことを保証されるのも悲しいんだけど…。ただ真面目に勉強して、真面目に練習しただけの、決して一流ではないものだ」
「出来るはずのこと…」
「うん。プラム夫人に聞いたけど、プリムさんは昔はお父さんとお姉さんの役に立ちたいって言ってたんだよね?」
「え、ええ」
「でも魔法が初級だから、魔具が盾だから役に立てないと思った、敵を倒せないからと。でもね、盾は守るための力なんだ、それは当然自分だけじゃない、大切な人を守れる力なんだ」
「大切な人を守れる…」
「そう、プリムさんの、いや女性の力だと盾だけで大切な人を守るのは大変かもしれない。けどそこに初級であっても、光の強化魔法があったら?初級であっても、水で相手の足元を不安定にさせられたら?きっと相手の攻撃も受け切れる。大切な人を守ることができる」
「あっ…」
「たぶんプリムさんは優しい人なんだと思う。プラム夫人が言ってたけど、プリムさんは社交界で自分から誰かに話しかけることはないって、そんな人が妹が助けられたお礼を言うために自分から俺に声をかけてきた。それは妹のことが大切だから。そんな優しいプリムさんだから魔具は大切な人を守るための形を取ったんじゃないかな」
魔具というのは魂の形だ、それはつまり魔具を見ればその人のひととなりがわかることを意味する。では魔法は?魔力によって形作る魔具が魂の形を表すのに、魔法が全くその人のひととなりに関わらないなんてことがあるのだろうか。魔法の適正などは個人差だと言われているが、その個人差こそがひととなりということではないのだろうか。
俺は色々できるが初級魔法しか使えない、俺はいろんな魔法を楽しみたかった、けれどそれで誰か、何かを殺したいわけじゃない。欲したのは楽しむための力だ、自衛のための力だ、殺すための力じゃない。
多分プリムさんもそうなのだろう、父を守りたかった、姉を守りたかった、大切な人を守りたかった。けれどたとえ敵であっても殺したくなんてなかった。だから魔具は盾となり、魔法は初級魔法しか使えない。
まあ正直ここまでの事は憶測にすぎない、検証されたことではないし、プリムが何を考えているかなんて本人にしかわからない。いや、人間意外と自分自身の事もわからなかったりするものだ、プリム自身もわかっていないかもしれない。
でもプリムが優しいのは間違いないだろう、なにせこの人はこの場に来てくれたのだ、初対面でプロポーズをやらかす馬鹿など突っぱねていいのに。それだけじゃない、何を話したらいいかわからない俺に、彼女は最初に謝ってくれたのだ。逃げてすまなかったと、あなたの想いに向き合えなくてすまなかったと、そんな風に相手を想える人が、優しくないわけがない。
「あっ…あ、あ、あああああ!!」
「えっ!?なんで!?何か俺失礼なこと言いました!?」
突然プリムが号泣してしまった、俺は慌ててセバスさんに視線を送る、セバスさんは静かに首を振り、俺にハンカチを渡してくる。
「こういう時は紳士が淑女の涙を拭きとるものですよ」
おお!さすがはセバス!なんて完璧な紳士っぷりだ!しかもその役目を俺に任せてくれるなんて!なんて出来る執事なんだ!
しかし号泣する女性の涙なんてどう拭いたらいいのだろう、そんな経験あるわけがない。全く俺の前世はつかえない。隣に座っては拭くべき場所がよく見えない、だから正面で腰をかがませ、両目からあふれる涙を拭きとっていく。暗くて見にくいので光魔法で軽くその泣き顔を照らして。あまりにも情けない姿勢だ、しかも泣いている淑女の顔を光で照らすなど、紳士とは程遠い。うぅ…情けなさに俺が泣きたくなってきた。
「落ち着いてきましたか?」
「ええ…、アルク様、ありがとうございました」
「いえいえ、俺、なにか気に障ることでも言ってしまいましたかね…?」
「そんなことは!ただ、そうですね、今の顔を見られるのは少々恥ずかしいので…」
「あっ!すいません!」
俺は急いで顔を反らす。泣きはらした淑女の顔をまじまじ見るなど失礼にもほどがある、ただでさえ泣いているところを光で照らして見てしまっているのだ、これ以上失礼の重ね掛けなんてしてはいけない。
「その…、アルク様は今後の予定はどうなっていらっしゃいますか?」
「今日はこのまま客室の方にお世話になります。明日以降は数日宿に泊まって準備を整えたら領の方に帰ろうかと」
「そうですか…、申し訳ないのですが今日の所はこのあたりで…。また後程使いの方を送らせていただきます」
「わかりました」
互いに互いの目を見ないで交わされる会話、視線は交わしていないが、確かに想いは交わせているだろう、きっとまた会ってもらえる。これっきりで終わりということはないはずだ。これで終わりたいと思ったのなら、今後の予定なんて聞かなくていいのだから。今日の所はなんて、明日以降がないなら必要ない言葉なのだから。
そうして想い人とのやり直しの初対面は終わった。会話をできたのは短い時間だったが、プロポーズだけで終わった一回目よりも、伝えたいことは伝えられた、プリムのことを知ることもできた。
ここから少しづつ俺のことを知ってもらえばいい、プリムの事を教えてもらえばいい。その上で振られるのなら、それは俺が不甲斐なかっただけのこと、めちゃくちゃ辛いけど、それが彼女の選択なら俺はそれを受け入れよう。
ああでも…
最後に泣かせて終わってしまったの、めちゃくちゃ減点じゃないですかね…?すっごく不安になってきた…。




