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15:帰宅

 両親の子供に見せない裏の顔をチラ見した翌朝、帰宅するための準備をシルバ達がしてくれている間に、今回お世話になった村民の人たちにリース、リーンと共に挨拶回りをしていく。


「先日はお世話になりました、おかげでいい勉強になりました」

「そんな領主様のご子息であるアルク様に頭をさげていただくなど恐れ多いです!森にでたイノシシも討伐していただいたようで私たちも安心して暮らすことができます」

「俺の訓練でもありますし、スティング家として当然のことですから」

「そう言っていただけますとありがたいです。そうだ、またうちの牛乳を持っていきますか?」

「本当ですか!?すごくおいしかったのでうれしいです!」

「では今お持ちしますね」


 そうやってお世話になったところを挨拶に行く度、イノシシ討伐のお礼とお土産をいただく。俺が顔を出すとみんな嬉しそうに礼を伝えてくるあたり、近くの森にイノシシがいるのは不安だったのだろう。


「アルクくんすっかり村の人気者だったねぇ!」


 馬車での出発直前、最後に村長達に挨拶をするとリーンからそんなことを言われる。


「お手伝いしてくれた子供がかわいいだけじゃない?」

「あははっ!それもあるけどアルクくんが素直で頼りになるからだよ、領主の息子がアルクくんみたいな子でみんな嬉しいんだよ」

「まあバカ息子だったら大変な目にあうのは領民のみんなだからねえ」

「隠さず言っちゃうとそういうことだね!」


 貴族としての教育を受けるときに父さんとシルバから最初に言われたことだ、ようするにノブレスオブリージュ。これは道徳的な意味だけでなく単純にそれが統治をするうえで合理的なのだ。上の者が下の者を助けるから下の者は安心して真面目に働けるし、反乱なども考えない。下の者が真面目に従順に働いてくれるから上の者の税収は増えるし統治もしやすい。


 逆に言えば上が好き勝手にやると下は不満を持つし、いざという時に助けなければ働き手は減り税収も減る、上の破滅に繋がっていくわけだ。情けは人の為ならずってやつだ。


「アルクくんは8歳でしっかりしてるねぇ。領主様の教育がいいんだね!」

「リーン…。いくら言ってもお前がしっかりしないのは私の教育のせいか…?」

「私は15歳で自由にやれてるねえ!お父さんの教育方針がいいんだね!」


 村長は大変そうだがリーンのこれはもう生来の気質だろう。まあスティング領は特に礼儀とか上下関係が緩いらしいので領内にいる限りは大丈夫だろう。村長は真面目だから頭を抱えているが。


「はぁ…。アルク様、この度は本当に助かりました。何もない村ではありますが、いつでもお越しください、村を上げて歓迎させていただきます」

「村長、こちらこそ泊めていただきありがとうございました。ミル村の農業試験はスティング領としても大切なものだと父から聞き及んでいます。今回は偶然のイノシシ討伐でしたが、また何かありましたらスティング家をお頼りください」


 実際ミル村が上手くいってくれればスティング領、ひいてはベルデ王国の食糧事情はかなり良くなるだろう。そうなればスティング家を継ぐエリック兄さんもかなり楽になるはずだ、将来何になりたいかまだ決まっていない俺だが、何をするにしても実家が裕福なら裕福なほどいいに決まっている。そういう意味ではミル村は俺にとっても大切なのだ。


「ええ、問題がありましたら急いで報告をさせていただきます」

「はい、それが一番スティング家としても助かりますので。ではまた機会がありましたら、この度はお世話になりました」

「アルクくん、またねー!」


 挨拶を済ませ、ミル村を後にする。想定外の強敵と想定外に戦う羽目になったが、魔法の訓練、戦闘の訓練、どちらも高密度にいい訓練をすることができた。農家が実際にどんな仕事をしているか、手伝いを通して具体的に知ることができたのも収穫だろう。知識、経験は広ければ広いほど、深ければ深いほどいいのだ。


「アーくん…、今回の実地訓練はどうだった…?」


 馬車に揺られているとサラが感想を聞いてくる。発案者としては生徒がどのように感じたのかは気になったのだろう、今後の参考にもしたいだろうし。


「すごい勉強になったよ、魔力の通し方、量、操作の強弱、気を付けることが多くて経験を積まないといけないね」

「…そう、どうしても魔法は経験することが大切。屋敷だけだとできる経験にも限りがあるから今回の実地訓練でいっぱい経験をしてほしい」

「うん、次にいく街や村も楽しみにしてるよ」

「イノシシほどじゃないがフォレストウルフより強い魔物が近くに出る街もある、坊主にはそういった所での戦闘訓練もあるからな」

「わかった」


 そのように皆と話したり、休憩に馬車から降りてガーランドやサラと訓練して体を動かしたりしながら移動し、道中で1泊、流石にガーランドに繋がれているサラが無茶をすることもなく、無事に屋敷に帰ってきた。


