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17:shall we dance?

 昨日の俺は何かおかしかった。リリィちゃん精神系魔法かなにか使った?俺はニヒルでクールなアルクさんなのだ、熱血ヒートなアルクくんではないのだ。


「というわけでリースちゃんを連れてきたわ!」

「ブラン様、このような恰好は恥ずかしいのですが…」

「……」

「リリィちゃん…このような恰好は恥ずかしいのですが…」

「あらそんなことないわよぉ!すっごく似合ってるわぁ!黒い髪に青いドレス、それに、ふふっ、赤く染まった頬のコントラストがよく映えているわよぉ、ねぇ?アルクちゃん?」

「うん、リースよく似合っているよ」

「アルク様まで…」


 今日からダンスの練習のため、俺たちは今広めの空き部屋にいる。そんな部屋に相手役としてリリィちゃんが連れてきたのはリースだ。身長が少し離れているがまあ年齢的に仕方ないし、これ以上身長の近い相手が身内にいないし、なにより


「リースちゃん、すごく綺麗だからドレスを着た所が見たいわ!!」


 との一言でリースが相手役に決まった。この意見には俺も勿論同意したし、なによりもシルク母さんが乗り気だった。昨夜はリースを着せ替え人形にしてこれも似合う、あれも似合うと、なんなら衣服屋だけでなく仕立て屋まで呼んで商品のドレスを試すだけでなく、オーダーメイドでドレスを作らせていた。


 当のリースは昔から服は働きやすければよく、趣味?も俺を甘やかすことぐらい。おしゃれの経験もなく、普段ロングスカートのメイド服でいるから露出度の高いドレスが恥ずかしいのだろう。


「じゃあアルクちゃん、まず相手を誘うところからね」

「え?最初にそれ!?」

「せっかくリースちゃんが綺麗に着飾ったのだもの、最初にやることが個人でステップの練習だなんて、野暮じゃな~い?」


 いや、野暮かどうかじゃなく上達しやすいかどうかで練習メニューを組んでほしいわけだが…。見ればリースは恥じらいながらも少し期待した目でこちらを見ている。…まあ、乙女心専門家リリィちゃんの講義ではそれも履修範囲なのだろう…。


 しかし女性を誘った経験など前世の記憶を隅々まで探しても見当たらない、まあ恋愛経験なかったしな。着飾った女性を誘うのにただ踊ってもらえませんか?だけではいけないというのは貴族の常識として教えられている。一言なにか相手を褒めて誘わないといけないわけだが…。うーんなんて言おう


「リリィちゃんなにか誘う時のアドバイスある?」

「あら?リースちゃんのことをよく知ってるのはアルクちゃんでしょ?相手のことを想って、素直な気持ちで褒めればいいのよ」


 ふむ、つまりリースが喜びそうな言葉で褒めればいいわけだ、なんだ簡単じゃないか。


「リースお姉ちゃんすっごい綺麗だよ!一緒に踊ろう!」

「喜んで!アルク様!」

「舐めとんのかガキィ!!」


 リリィちゃん!?リリィちゃんの中のブランさんが出てきてるよ!?違うブランさんの中がリリィちゃんだ!


「リースちゃんも喜んでるけどそうじゃないわよ。社交界で仲良し姉弟を誘うことなんてないんだからちゃんと貴族として令嬢を誘いなさいな…」

「やはりダメだったか…」


 うーん、弟ロールプレイはリース的には大正解でもリリィちゃん的に大間違いだった。やはりこういう時は優男貴族ロールプレイをやるしかないのか、恥ずかしいけどまあ貴族なら普通のこととして受け入れてもらえるし、前世で見た優男キャラのセリフを総動員してやってやろうじゃありませんか。


「夜凪のように美しいご令嬢、私と一曲踊っていただけませんか?」

「…はい!」


 照れながらも嬉しそうに微笑むリース、そのひかえめに咲く小花のようなかわいらしい笑みは、長年一緒に暮らしてきた俺でも思わずドキッとしてしまう可憐さだった。


「あらぁ、やればできるじゃない。端的に相手の髪とドレス、2つの特徴を捉えて褒められてていいわよ。相手を誘う時に時間は掛けられないからどれだけ簡潔に想いを伝えるかが大事よ」


 お、合格点をもらえた。リースのこの表情を俺が引き出せたというのなら、恥らいを捨てて歯の浮くような台詞を言った甲斐があるというものだ。


「じゃあパートナーを誘うこともできたし、練習を始めましょうか。基本のステップを教えるから、しっかりとお互いのステップも確認しておくのよ。相手がどう動くかわかっていないと息を合わせる以前の問題なんだから」

「はーい」

「承知しました」


 リースと共に基本を教わり、曲に合わせて交互に一人でステップを踏む、その間踊ってない方は相手を見て、相手がどう動くかを目に焼き付けていく。


 慣れてきたところで二人で組んでステップを踏む、リースは流石主人の動きを察して動くメイドさんだ。俺にしっかりと合わせてくれる。俺も相手の動きに合わせるという点で、ケイルでの連携訓練がとても役立ってくれている。相手の動きに自分がどう動けば邪魔にならないのかがしっかりと理解して動ける。


「二人とも初めてでこれだけできるのはすごいわぁ!それに長年主従をしていただけあって息ぴったりね!ダンスに慣れるまで、2人でしっかりと練習していきましょうか!」

「ダンスに慣れるまでなんですか?」

「ええ、社交界で踊る時、相手がどれだけ踊りに慣れているかわからないでしょう?アルクちゃんやリースちゃんは相手に合わせるのが得意だから2人で踊っていてばかりだとそういうのが苦手な相手と踊る時に困ってしまうのよ。特にリードするのは紳士の役目、上手く踊れなければ淑女に恥をかかせたとなってしまうわ」


 ああ、なるほど。不特定多数と踊る以上、相手にリースと同等の協調性を求められるかわからないのだ。いや、普通は求められないだろう。一定の実力が付くまではリースと練習した方が速いだろう、だがフォロー等はリースとでは練習しにくいのだ、お互いに相手に合わせるのが得意すぎて。


「でも誰と練習するの?屋敷だとリースが一番身長が近いし、多分どのメイドとやっても合わせるのは得意だと思うよ?」

「まあそこはちょっと考えてることがあるから気にしないでいいわ、その練習もまだ先だしね」

「確かにそうだね。今はちゃんとダンスを踊れるように頑張るよ」

「それでいいわ、それにほら、せっかく着飾ったリースちゃん。今のうちに堪能しないと勿体ないじゃない?」

「ブラン様!?」

「それは確かにリリィちゃんの言う通りだね!」


 目の前にせっかくドレスを着た美少女メイドがいるのだ、今はそれを楽しもうじゃないか。

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