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30:出来ること

 バイオリンを構え、噴水の前に立つ、俺が使う魔法は水と光の2つだけ、プリムだって練習すれば、難しいかもしれないが絶対に出来るようになること。


 噴水があってよかった、今から俺が行おうとしていることは言ってしまえばウォーターショーだ、俺の水魔法ではそこまで映えるほどの水を生み出しながら操るには魔法出力が足りない、だが既にある水を操るだけならば俺の魔法出力でも事足りる。


 俺はバイオリンを奏で始める、曲は騎士と姫の恋の曲。この国で最もポピュラーで、誰でも知っている、その曲も、その曲が何を表しているのかも。俺ですら魔法を使いながら演奏することぐらいはできる、そのぐらい定番の曲。


 曲が表したい物語を、水で形づくり、光で彩る。これは騎士と姫の恋の曲。


 始まりは一人のいたずら好きな少年だった。食べるのが好きな肉屋の息子、引きこもりがちな本屋の息子、暴れん坊な聖職者の娘。男の子3人、女の子1人の城下町の問題児、いろんないたずらをした少年は、王城へのいたずらを計画する。


 流石にいたずらをする先が悪いと、そんなことできるわけがないと3人は反対し、意固地になった少年は一人で計画を実行に移す。無事に王城に侵入し、いたずらにいい場所を探していた少年は、まあそんなうまくいくはずもなく衛兵に見つかってしまう。


 そうして逃げ込んだ部屋にいたのは一人の病弱な少女だった、この国の病弱なお姫様。突然の来客に驚いたお姫様、そして少年を追う衛兵はすぐそこまできている。部屋に響くノック音、お姫様はその日嘘をついた。侵入者なんてきてないわ、不安だから早く捕まえられるようにお仕事がんばってくださいね。


 お外を見たことがないお姫様、図らずも来てくれた外からの来客に、好奇心いっぱいの交渉をする。お外のことを教えてくださらない?あなたが見つかっていないのは誰のおかげだと思っているの?そうして少年は姫に少年の世界を語っていく、城下町はこんな感じで、どこのご飯が美味しくて、どこのおじいさんはいつもおかしなことを言っていて、どこのおばあちゃんが優しくて。まだ幼い少年の、大人から見れば狭い狭い世界の話、けれどお姫様にとっては広い広い世界の話。


 そんな時間も終わりを告げる、これ以上は少年も逃げることができなくなってしまう。そんな終わりを名残惜しむお姫様、そんな彼女に少年は一つの約束をする。いつか俺がお前を外に連れ出してやるよ。そんな子供だからできた無謀な約束、子供だからできた恋の誓い。


 その日から少年はいたずらを止め騎士を目指す。いたずら仲間たちには城での約束を話し、お前が騎士になるなんてと笑われた。けれど少年は約束した、少年は自分に誓った、彼女を外に連れ出すのだと。


 どうすればいいかなんてわからない、だからとりあえず騎士を目指した。そうして少年は騎士となった。騎士は真面目に勤めを果たす、どうやって姫を連れ出せばいいのかわからないが、とりあえず姫の近衛騎士を目指した。


 そんな日々がしばらく過ぎたころ、姫は魔王に見初められる。魔王は姫を連れ去って、自分の妻にすると宣言する。騎士はその瞬間を見ていた、姫を城から連れ出すのは俺の役目だったはずだ、あんなに外に憧れていた姫が、外に行けるのに泣いているのだ、そんな連れ出し方は認めない。


 騎士は姫を連れ出す旅にでた、魔王領に行き、魔王城に行き、姫を連れ出すための旅。幼き頃にした約束を果たすための旅。


 魔王城に侵入した騎士、城に忍び込むのはこれで二度目、失敗の経験を活かした騎士は、無事姫を連れ出した。それに気づいて怒った魔王は部下を騎士に差し向ける。


 逃げる二人と追う魔王の部下たち、国にたどり着く直前に、ついに追いつかれた騎士と姫。


 本来この物語は、ここで騎士が命を賭して姫を逃がし、無事国に逃げきった姫が、対魔王連合を組むために各国を巡るところで幕を下ろす。叶わなかった騎士の初恋は、しかし姫に広い世界を見せる約束を果たす。俺はそんな物語が好きだった、悲しくも残るもののある物語。初恋は叶わない、そんな大人ならば皆知ってる、悲しくも美しい思い出を残す物語。


 けれど俺は知ってしまった、初恋とはどういうものか、恋とはどういうものか、これほど相手を想い、相手を欲する気持ちが、どれほど苦しいかを、どれほど怖いかを、そしてどれほど暖かいかを。だから俺は物語を書き換える。こんな悲しい結末だけではないだろうと、もっと幸せな結末があってもいいだろうと、叶う初恋があってもいいだろうと。


 魔王の部下に囲まれた騎士と姫、そんな中に3人の乱入者が現れる。食べるのが好きな肉屋の店主、色々知ってる本屋の店主、暴れん坊だった教会の聖女。誰も彼も戦ったことなんてない。けれど肉屋は知っている、筋肉はどう動くのか、どこを切れば切りやすいのか。本屋の店主は知っている、魔物はなにが出来るのか、魔族はなにが出来るのか。聖女様は知っている、どうすれば人を癒せるのか、どうすれば人は心を保てるのか。そして3人は知っている、今が少年の夢を叶える時だと、今が少年の恋を叶える時だと。


 そうして魔王の部下を倒した城下町の問題児、5人は無事に城へとたどり着く。


 その後、城から悲しい知らせが発表される、魔王の部下との戦いの際、偶然受けた毒で姫が死んでしまったというものだった。国民は悲しみ、魔王は部下に激昂した。


 そんな発表があってから、不思議な旅商人の5人組が見られるようになったらしい。食べるのが大好きなお肉屋さん、なんでも知ってる本屋さん、とても暴れん坊な修道女、そして仲睦まじい一組の夫婦。


 なぜ旅商人なのに売っているのが肉と本だけなのか、なぜ修道女なのに暴れん坊なのか、なぜそんな中に普通の夫婦がいるのか、その理由はわからないが、5人はとても楽しそうに世界中を巡ったそうだ。

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