25:迷子の迷子の貴族ちゃん、あなたのお家はここですね?
はい、やっぱりレイン家の子でしたっと。お家が分かっているのならどこにいるかわからない保護者を探すよりも、確実に保護者がいる家まで連れて行ったほうが確実だ。というわけで
「やだ!まだお姉ちゃんのプレゼント買えてないもん!」
「oh...」
俺の立てた作戦は一球目で弾き返され見事場外ホームランだ。場外に飛んでしまったボールを取りに行くことはできない、作戦の立て直しが必要だ。
「じゃあお兄ちゃんたちとプレゼント探そうか?プレゼントを買ったらお家に帰ろう?」
「それならいいよ!」
というわけで誕生日プレゼント購入RTA、はーじまーるよー!まあプレゼントを探してる内にコルンちゃんの保護者がこちらを見つけるかもしれない。コルンちゃんの機嫌を損ねないことを最優先にしよう、小さい子に泣かれたら敵わない。
こういうのはコルンちゃん自身で選ぶのが大切だから行き先はコルンちゃんに一任、俺たちまではぐれるわけにいかないので走りだしてしまわないよう、リースがコルンちゃんを抱っこして移動し、とあるアクセサリー店に入った時だった。
「これかわいい!イルカさん!」
「お姉ちゃんはイルカさんが好きなの?」
「ううん!お姉ちゃんが好きなのはペンギンさん!」
違うんかい。イルカを好きなのはコルンちゃんみたいだ。目がイルカの髪留めから離れない。2人から少し離れて店内を物色していると、ペンギンのブローチが目に入る。
「コルンちゃん、ペンギンさんあったよ」
「うわぁ!この子もかわいい!プレゼントこの子にする!」
「そっか、じゃあお会計をしないとね」
会計に行こうとするがリースがその場から離れない。何かを見ていてこちらに気付いていないようだ。
「スールお姉ちゃん?」
傍に行くとリースはとある髪飾りに目を奪われていた、サファイアや貝殻などを用いて海を表現した上品な髪飾りだ。リースがこういったものに興味を示すのは珍しいがそれも納得の美しさだった。
「あっ!ルークごめんなさい、何かしら?」
「ちょっと会計を済ませてくるからコルンちゃんと待っててもらえる?」
「ええ、わかったわ」
「おねえさん!これください!」
「あら、かわいいお客さん!それでいいのね?」
「うん!」
コルンちゃんが店員さんを呼び、欲しい商品を伝える。おねえさんは商品を持って袋詰めのためにレジの方に向かう、コルンちゃんにリースと待っているように伝え、俺はおねえさんについていく。
お支払い?貴族の女の子が自分でお金を持っていると思う?お金は自分で払うものだと知っていると思う?そうです、支払いは俺の仕事です。
「お姉さん、ちょっといい?」
「はい?」
追加でお願い事をしてその分の代金も一緒に支払う。まあ頑張った女の子にはご褒美があってしかるべきじゃない?
