22:家族旅行計画
俺の冒険者資格は無事に期間に定めのないEランクということになった。Fの期限を無くすよりEの期限を無くす方が無理がなく、戦闘力も申し分ないとのことでこうなった。
そうして領内を巡ってダンス体験会を行い、実践訓練として狩った魔物を売ってお小遣いを貯めること1年、俺は10歳になっていた。この国では貴族子息が10歳になると近隣貴族を招いて誕生会を行う。2年後に学園に通うことになるので年の近い人がいれば向こうでよろしくお願いします。という顔合わせ目的でもある。
「アルク、レイン公爵家から誕生会の招待状が届いている。先方の長女はお前と年が同じだからな、学園ではお前の学友となるだろうしお前も連れて行くぞ」
「わかりました父様」
レイン公爵家、ベルデ王国において軍部を担当している国防の要だ。当主であるコンラート・レイン公爵は火、水、土、風の4属性で上級魔法を使える上に魔具である剣の腕も超一流、軍略にも精通し、まさに文武両道で超一流の英雄だ。
そこの長女が同い年らしい。となると将来の学友である、爵位も上の家のご令嬢、失礼の無いように顔を覚えておかないとならない。
「レイン公爵領までは街や村に視察を兼ねて泊まりながら向かうことになる。道中魔物が出たときにはアルクの訓練の成果も見せてもらうからそのつもりでな」
「お母さんもアルくんの頑張りを見るの、楽しみにしてるわね」
よく考えたら両親と遠出するのは初めてだ。領内の視察に出かけるときは付いていくのはエリック兄さん、俺の遠出は訓練や授業の延長なのでガーランド達講師陣が一緒だった。
「そういえば父様、母様と遠出するのは初めてですね。俺も楽しみにしています」
「アルクは必要な訓練が多かったからな、寂しい思いをさせてしまったか?」
「いえ、やらないといけないことが多いのは分かっていました。それに俺が将来困らないためだということも」
「理解していてくれて助かる。だがそうだな、なかなかこういう機会もない、レイン公爵領の領都レイアでは少し3人で観光でもしよう」
「本当ですか!?」
「ああ、シルクももっとアルクと遊んでやりたいと言っていたしな」
「そうなの!でもカイルはアルくんの訓練を増やすし、アルくんも真面目に訓練してるし、邪魔しちゃいけないと思って我慢してたのよ?」
前世の記憶があるから両親に甘えたい、という気持ちは薄い俺だが、前世の記憶があるからこそ家族の大切さは分かっている。いつ誰が死ぬかわからない、そんな人生を共に歩み、無条件でお互いに愛し合える関係、それが家族。もちろんそんな家族ばかりではないが少なくとも家族愛の深いスティング家はそんな家族だ。どんな最期になろうとも、満足して人生を終えるには家族の思い出というものは大切なものだ。
それに観光だ、公爵領の領都レイアともなればステンよりも発展していることだろう。これは頑張って貯めたお小遣いの使い時かもしれない。
「レイアは何が名産なのですか?」
「レイアは湾岸都市でな、街中には川が流れていてゴンドラが運行されている。新鮮な海産物が美味しく、水と調和した街並みは人魚が住まうと言われるほど美しいそうだ」
「おお!それはすごく楽しみですね!」
「貴族にも観光先としてすごく人気が高いのよ?綺麗な街に美味しい料理、レイン公爵家が持つ船、どんな人でも楽しめるわ」
前世で言えばヴェネチアのような感じだろうか。貯めたお小遣いの使い時で間違いないみたいだ。
「出発はいつ頃になるのですか?」
「誕生会が二ヶ月後だから出発は一ヶ月後になる。視察しながら向かって誕生会の1週間前にはあちらに到着している予定だ、道中問題なければ誕生会前に、到着が遅れれば誕生会後に観光をしよう」
「わかりました、楽しみにしています」
出発まで一か月か、レイアまでの道のりも時間がかかりそうだし、ガーランドと相談して少し追加で魔物を狩って小遣い稼ぎ、それと道中で読む本が欲しいな、エメラにおすすめの本を聞いて買っておこう。
「ガーランドちょっといい?」
「どうした坊主?」
「来月レイアに行くことになってね、少し追加でお小遣いを稼いでおきたいんだ」
「お!レイアか!あそこの魚はうめえぞ!外国の珍しいものなんかもあるし、確かに金はあったほうがいいな。わかった、実践訓練の場所を見繕っておく」
「ありがとう!」
これで追加のお小遣いに関しては大丈夫だろう、訓練のついでに小遣い稼ぎができる、冒険者資格様々だ。あとは少しエメラの所に顔を出して出発までに本を見繕ってもらっておかないとな。
「リース、ちょっとエメラの本屋にいきたいからついてきてもらっていい?」
「承知しました、アルク様。すぐに準備いたします」
供も連れずに街に行ったら普通に怒られる。昔は屋敷を抜け出していたが流石にもう怒られることをわかっていて抜け出す必要もない。準備を済ませたリースと共にエメラの元へ向かう。
「エメラいるー?」
「アルク様?本日はどうなさったのですか?」
知り合って以降、たまに顔をだしてオススメの本を聞いて買っていたがエメラのオススメにはハズレがなかった。知っている本の種類も多く、こういったものが読みたいと言えば適したものを用意してくれる。あまり時間を取れない身としてはかなり助かっている。
「実は来月にレイアに行くことになってね、道中で読む本が2冊欲しいんだ。3週間後に買いにくるから何かいい本を見繕ってもらっておいていい?」
「レイアですか…、往復で読まれるのでしたら長めのお話のほうがよろしいですかね?どのような話がご希望ですか?」
「そうだなぁ…、せっかくだしレイアらしい話がいいかな」
「レイアらしい話ですか…。わかりました、いくつか候補がありますのでご用意しておきますね」
「悪いけどよろしく頼むよ」
少し先の話にはなるが見繕う時間も必要だし、今買っても読みたくなってしまいレイアへの旅程までに読んでしまったら意味がない。
「アルク様、以前オススメした本はいかがでしたか…?」
「ああ、龍と聖女の話?タイトルを見たときは聖女の優しさで心を通わせるハートフルなやつかと思ったけど、まさか聖女が龍を殴って支配下に置くとは思わなかったよ」
「ふふっ、最初は嫌々従っていた龍がだんだんと聖女のことを理解して本当のパートナーになっていく過程が面白いんですよね」
エメラのオススメで読んだ本の感想をお互いに語り合う。こういった感想を語り合うのはお互いに楽しいし、エメラとしては客の趣向がわかるから今後勧める本の参考になるそうだ。まあそれ以外の目的もあるみたいだが、そこは見て見ぬふりをするのが物語を続けた者の責任だろう。




