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18:人それぞれのダンス

 あれから数か月、リースと踊りリリィちゃんからダンスについて、合格がもらえた。合格と言ってもまだ曲によってステップは変わるため追加で何種類か覚えなければならない。貴族として恥をかかない及第点をもう数種類習得しないといけない。


 ただ嬉しいのはダンス、楽器。ともに武術、魔法と通じるところはしっかりとあるため他がおろそかになる、という懸念が杞憂で済んだことだ。リズム感に相方と動きを合わせる意識、曲を理解し、豊かに表現する想像力。それらはしっかりと活かされ、ガーランド、サラとの訓練にも好影響を及ぼしている。


「坊主、戦闘のリズム、読みがよくなったな。動きのパターンも多彩になってきた」

「…アーくん、魔法の練度がかなり上がったね。イメージがしっかりしてる証拠」


 こうして全くの無関係に見える分野でも、役に立つ技術、知識がないとは限らない。そういったものを取りこぼさないためにも、どんな物事も真面目に取り組まないとならないのである。


「だが、リズムが良くなった分、それに固執して動きが読みやすくなってるな。パターンを増やしてもリズムから動きが読めちまう。もっと無理なリズムの転調なんかも取り入れねえとなあ?」

「…アーくん、これ出来る?やっぱり少し遅くなるね。イメージがしっかりした分融通も利かなくなってる。自由な発想も失わないようにね」


 こうして真面目に取り組みすぎた結果ダメ出しされてしまうのである。やはり幼い子供らしくもっとイタズラしたりサボって遊んだり、不真面目に元気いっぱい遊ぶべきなのである。


「アルクちゃ~ん!ちょっといいかしら?」

「リリィちゃん何?」

「今度街でダンスの催し物をやろうと思っているのよ、簡単に言えばダンス体験会って感じかしら」

「体験会?」


 街で体験会などして人は集まるのだろうか。領都に住んでいるだけあって住民は裕福な家が多い、しかし社交界に呼ばれる機会のある平民なんて国中見渡しても数えるほどだろう。


「あらぁ?ちゃ~んと人は集まるから大丈夫よぉ。女の子のお姫様になりたいって気持ちを甘くみちゃだめよ?」


 うーん、たしかにお姫様のイメージはあるし、女性は来るかもだけどダンスは男女ペアで踊るものだ、男側は集まらないと思うけどなあ…。


「そういうところが女の子を甘くみてるっていうのよ、まあ見てなさいな」


 一週間が経ち、領都ステンに用意されたダンス体験会の会場は多くの人で賑わっていた。


「男の方もこんなに集まるなんてなあ…」


 リリィちゃんの企画したダンス体験会、その会場には老若男女、多様な人々が集まっている。若干女性の方が多いが男側もこれだけいれば問題ない、スティング家の執事たちも加えれば補える範囲だろう。しかしみんなしっかりと着飾っていて、よくこれだけの人数が社交界に対応できるような衣服を持っているものだ。


「ほら!カーク!早く受付を済ませるわよ!男を連れてくれば無料でドレスとタキシードを着させてくれるのよ!!普段私に迷惑かけてるんだからこういう時ぐらい役に立ちなさいよ!!」

「アンナ待ってくれ!痛い!痛いから!急がなくてもドレスは逃げないよ!それにいつも迷惑かけられてるのは僕じゃないか!!君がやらかす度に僕が後始末をしているんだよ!!」


 …一組の男女が連れ立って受付に向かって行く。


 いや連れ立ってというか、女性が男性を引きずってというか…。なるほどリリィちゃんが甘くみるなと言っていたのはこういうことかぁ…。そりゃ男を連れてくれば無料で綺麗なドレスを着れるとなれば知り合いの男を引っ張ってでも参加するというものだ。


 見渡してみるとキラキラ輝く女性陣と対照に疲労感に包まれた男性陣が多い。あーあー、あっちなんて同族意識を持った男同士集まって慰め合ってるよ…。向こうで幸せそうにしている男女をみなさいな、男はキレイになったパートナーをすごく喜んでいるよ?君らに足りないのはそういう所だと思うよ?