「よし、じゃあプレゼントも買えたしコルンちゃんのお家に帰ろうか」
「うん!お兄ちゃんありがとー!」
リースと合流して店をでる、目的を達成してコルンちゃんもご機嫌だ。お姫様がご機嫌な家に城にお帰りいただこう。コルンちゃんのメイドさんは大丈夫だろうか…?まあどこにいるか知らないし、ごめん見知らぬメイドさん。
ゴンドラにのってレイン公爵家の近くまで乗せてもらう。屋敷が見えるところまで来てしまえばかなりでかいしコルンちゃんがいるのだ、屋敷を見間違えるなんてありえない。
「キース、ジル!ただいまー!!」
「あれ?コルン様?お帰りなさい。なんで抱っこされて帰ってきたんです?その人たちは誰ですか?」
ん?騒ぎになるかと思ったが門兵さんは特に焦った様子がない。レイン公爵家は思ったより放任主義なのだろうか。
門兵さんに事情を説明する間、一人には屋敷の人を呼んでもらう。実はかくかくしかじかで…。
「ああ~…、クラミーのやつまたやらかしたのか…。しかも今回のは流石に最悪な部類だな…」
「そのクラミーってのがメイドさん?」
「ええ、まあ俗に言う駄メイドってやつです。すげえドジなんで色々やらかすんすけど、悪いやつじゃないんすよ。むしろ良い奴なんですけどドジなせいで空回って失敗ばかり。そのドジを面白がってるコルン様が専属にしたいってわがまま言ってコルン様の専属になってるんですよ」
なんとこの世界にもいるのかドジっ子メイド。しかもコルンちゃんはドジっ子メイドの良さがわかるとは、将来有望だ。
「コルン様が迷子になったなんて報告は来てないんで、焦ったクラミーが街の方を探し回って屋敷への報告を忘れている形でしょう。まあつまり」
「つまり?」
「今となっちゃクラミーが迷子ですね」
「…」
門兵のキースさんと話をしていると屋敷の方から執事さんが出てきた。おお、シルバ並のナイスミドルだ。シルバと違って柔らかな雰囲気で優しそうな人だ。
「キース、コルン様が帰ってきたところ異常ありとジルから聞きました、事情を説明してもらえますか?」
「はい、セバス様。実はこちらの方々が…」
執事でセバス!執事でセバスだって!?あまりにもお決まりの名前だ!いや、一目見たときからあなたはセバスに違いないと思ってました!
「なんと…そういうことでしたか…。ルーク様、スール様、お嬢様を保護してくださりありがとうございます」
「いえいえ、流石にコルンちゃんを一人放っておけませんでしたし。すごくいい子で俺たちも楽しかったですから」
「そう言っていただけますと幸いです。お礼もせずに帰したとなってはレイン家としての面目が保ちません。少々おもてなしさせていただいても?」
あー、貴族的にはそうだよなあ。借りはできるだけその場で清算しておく。まして今回は令嬢の護衛をさせたようなものだ、まったくなにもしないとあっては無用な隙を作ることになる。…うん、それにこれはちょうどいいかもしれない。
「日が沈むまでに宿に帰らないとならないので少しの間ですがご厚意に甘えてよろしいでしょうか?」
「確かに日暮れまでもう少しですね、ではお帰りは私共が馬車をお出ししましょう」
「ありがとうございます」
セバスさんに案内され屋敷の応接室に通される。セバスさんはレイン公爵を呼びに行くついでにコルンちゃんを連れて行こうとしたが、まだバイバイしたくない!とのことでまあもう少しぐらい一緒にいてもいいだろうとコリンちゃん含め3人でセバスさんとレイン公爵を待つ。
「コルン!迷子になっていたと聞いたが本当か!?大丈夫だったか!!」
バゴン!と大きな音を立て、勢いがよすぎるほどに開かれた扉から赤い髪をした男性が飛び込んできてコルンちゃんを抱きしめる。その後ろではセバスさんが申し訳なさそうに微笑んでいた。ああ、やっぱり?人違いじゃない?イメージと違いすぎるから人違いであってほしいなーって思ったんですけどダメ?
「君たちがルークくんとスールちゃんか、この度はコルンを保護してくれたそうでなんとお礼を言っていいか…」
「いえいえ、一人でいる子を放って置けなかっただけですので」
「あのね!パパ!ルークがクレープっていうたべもの買ってくれてね!すっごく甘くておいしいんだよ!」
「そうかそうか、すっごく甘くておいしかったのか~~」
ダメだ、レイン公爵がデレデレだ。少しお願いしたいことがあるのだがどうみても頭が回っていない。
レイン公爵が落ち着くまでセバスさんと話をしながら少し待つ、一通り今日あった出来事をコルンちゃんが話し終わったあたりでレイン公爵に声をかける。
