28:恋路の先達
何が簡単な条件なのだろう、いや、ある意味で簡単な条件ではあるのだろう。結婚するならば、結婚までいかずとも、その前の恋人という関係になった段階で自然に達成されている条件なのだから。
しかし俺にはわからない、なにせこれが前世も含めての初恋だ、なにをすれば惚れて貰えるのか、何をすれば自分の気持ちを伝えられるのか、いやもう気持ちは伝えてしまったのか、逃げられたけど。世の夫婦はこんな無理難題のような条件をクリアしているのか。
「父様、母様」
「なんだバカ息子」
「なあに?アルくん」
父さんにバカ息子とか言われたの初めてだ。いや本当に今回のことはすいませんでした。
「夫婦である二人に聞きたい、相手に惚れてもらうためにどうしたらいいかな?」
経験がないのなら経験者に聞くしかない、家の両親もすごく仲睦まじい、どちらも互いが互いにベタ惚れ状態だ。
「アルくん、まだアルくんは惚れてもらうところにないわ。少しずつ、惚れて貰えるところまで関係を深めるしかないの」
「ではどうすれば?」
「最初の一歩は簡単よ、二人でゆっくりお話ししてごらんなさい。さっきだってアルくんが急にプロポーズしちゃってそれっきりじゃない」
「…確かに」
ちゃんと話したこともないのに惚れられるもなにもないだろう。こんなのは恋愛以前に人間関係の初歩も初歩だ。
「アルクくんがプリムと話せるようにはしてあげるわ、流石に話もさせません!じゃあ私がただ無理難題を出しただけになってしまうし」
「ありがとうございます!」
惚れた相手の母親が協力してくれるのだ、これほどありがたいことはない。というかなんの協力もなしでは不法侵入とかしないとプリムと話すこともできやしない。
「そうね、誕生会が終わった後だから夜になってしまうけれど、呼んだら中庭にきて頂戴、時間が時間だからセバスは付けるし、本当の意味での二人きりではないけど、お話する時間は作れるでしょう。夜なら今部屋にこもってるプリムも落ち着いているでしょうし」
「わかりました」
「それまでは客室を使ってもらって構わないわ、なんならスティング伯爵夫妻と一緒に今日は泊まっていっていただいて結構よ。宿の方には家から使いの者を送ります」
「そんな!家の息子のためにそこまでしていただくわけには!」
「スティング伯爵、もしご子息がうまくやったら私たちは親戚となります。それにもしそうなった場合のことを伯爵とも話合っておきたいのです。コンラートは拗ねて黙っておりますけど、内心ではご子息が今までで一番いい相手なのはわかっておりますので。まあ一番いいからこそ、ここまで拗ねているのですけれど」
「プラム…」
内心を言い当てられたのか、レイン公爵が不服そうにプラム夫人をにらむ。夫人はそんな視線も涼しく受け止めていて、とても楽しそうにしている。
そうして俺のプロポーズから始まった両家による話し合いも終わり、俺達は客室へと案内される。フレアには既に家として祝意は伝えているし、俺のやらかしも内容が内容なのでゆっくり家族で話す必要もあるということで誕生会は後から戻ってもいいし、このまま退席でもよいと言って、レイン公爵夫妻は誕生会へと戻っていった。
「さてアルク、今回はレイン公爵家のご厚意で問題にはならなかったが、なぜこんなことをしたのか改めて聞かせなさい」
「そうねー、お母さんもアルくんがプリムちゃんのどんな所に惚れたのか詳しく聞きたいわ」
二部屋用意されたベッドが二つの客室、その片方に三人で集まりしっかりと話し合う。父さんはスティング家領主として、母さんは息子の恋路が気になる母親として、どこに惚れた、どうして惚れた、どんな関係になりたいか、今後どうしていくのか。根掘り葉掘りと言っても一目惚れなので答えられることがあるわけない。レイン公爵夫妻がいるときに話したことが全てだ。
「アルクの気持ちはわかった、今回はその愚直さが逆に功を奏したことだし、私からなにか言うことはない」
「お母さんはアルくんのこと応援してるわよ!」
「父様、母親、ありがとうございます」
正直、今回の俺への処置は貴族として考えられないぐらい甘い対応だ。プリムに出会うまでに行ってきたこと、それぞれがレイン公爵家からの印象を良くしていた中で、偶然俺のやらかしがプラム夫人に気に入られたにすぎない。両親、特に領主としての責務を背負う父さんからしたら気が気じゃなかっただろう。