「あら、アルクちゃん。準備できたのね」

「リリィちゃん、人が集まるって言ってたのはこういうことだったんだね。でもこれだけのドレスとタキシードよく用意してもらえたね?」


 ドレスもタキシードも相当に値段がする、それがどんな年齢でも対応できるように、子供用から大人用まで幅広く取り揃えてあるのだ。家で用意しても今回のことが終われば使い道もない、こういうことにあまりスティング領の予算を使ってもらえるとは思わなかった。


「やーね、これは全部私の私物よ。流石に私の趣味みたいなものにお金出してはもらえないわよ」

「え、全部私物なの…?ていうか趣味?」


 これだけの量の礼服を趣味で持ってるのか、劇団時代にどれだけ稼いでいたんだろう。


「ええ、趣味よ。女の子達におしゃれを楽しんでもらいたい、少しでも多くの人に音楽やダンスを楽しんでもらいたい、それでやってることだもの。まあ流石に人と場所はスティング家の力を借りるしかなかったけどね。そこはアルクちゃんの練習を兼ねるということでお願いしたわ」

「そっか、いい趣味だね」


 リリィちゃんはこういうところが尊敬できるのだ。芸術に真摯で、人に楽しんでもらえたことを本気で喜んでいて、心の底からもつスター性なのだろう。


「今日アルクちゃんにお願いしたいのはね、最初に一人の女の子を誘って真ん中でお手本を踊ってほしいのよ。今のアルクちゃんなら初心者をフォローしながら1曲ちゃんと踊り切れるわ」

「ああ、前に言ってた不慣れな子をフォローする練習ってことだね」

「そうよ、その後は同じぐらいの女の子を誘って踊ってあげて。身長が近い相手と踊る練習ができる機会だから」

「わかったよ」


 そうしていると開始の時間となり、今回の主催者であるリリィちゃんが会場前方にある拡声の魔道具の元に向かう。王子様にしか見えないイケメンが壇上に向かって行く姿は参加者の目を奪う。


「はぁ~い!今回のダンス体験会主催のリリィちゃんで~す!今日は紳士も淑女も着飾って、失敗しても楽しんで踊りましょう!ほ~ら、そこの男子たち~、疲れた顔してるけど、あなたを連れてきてくれた女の子を見てごらんなさい。いつもは見ないドレス姿で綺麗でしょ?あなた達はそんなドレスを見せたい相手に選ばれたのよ~?疲れてる暇あったら男をみせてみなさいな?」


 リリィちゃんがしゃべり始めると多くの参加者の顔が驚愕に染まる。驚いていないのはスターリリィちゃんを知っている人たちだろう。しかしそんな顔も話を聞いて変わっていく。特に変わったのは疲れていた顔をしていた男集団と、それを連れてきたであろう女集団だ。


 前者はそんなことが!?という顔を、後者は照れながら視線をそらし、その態度は全く否定の意味を成していない。ああ、そうか、リリィちゃんはこういった所まで読んでいたのだ。男性から女性にアプローチするのが基本だとされるのは前世でもこの世界でも変わらない。そんな中にあって女性からアプローチをかけられる機会というのは貴重なのだ。


 パートナーと連れ立っている参加者たちは気付いていたのだろう、暖かい表情でその集団を見守っている。


「さて、そんな初々しい子たちだけじゃなく、そこの長年連れ添った老夫婦も、これから夫婦になろうとする恋人たちも、長い人生の彩りに、これから教えるステップをしっかり覚えてダンスを楽しみましょう!」


 そういうとリリィちゃんは優雅に一礼し、参加者たちは拍手で応える。あんなに疲れた顔でやる気のなかった男性陣もやる気に満ちた表情でリリィちゃんに拍手を送っている。その表情はまるで教祖に導かれる信者のようだ。


 …それはそれで大丈夫か?

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