21:小遣い稼ぎ
リリィちゃん主催のダンス体験会はとても好評だった。俺が予想していた女性陣からの支持だけでなく、男性陣からの評価もかなり高い。長年連れ添った妻にいい思い出を作ることができたという老紳士、幼馴染の意外な一面を見て交際することになったという青年、ダンスの楽しさだけでなく、それがもたらす人間関係の変化が多くの参加者を幸せにできたようだ。
「うんうん、みんな楽しめたみたいね!じゃあこの実績を報告して、領内各地でやるわよ~~~!!!」
「ああ、やっぱりそうなるんだ」
そうなる気はしていた。実践、経験を重視する我が自慢の講師陣である、ダンス体験会もあの1回で終わるわけなかったし、リリィちゃんの多くの人に楽しんでほしいという思いからすると、領内のある程度の規模の街数か所でやることになるのは予想がついた。
領民の慰労にもなるということが実績として示され、各地での開催が許可された。ある程度の大きさを持った会場が必要になってしまうため、開催できる街は限られてしまうが、その分近隣の村にはあらかじめ通達を出し、希望者はスティング家が送迎の馬車を出すことで領内全体の慰労にしようということだ。
こうなるともう俺の練習でありながらスティング家子息としての仕事でもある。と、いうわけで
「父様!お小遣いをください!」
「突然どうしたアルク、必要なものは買い与えているだろう」
「欲しい物があるわけではないのです!」
スティング家のお金はもとはと言えば税金である。税金がスティング領に納められ、スティング領の仕事をするスティング家に領から給金が支払われる、という名目でスティング家にはお金が入ってくる。つまり父さんのお金も、母さんのお金も貴族としての仕事をしているから貰えるわけだ。スティング家の使用人も形式上はスティング領が、スティング家の維持管理のために雇っている形だ。
「私ももうすぐ10歳、数年後には王都の学園に通うことになります。学園生活を楽しむためにも自分の裁量で使えるお金を貯めておきたいのです!今回のダンスによる領内の慰労は貴族としての仕事と言っても差し支えないかと!」
「ふむ、まあ一理あるか。領内慰労のための人件費としてなら問題もあるまい、いいだろう、シルバに適正な額で渡すよう伝えておこう」
「ありがとうございます!」
やったねアルク!お小遣いゲットだ!!貴族ならさぞ多くのお小遣いが貰えるに違いない、転生直後はそう思っていました。しかし現実は現物支給、あれが欲しい、これが欲しいと言えば買ってもらえたりもらえなかったり。というシステムだったためお小遣いをもらったことがない。街に出て買い物するのも同行しているリースが預かっているお金から支払われるのだ。
つまり俺自身は無一文である。再来年には王都にいくのだ、遊ぶ金ぐらいは欲しいじゃん?そのためには今回のことは丁度いい機会だった。
「坊主、金が欲しいのか?」
「まあ王都で3年過ごすのに自由に使えるお金がないのは困るじゃない?」
「それもそうか。それならよ、坊主、冒険者登録しないか?」
「前にも言ったけど冒険者になるつもりはないよ、俺」
「冒険者になれって意味じゃなくてよ、冒険者登録しておけばギルドで魔物の素材なんかを売れるだろ?ダンス体験会を開く街なんかはどこもギルドが置いてある、道中で坊主が狩った魔物を売ればいい。」
「あー、売るためだけの登録ってこと?」
「おう、スティング家を通したりスティング家のアルクとしてどうこうすると色々めんどくせえだろ?冒険者アルクが魔物を狩って素材を売るだけのほうが手間がねえ」
「そういう意味かぁ。その手はありだね」
建前が大事な貴族社会、前に戦ったイノシシなんかはスティング家として対応しているから素材を売ったお金なんかもスティング領に入ってしまうし、俺の訓練ということになってるから俺にはビタ一文入ってきていない。
