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25.5:出席

 今日は一つ上の姉の誕生会、私の父はベルデ王国の公爵、その長女の誕生会となれば多くの貴族がここレイン公爵領レイアに訪れる。レイン公爵家は代々ベルデ王国の軍部を担当しており、父は4属性で上級魔法を使えるだけでなく、剣の腕も王国随一とされる今代の英雄だ。


 この日、10歳を迎える姉も炎と土の2属性で上級魔法を扱い、魔具の形態は父と同じ剣、王国の英雄から直接手ほどきを受けた剣術の腕は、同年代だけにとどまらず、成人を迎えたばかりの男性ぐらいならば上回ってしまう。


 軍を率いるレイン公爵家では武の実力はとても大切なものだ、上級魔法を使えれば軍団戦を優位にし、卓越した武は兵士たちの心を纏め、畏敬の念を集める。そんな公爵家の役目に適した才能を持ち、努力を怠らない尊敬できる父と姉、私も魔法を使えるようになったら、2人と共に戦場に並び立ち、その重役を支えよう。


 そう、本洗礼を受けるまでは思っていた。私には戦うための才能はなかったのだ、水と光、2属性の適正が分かったところまではよかった、姉の使えない2属性、水は軍の行軍を助け、光は兵士たちの傷を癒す。たとえ中級しか使えなかったとしても私はこれで大好きな2人の役に立てる。


 その希望は次の瞬間には絶望に変わった。私の魔法出力と魔力量はDしかなかった。出力Dでは一度に大量の水も出せないし、怪我も重症は治せない。魔力量もDでは魔法を使い続けて水をため込むこともできない。私は魔法において、2人と共には戦えない、できてもせいぜいがお手伝い止まりだ。


 だが魔法使いには魔具がある、魔具というのは魔法使いの魂を現したもの。最も本人に適した形を取るもの。それを鍛えればまだ戦えるかもしれない。


 だがそんな希望も幻想に過ぎなかった、私の魔具は盾の形を取ったのだ。


 その時、私は自分でも気づいていなかった本心を見せつけられた。父が好きだと、姉が好きだと、必ず強くなって2人の役に立つのだと、そう言っていた私の心は、戦いに恐怖していたのだ。大好きな2人への憧れから、私自身気付かない内に、私自身を騙し続けてきたその虚栄も、魂を現す魔具は配慮してくれない。


 その日から、大好きだったはずのレイン家の訓練に顔を出さなくなった。昨日まではみんなの訓練風景をみてどきどきしていたのだ。煌めく刃、突き出される槍、飛び交う魔法、みんな真剣な表情で打ち合い、躱し、時に当たって治療を受ける。そんな光景を見てどきどきしていた私の心は高揚で高鳴っているのだと、私に思わせていた虚栄はもうどこにもない。


 本当は怖かったのだ、不安だったのだ。大好きなみんなが、大好きな父が、大好きな姉が、怪我をしてしまうのではないか、死んでしまうのではないか。そんな本心に気付いたとき、私はもうそんな光景に目を向けることはできなかった。


 父も、母も、姉も、屋敷のみんなも、まだ幼い妹ですら、私のことを心配してくれる。本当に優しい家族だ。大好きな家族だ。そんな家族にこんな顔をさせてしまっている。申し訳ない、ありがとう、でもごめんなさい。こんな役に立たない私でごめんなさい、臆病な私でごめんなさい。


 家族に会うのも嫌になった。会うたびに、顔を合わせるたびに、罪悪感が心を埋め尽くす。可能な限り私は部屋で過ごすようになった。ここなら私一人しかいない。私以外だれに迷惑をかけることも、私以外だれに心配をかけることもない。私の部屋は私の砦で、私を閉じ込める牢獄だった。


 そんな部屋から出て社交界に出席する。部屋にこもりがちな私を、少しでも楽しませようと家族が催してくれたのだ。出席せずにいるほうが罪悪感に苛まれる。私の砦にまで罪悪感が入り込む。


 社交界はいつでも姉が主役だった。父と同じ赤い色をした長い髪、将来美人になるとわかる利発な顔立ち、鍛錬をしているからこそのしなやかな体型、公爵令嬢というその立場。本人の性格も快活で、貴族子息からの婚約の申し込みが絶えない。


 隣に立つ私にも婚約の申し込みがくる、だが相手の目は常に父を見ていた。その目は私を見ていない、私の持つ公爵令嬢という立場だけを見ているのだ。


 逆に気が楽になった、社交界に私を見ている人なんていない。いるのは両親と姉と公爵家という権力を見ている人間だけ、家族も貴族達の対応で私を見ている暇なんてない。誰にも見られていないのなら、私はいないのと変わらない。


 少しだけ、社交界への出席に前向きになった、そんな私を家族は喜んでくれた。私が私のいない社交界に出ることで家族が喜んでくれるのだ、こんな私でも家族に喜んでもらうことができるのだ。


 そんな空虚な罪滅ぼしを数年して、今日もまた一つ罪滅ぼしを重ねる。


「この場にお集まりのみなさん、今日は私の娘、フレア・レインの10歳の誕生会にご出席いただきありがとうございます!本日は美味しい料理、美味しいお酒を用意しました。さらにそれだけでなく、ありがたいことにスティング伯爵家の方々がマウントボアの肉をお持ちしてくださいました。この晴れの日に、大いに踊り、食べ、飲み、楽しんで頂けましたら幸いです!乾杯!」


 父の挨拶で誕生会が始まる。上品な音楽が会場を包み込み、それに合わせて紳士淑女が中央で踊る。周りに立つ大人子供が料理に飲み物に舌鼓を打ち、身分のよいものから順に姉に声をかけにくる。


 今日は姉の誕生会、なにもなくとも社交界の華となる姉が主役の日だ、私はいつも以上に見られない。


「アルクお兄ちゃん!」


 妹が突然声を上げる。目を向けるとそこにいたのはスティング伯爵家の人々だった。夫婦の方は社交界で見たことがあるが、連れている子供の方は見たことがない、同い年ぐらいだろうか。先日妹が迷子になりそれを貴族の男の子が助けてくれたと聞いた、妹が懐いてる様子をみるとおそらくその人だろう。


 少しだけ、興味がわいた。妹を助けてくれた恩人なのだ、姉として一言ぐらいはお礼を伝えたほうがいいだろう。役に立たない私だが、お礼を伝えるぐらいならできる、せめて礼儀の知らない次女を育てたと、家族が言われるようなことは避けなければならない。


 そう思って、いないものだった私は、主役の妹として、誕生会に出席した。

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