26:出会い
誕生会までの間、両親とレイアを観光したり、公爵家の管理する様々な施設を見学して過ごした。コルンちゃんと出会った翌日、レイン公爵家から手紙が届き、そこには事前に打ち合わせたカバーストーリーの内容と、お礼としてレイン公爵家所有施設の見学許可を与えるとの旨が記されていたのだ。
父さん、母さんには詳細を聞かれたがそこは事前に打ち合わせがされているし、同行していたリースもいる。伯爵が公爵の証言、それも自分に不利になるものでもないものを疑うのも失礼なことであり、俺たちの話はすんなりと信じて貰えた。
「しかしアルク、公爵家のご令嬢をお助けするとは、よくやったな!自慢の息子だ」
これにご満悦なのは父さんだ、貴族として、階級が上の者に対して、それも公爵家というトップの中のトップに対して縁ができたのだ。これを喜ばない貴族はいない。自領が魔物に襲われた等、なにか困ったときに助けを求められる確率が段違いに上がるのだ。力を持つものに伝手を持つこと、縁を作っておくこと、これは領民を守るためにも必要な処世術となる。
まあそれは貴族の建前で父さんは完全にレイン家所有の軍船を見学できることに大喜びしている。この国の船はガレオン船に炎魔法対策の鉄板が張り付けられているようなものだ。火薬が発見されていない世界だが、遠距離から魔法を飛ばせるこの世界ではこういった船に魔法使いが乗り込み、魔法戦をしながら接近、乗組員が乗り込んで白兵戦を行うのが軍船同士の戦いとなる。海賊かな?
父さんは大きな船にもうワクワクが抑えきれていない、スティング領には海はなく、大きな湖なんかもないため当然大きい船など無用の長物、海軍所属でもなければ貴族で軍船に乗る機会があるものなんて外交官ぐらいだろう。
「よろしければ周辺を少しクルージングいたしますか?」
「よろしいのですか!?」
「ええ、レイン公爵からは可能な限り最大限のおもてなしをと承っております」
このようにどの施設に向かっても歓迎され、父さんも母さんも許可が降りなければ見れないもの、体験できないことの数々を非常に楽しんでいた。
期せずもコルンちゃんを助けたことが親孝行に繋がった、誕生会でもレイン公爵との話題に困ることはないし、俺の根回し能力の高さに感動を覚えますよ。え、そうだよただの偶然、運です。
「スティング家の皆様、ようこそおいでくださいました」
「あ、セバスさん。お嬢様のお誕生日、おめでとうございます」
「ありがとうございます、アルク様。旦那様方は控室にて準備をしていますのでスティング家の方々はお先に会場にてお待ちください。旦那様からは後ほど挨拶をと伺っております」
「わかりました、ありがとうございます」
メイドさんに案内されて会場に向かう、奥に一段高いところがあり、そこには長テーブルが置いてあり壇の両脇には複数の楽器が置かれ、中央にはスペースが、両脇には料理が乗せられた丸テーブルが無数に並べられている。
社交界とか出るのは初めてだがとても煌びやかで料理も美味しそうだ、至る所で貴族が談笑しており、俺と同い年ぐらいの子供も多くいる。なるほどこれだけ近い年齢の子が集まるならクラスメイトだけでなく、先輩、後輩となる子も多そうだ。
開会を待つことしばらく、レイン公爵家の面々が入ってきて壇上へと上る。公爵と公爵夫人の後ろを歩く赤い髪の子が今回の主役、フレア・レイン嬢だろう。その後ろを長い金髪を靡かせた、俯きがちの女の子が続き、最後にコリンちゃんが続いていく。
レイン公爵とコリンちゃん以外は先日は会えていない、まあ2人と知り合いになっているのだから残りの3人とも挨拶ぐらいはできるだろう、特にフレア嬢は学友になる可能性が高いわけだし。
その後、レイン公爵の挨拶に合わせ、社交界が始まった。上品な音楽が鳴り響き、紳士淑女が舞い踊り、貴族たちが料理に飲み物に挨拶にと忙しそうに動き始める。なんかマウントボアの肉のところがバーゲンセールに群がる主婦みたいになってるけど…、あんたたち貴族としてそれでいいのか…?