にも関わらず、なんのお咎めもなしなのだ。本当に貴族としては甘いかもしれないが、家族としてはいい両親に恵まれた。
「さて、貴族としての話はこれで終わりだ。せっかくの機会だ、アルク、たまには親子でゆっくりと話し合おう。この前はサラのせいで何も話せなかったしな」
「嫌な事件でしたね…」
この世に産まれて10年、前世の記憶が目覚めてから7年、あまり両親とゆっくり話したことはない。俺の訓練が多すぎるし、両親も忙しい伯爵家、それでも家にいる間は食事は必ず一緒にとって家族の時間を作っている。
レイン公爵家の人から呼ばれるまで時間もかかるだろう、俺と両親は初めてゆっくりと家族の時間をとることができる。
「そうだ、父様、母親。せっかくの機会に聞きたいことがあります」
「なんだ、アルク」
「お二人の馴れ初めを聞きたいです!俺の参考にもしたいので!」
「ごふっ!?」
「あらあら」
両親に対するいたずら心がないとは言わないが、実際にこれから一人の女性に惚れて貰わないといけないのだ、参考にしたいのも嘘ではない。ただちょっといたずら心がエッセンスとして入ってるだけで。
「そうよねー、アルくんはこれからプリムちゃんに惚れて貰わないといけないものねえ」
「いや!?まてシルク!私達の馴れ初めを言うのか!?」
「息子の恋のためなんだから恥ずかしいなんていえないでしょう?」
「いや…それはそうなんだが…」
「それにうまくいけば公爵家との血縁になるのよ?貴族としても協力するのは当然じゃない?」
「それは…そうなんだが…」
すごい、父さんがこんなにまごついてるの初めてみた。これはあれだ、父さんから惚れたパターンのやつだ。だって母さんは馴れ初めがバレてもいい無敵モードだもの。
「そうだな…、公爵家との繋がりを求めるのは貴族としての責務でそれは領民への責任でもある…。はぁ…、わかった話そう、ただしエリックや他の者には決して話さないように!!」
「わかりました!」
そうして語られた両親の恋物語、シルク母さんのいた子爵家に魔物の大量発生が起こり、伯爵家として援軍を求められたスティング家は当時跡継ぎだった父さんも伴って群れの討伐に出陣した。そんな戦いに光の上級まで使える母さんは救護班として同行、魔物にやられて大怪我した父さんが運びこまれたころにはもう母さんはかなり魔力を使っており、上級なら一度で治せる父さんの怪我も治し切れたが、上級を使える魔力は残っていない。
だが母さんは可能な限りで治療魔法を使って父さんの怪我を命に別状がない程度まで治し、その後は魔法に頼らず魔法の使えない救護班の人たち同様、血に、汗に、土に、埃にまみれて献身的に怪我人たちの治療に専念した。
わがまま放題に育ち、見目麗しいだけの貴族令嬢を社交界で多く見てきた父さんは、その誇り高く優しい母さんの姿に惚れこみ、子爵領の復興支援という名目で領内の村々を巡って土魔法を使用し荒れた土地や畑の修復、土製の仮設家屋の設営と現場に出て一生懸命に作業をした。母さんもそんな姿に心を許し、二人は信頼できるパートナーとして関係を深めていくことになる。
父さんが復興支援に通い詰めたのも母さんに会いたかったからだし、一生懸命に作業したのも母さんにいいところを見せたかったのは間違いない、それでも根が真面目な父さんだ、子爵領民のため、作業中は母さんに目を奪われることもなく、領民たちのことを真っ直ぐにみて復興作業に携わったらしい。
母さんも貴族としていろんな人をみているから父さんがどんな思惑で来ているかなんてわかっていた。しかし領民に接し、復興作業を懸命に行う姿には被害にあった人々を助けたいという純粋な気持ちも確かに存在していた。
そうして一人の貴族跡取りと、一人の貴族令嬢が協力しあいながら1年ほどかけて子爵領は復興作業を完了。二人は今後も協力して支え合い生きていく誓いとして、貴族として異例ではあるが、初めて二人一緒に復興作業を行った村にて結婚式を挙げたそうだ。
ええ…なにその結婚式場…。我が両親ながらロマンチックすぎません…?