「父様、母様、只今帰りました」

「アルク、よく帰った。報告はシルバから受けるが、夕食時にでもお前の感想を聞かせてくれ」

「アルくんお帰りなさい、よく頑張ったわね。無事に帰ってきてくれて嬉しいわ」


 両親に帰宅の挨拶をする。…やはり厳格で威風堂々とした父と一歩引いたおっとりあらあらママにしか見えない。たとえ子供相手であっても貴族として相応しくないところは見せないということだろうか…。いや、子供相手だから余計か…?


 …でも見たい、シルク母さんがカイル父さんに怒る所を。今まで一度も母さんが怒ったところを見たことないのだ、そのぐらい温厚な母なのだ、怒るとどうなるか知っておくのも大切なのだ、それでいいのだ。


「父様、一つお聞きしたいことがあるのですが」

「ん?なんだアルク」

「リースから主人とメイドは一緒に風呂に入るものだと聞きました。しかしあまり手伝ってもらうことがあるとも思えず、父様はメイドと風呂に入って何を手伝ってもらうのですか?」

「はっ!?」

「……」ピキッ


 俺の発言を聞き、父さんは混乱し、シルバは驚愕し、リースは青ざめ、意図を察した講師組は笑いを堪えている。笑顔で固まり、足元にひび割れを作っている母さんはみんなの様子に気付かない。


 …ひび割れ?なんで?さっきピキッとか聞こえたのこれ?よく見ると母さんがかなり強力な強化魔法を纏っている、その光属性の魔力は神々しさすら感じさせるほどに輝き、研ぎ澄まされながらも内には暴風のような荒々しさを感じさせる。というか密度が高すぎて魔力が普通に見えてるんだけど…。


「アルク!何を言っているんだ!私はメイドと風呂に入ってない!アルクの言う通り風呂で手伝ってもらうこともないだろう!?」


 父さんが焦りながら真実を述べる。それを俺が真実だと受け入れればこの件は終了だ。それが正解だ。しかし俺は一歩踏み出した、にもかかわらずここで引き返していいのか?後ろを見てみろ、シルバとリースはハラハラと、ガーランドとサラはニヤニヤと、頼れる仲間が見守ってくれている。ここで引いたら二度と母さんの真実を知ることはないかもしれない。


 ここは父さんの真実を見なかったことにして、母さんの真実を見るべきではないのか?そうだ、そうに違いない、男が自ら踏み出した道を簡単に諦めていいのか、いやいいわけがない。


「しかし父様、昔からスティング家に仕えてくれているリースがそう言うということは家ではそれが普通ということではないのですか?」


 はい、押すなと書いてあるスイッチは押すタイプです。シルバは呆れ、リースは絶望し、ガーランドとサラは大爆笑してる。そんな仲間たちの様子も混乱する父さんと怒りに染まる母さんには届かない。


「あなた…お話があります…」

「シルク!?これはアルクが何か誤解をしているんだ!私はメイドを風呂に連れ込んでなどいない!!」


 一歩、また一歩と母さんが父さんに近づいていく。その歩みはゆっくりだが、破壊の跡を足元に残しながら道作っていく。なにこれこっわ…。


「とりあえずお部屋に行きますよ。あなた」

「待ってくれ!シルク!俺の話を!ウボァアア!」


 えっ…引きずっていくとかじゃなくビンタで吹き飛ばした…?階段の前に父さんが転がっていく。あそこで止まるように力加減調整したってこと…?すげえ、ガーランドですら引いてるよ。


「シルバ、申し訳ないけど報告は後にして貰えるかしら?リース、後でお話を聞かせてね。アルク、ちょっと父様と話があるからガーランドさんとサラさんをよろしくね」


 そういうと母さんは気を失っている父さんの元へ床を破壊しながら向かって行く。あっ、父さんを引きずって階段を上っていった。父さんの体がガンガンと階段にぶつかっている…。


「…アルク様、ごらんのとおりシルク様を怒らせますと屋敷の修繕も必要となりますのでこういったことは今後おやめください」

「うん、ごめん…」

「リース、お前がアルク様に変なことを吹き込んだ結果がこれだ。責任を持って、屋敷の修繕とシルク様への釈明をしなさい」

「わかりました…」


 シルバに諫められ、俺、リース共に反省をする。怖いもの見たさに母さんを怒らせてみた結果がこれだ。いや精神的に怖いのかと思うじゃん?まさか物理的に怖くて屋敷の床とか壊れると思わないじゃん?しかしあのおっとりしたシルク母さんが物理かぁ…。

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