「レイン公爵、この度はご令嬢のお誕生日、誠におめでとうございます。よろしければ直接フレア嬢に祝意を述べさせていただいても?」
「ああ、スティング伯爵、ぜひともフレアを祝っていただきたい。貴殿らにはマウントボアの肉だけでなく、コルンのことも助けてもらった、今後ともいい関係を築けたらと思っている」
本日の主役の元に挨拶に向かう。まずは父親同士、貴族としての挨拶をしている。今回のことでレイン公爵からスティング家への印象はとてもいい、お互い和やかな雰囲気で話は進む。
「レイン公爵、こちら既にお会いになっているそうですが、私の息子のアルクです。再来年、ご令嬢と同じ年に王都に行くことになります、学友ともなるでしょうしご紹介させていただきたいのですが」
「ああ、アルクくんが娘の学友となってくれるなら私も安心できる。フレアこちらスティング家ご子息のアルク・スティング殿だ」
「ご紹介に預かりました、アルク・スティングです。光栄にも再来年に学友になるということで、良好な関係を築ければと思っています」
紹介されて挨拶をする。フレア嬢は燃えるように赤い目と長い髪、10歳にして既に美人と言って差し支えない利発そうな顔立ち、かといってキツイ印象は一切与えない快活な雰囲気で、よく鍛えていることがわかるスラっとした女の子だった。
「あなたがアルク様ですか、先日は妹を助けていただいたそうで、こちらこそ良好な関係を築ければと思います。その第一歩としてどうでしょう、貴族としてではなく、将来の学友として少し前倒しでお話するというのは」
「フレアがそういうのなら俺はいいよ。こっちの方が気が楽だし」
「ふふっ、いくら本人に言われたからとは言っても公爵令嬢相手にいきなりそこまで態度を崩せるのは流石ね。私もこの方が気が楽でいいわ」
お、これは気が合いそうだ。お互いに気兼ねしない友人関係になれる確信がある、その程度にはなんというか波長が合う。
「アルクお兄ちゃん!」
「ああ、コルンちゃん、お姉ちゃんにプレゼントを渡したんだね。イルカの髪留めも似合ってるよ」
「うん!お兄ちゃんのおかげで渡せたよ!」
そう、フレアはペンギンのブローチを付けていたのだ。少し貴族の社交界には似合わないがかわいい妹からの誕生日プレゼント、どうしてもつけたかったのだろう。それにコルンちゃんもイルカの髪留めをしていて、姉妹で海の生き物を身に着けている、仲の良さが伝わるというものだ。
コルンちゃんからお姉ちゃんにプレゼントを渡せて嬉しかった、お姉ちゃんもすごく喜んでくれた、顔をずびずびにして帰ってきたクラミーが、コルンを見た瞬間に腰が抜けて動けなくなってて面白かったなどいろんな話を聞く。やっぱあのメイドさんがクラミーだったか…、罰は受けたがドジをするのはいつものことだし、コルンちゃんが離れるのを嫌がるので専属であることは変わらないらしい。
「あの、アルク様」
もう一人の公爵令嬢、先ほど俯きがちに歩いていた女の子から声をかけられる。
「プリム・レインといいます。先日はコルンを助けていただいたようでありがとうございました」
そう言って顔を上げたプリムと目が合う。先ほどは俯いていたから見えなかったが綺麗に澄んだ青い瞳をしていて、相手に安心感を与える優しそうな美少女だ。だがその青い瞳の奥には何か、なぜそう思ったのか俺にはわからないが、少し罪悪感のような、苦しんでいるような、誰かに助けを求めるほの暗さを感じた。
それを見たとき、俺はなんでこの世界に転生したのかを理解した。どうしてこの国に、スティング家に産まれたのか、理屈なんてなかった、おそらく死ぬ間際になってもそんなものは分からないだろう。だがそんなものは問題じゃないのだ。ただ一つ、俺はこの子に出会うためにここに来た。ただ一つ、俺はこの子を幸せにするためにこの国に産まれた。ただ一つ、この女性に恋するため、俺はこの世界に転生した。
「プリム様、俺と結婚してください」
前世でも言ったことがない、この場で言うには場違いすぎて適さない、2つの人生を捧げた初恋は、自然と、それが当然であるかのように、真っすぐ相手のもとへと飛び出した。