「レイン公爵、不躾で申し訳ないのですが実はお伝えしておきたいことがありまして」
「む?なんだね?」
「実は私の本当の名前はアルク・スティングと言います。本日コルン様とお会いしたのはこちらのメイドのリースとお忍びで街を散策している時でして…」
俺が伝えておきたかったことは俺とリースのことだ。コルンちゃんと出会ってから家に届けるまで、俺とリースはルークとその姉スールとして行動している。このままレイン公爵家をお暇してしまうと来週の誕生会で無用な混乱を招くだろう。今日行ったことが下手に両親にバレてどこを怒られてもおかしくない、だって貴族らしくない行動を気兼ねなくするためにお忍びになってるわけだし。
「なるほど、君がスティング家のご子息だったか。マウントボアを一人で狩れるそうじゃないか、スティング伯爵からお土産として肉をいただいた、真面目で努力家だと伺っているよ」
「いえ、将来なりたいものがはっきりしないために出来ることを可能な限り増やそうとしてるだけですよ」
「そういう考えが既にできているあたりが真面目で努力家なのだ。しかしそんな君が食べ歩きのためにお忍びか、ふふっ、聞いていた以上に子供らしいじゃないか」
「まだ10歳の若造ですので」
「…10歳の子供がする言い回しではないな。だが事情は分かった。大方口裏を合わせてほしいのではないかな?」
「ご推察のとおりです、両親に変な疑いを持たれても困りますから」
そうしてレイン公爵と今日のことに関してカバーストーリーを用意し、そろそろ宿に戻らないとならない時間になってきた。
「ではお世話になりました」
「いや、なに今回世話になったのはこちらだ、コルンのことをありがとう。本当に助かったよ」
「アルクお兄ちゃん!リースお姉ちゃんまたね!」
レイン公爵とコルンちゃんがお見送りをしてくれる。…っとそうだ、コルンちゃんに渡すものがあるんだった。
「そうだコルンちゃん」
「なーに?アルクお兄ちゃん?」
「はいこれ、お姉ちゃんのために頑張ったコルンちゃんへのご褒美」
「なに?これ」
「開けてごらん?」
俺が渡したのはプレゼントを買った店で最初にコルンちゃんが気に入っていたイルカの髪留め、一人心細くても大好きなお姉ちゃんのために頑張った女の子に、一つぐらいご褒美があったっていいだろう。
「イルカさんだー!アルクお兄ちゃん!つけてつけて!」
「俺がつけるの?」
「アルクお兄ちゃんがくれたからアルクお兄ちゃんにつけてほしいの!」
「…そっか、わかった。今付けるね」
コルンちゃんの前髪を軽く止める。前髪がまとまり、コルンちゃんの綺麗な青色の瞳がよく映えるようになった。イルカと瞳の色が合っていていいワンポイントになっている。
「よし、できたよ」
「えへへ、お兄ちゃんありがとう!」
うん、これだけ喜んでくれたならプレゼントした甲斐があったというものだ。
「アルクくん」
「?、なんでしょうレイン公爵」
「コルンはやらんぞ」
「……」
10歳を本気で威圧するのはどうかと思います。英雄の姿かこれが。見てみろ隣のセバスさんも呆れているぞ。
そうして俺とリースはレイン公爵家を後にする。リースに楽しんでもらえたら帰るつもりだったが思ったより遅くなってしまった。だがリースはかわいいコルンちゃんのお世話ができてとても楽しかったようで、コルンちゃんと出会えたことも考えればトラブルも悪い物じゃなかったな。
あっ、泣きながらメイドさんが走ってる…。身長が低く、だが体の一部はそれに似合わぬ主張をしている。美少女なのだが鼻水も垂れ流し、顔をずびずびにしながら走るメイドさんはなんというか、その…。うん、申し訳ないけどあまりにも面白い。面白すぎて声をかけそびれた。
そうして宿に到着し、カウンターに配達しておいた荷物を受け取る。元の服に着替え直し、これで部屋に戻っても父様、母様にお忍びがバレることはないだろう。
「ではアルク様、お部屋のほうに向かいましょうか」
「そうだねリース。っと、そうそう、リースにも渡すものがあってさ」
「?、なんでしょう」
「少し目をつぶってしゃがんでもらっていい?」
そうして俺はリースへのお土産を髪につける。うん、やっぱりリースの黒髪にこの髪飾りはよく似合う。
「もういいよ」
「アルク様?先ほど髪を触られていたのはなんだったのでしょう?」
「リースにもお土産をと思ってね」
そういってカウンターで借りた手鏡をリースに手渡す。
「これは…」
リースが覗き込んだ鏡には、サファイアと貝殻を散りばめた海のような髪飾りが映っていた。