しかし、冒険者登録しておけば冒険者アルクという身分を作ることができる。アルク・スティングと冒険者アルクが同一人物であることは問題ない。なにがしかの対応をしたとき、どちらの立場として対応したかが問題なのだ。
「父様にも相談してみるよ」
「おう、坊主はいずれ自立しないとならない次男坊だ、エリックの坊ちゃんに何事もない限り領主の仕事関係で手伝えることも限られる。その辺も織り込めば旦那は許してくれると思うぞ」
「わかったよ」
カイル父さんに相談したところすんなりと許可はもらえた。跡継ぎになれない貴族子息が冒険者になることも珍しくない。スティング伯爵家で何かの仕事をするのも無しではないが、エリック兄さんの次の代になるタイミングで跡目争いを引き起こしかねないので俺は家を出ておいて、兄さんになにかがあった場合のみ戻る形式の方が間違いないということで、可能な限り俺には自立が求められている。
「ガーランド、父様から許可もらえたよ」
「そうか、じゃあ忘れないうちにさっさと登録しちまうか」
「そうだね、ガーランドもいればすぐ終わるでしょ」
「おう、任せとけ」
ガーランドに連れられて冒険者ギルドに来た、屋敷を抜け出して覗きに来てた頃はめちゃくちゃに甘やかされたがあの頃と違ってもう10歳、もしかしたら絡んでくる世紀末モヒカン野郎なんかもいるかもしれない。というかテンプレすぎて見てみたい。
「ようリンダ、今日はちょっと坊主の冒険者登録を頼むわ」
「あらガーランドじゃない。ガーランドが連れてきたってことはその子はアルク様?おっきくなったわねー」
「来た事あるの覚えてるの?」
「そりゃ覚えてるわよー、むさっくるしい男がほとんどの中で来てくれた貴重なかわいい子供だったもの、あの頃は冒険者連中も子供にいいとこ見せるんだって真面目に働いてくれてたものよ」
あの頃めっちゃ甘やかされてたのそんな影響があったの…。
「しかしあの時の子が冒険者登録ねえ…」
「と言っても冒険者になるわけじゃねえけどな、事情があって冒険者としての身分を持っておきたいってだけだ」
「ああ、そういうことね。そうなるとギルマス呼んだ方がいいかしら?」
「そうだな、頼むわ。普通の冒険者資格だと坊主も困るだろ」
「何か困ることがあるの?」
普通の冒険者資格と言っているってことは普通じゃない冒険者資格もあるのだろうが、普通だと何かこまるのだろうか。
「普通の冒険者はFランクから始まるんだけど、依頼を一定期間やらないでいると冒険者資格の剝奪になるのよ。Dランクからそれでいきなり剥奪なんてことはなくなるんだけど、その他ギルドマスターが認めた場合に特記事項として期間を免除したりと色々できるの」
そういうことなら確かに普通の資格だと困ってしまう、王都に行く前の2年間、王都にいる3年間の計5年。小遣い稼ぎをしたいが貴族である以上依頼を受けられるかなんてわからない。そんな状態で期限を設定されてしまっても対応できない。
「まあアルク様は領主様の息子だし、ガーランドが保証人になってくれるんでしょ?なら問題ないわよ。今呼んでくるからちょっと待ってて」
「うん、お願い」
ステン支部のギルマスかぁ、たまに父さんやエリック兄さんが仕事で関わってるのは知ってるけど、俺は会ったことないんだよなあ。どんな人なのか楽しみだ。
「おう!冒険者登録するのに特記事項を設定したいって子供は兄ちゃんか!」
「あ、うん。そうだよ」
後ろから声をかけられて返事をしながら振り返る。そこにいたのは頭頂部の髪の毛をピンと真っすぐ立て、両サイドはそり落とし、とげとげとした肩当てをした。オブラートを剝がして言ってしまえば世紀末モヒカンだった。
えっ…、世紀末モヒカンのポジションそこ…?




