13:限界まで動いた後の風呂はすごく気持ちいい
イノシシを背負い上機嫌な筋肉と、俺を背負い上機嫌な変態に連れられて村に帰る。今日の戦いは流石に疲れた、複数の魔法を発動し続けながら見えない相手の攻撃を盾で受け続ける、一発でも食らえば普通に重症。頭も体もへとへとだ。
流石に動くのも辛かったのでおんぶで運んでもらうことにしたのだが、尻を揉まれない代わりにガチムチの筋肉に抱き着くか、尻を揉まれる代わりに柔らかな美女に抱き着くか、尻に腹は代えられない。俺は尻を犠牲にした。
「おかえりなさいませ、アルク様」
「ただいまリース、流石に疲れたよ…。サラ、運んでくれてありがとう。申し訳ないけどお風呂の用意をお願いできる?」
「アーくんは今日頑張ったからいいよ…、まかせて」
すぐにお風呂に入りたいこんな時、お湯を魔法で出せる人間は本当にありがたい。先ほどまで俺の尻を揉んでいたからかサラはとても上機嫌で言うことを聞いてくれる。ガーランドはシルバにイノシシの死体を預け、サラをお風呂に連れて行った。
「サラ様に背負われるなんて、アルク様は相当お疲れなのですね」
「体力も集中力もかなり使ったから体も頭もヘトヘトだよ…、お風呂から上がったら少し寝ると思う」
「承知しました、そのように取り計らいます」
サラのおかげでもう浴槽にはお湯が張られている、お湯にゆっくりと浸からないと精神的、肉体的疲労感が取れないのは前世の影響だろう。
体を洗い、まずは汚れを落とす。ガーランド達も汚れを落とすのに入るだろうからお湯を汚すわけにはいかない。
「あっ、あぁ~~~~~っ」
浴槽に入ると体がじわ~っと温められ、溜まった疲れがスーッとお湯に溶け出していく。頭の中もぽわ~っと緊張状態から解放されていき、心身ともに癒される。
「うぁ~、これはぜったいにねるー…」
力を抜きお湯に身を任せるとすぐに眠気がやってくる。ここで寝てしまうと永遠に眠ることになるので睡魔に身を任せるわけにはいかないのが少しもどかしい。
本来ならば今日は一日村の手伝いや問題解決をするはずだった、だがイノシシ戦をしたら流石にそんな体力は残っていないだろうということで予定はキャンセルになっている。猪を思い浮かべていた俺はキャンセルしなくてもと思っていたが大人の言うことを聞いていてよかった。そしてイノシシのことを聞いておけばよかった。
「アルク様、お着替えをご用意いたしました。何かお困りのことはございますか?」
「あー、リースありがとー。とくにないからだいじょうぶー」
「・・・。アルク様失礼いたします」
「どうしたのー?」
リースが扉を開けてこちらの様子を見てくる。着替えの手伝いや訓練後に汗を拭いてもらう等しているので今更裸を見られてもお互いどうということはないがリースが浴室の扉まで開けてくるのは珍しい。
「…やはりそうですか、アルク様、少々お待ちください」
そう言ってリースは扉を閉める。なにか気になることでもあったのだろうか、リースも長く俺に専属として仕えてくれている。プロにのみわかる何かがあるのだろう。
そして今一度浴室の扉が開く。
「ではお世話させていただきます」
「なんで入ってきてるのぉ!?」
少々お待ちさせていただいたと思ったらリースが浴室に入ってきた。裸を見られる程度どうということはないけど一緒にお風呂入るのは違うんですけどぉ!?
「アルク様の声と表情から強い眠気を感じていることがわかりました。一人で入られては危険ですのでお世話させていただきます」
「リースが入ってきたことでもう眠気は吹き飛んだよ!?」
確かにさっきまで頭も回っていなかったしぼーっとしてはいた、けど流石にお風呂に突入されたらぼーっとしているわけにはいかない。なんなら一切の澱みなくスムーズに体を流しに入ったリースの動きに慄いてすらいる。
「今は大丈夫でも湯舟につかればすぐにまた眠くなるでしょう、万が一があってはいけません。それに姉と弟が一緒にお風呂に入るぐらい普通です」
「お姉ちゃんと呼ぶときもあるけど俺たちはメイドと主人だよ!?」
「なおのこと問題ないでしょう。姉弟なら子供の時だけですがメイドが主人の湯浴みの世話をするなど大人になってもよくあることです。」
よくあるの!?父さんももしかして若いメイドさんにお世話させてるの!?母さんというものがありながら!?
「アルク様もお疲れなのですから騒いでいないでゆっくりと体を休めてください」
「元凶がそれを言う!?あっ!ちょっ!」
混乱している間にリースは俺を抱え上げてさっと湯舟に浸かってしまった。膝の上に乗せられ後ろから抱きしめられる形になる。うぅ…首元に2つの柔らかい膨らみを感じる…。
「アルク様、私は気にしませんのでゆったりと体を預けてください。これでしたら寝てしまっても問題ありません」
「体を預けろと言われても…」
リースのような美少女と風呂に入って緊張するなというほうが無理がある。まして体を預ける?それをした瞬間に怖い執事さんが出てきて高額な慰謝料を請求されたりしない?
「アルク様はまだ子供ですし、お風呂の中なら重さなんてありませんよ。弟が姉に甘えるのは自然なことですしごゆるりとなさってください」
「重さを気にしているわけじゃないんだけど…うわっ」
体を引かれ半ば強制的に体をリースに預けさせられる。戦いの疲れもあり、お湯の中で一度崩された体勢を立て直す気力もない、もうあきらめてこの柔らかな感触に体を任せよう…。
「やっと体の力を抜いていただけましたね。本日はお疲れさまでした、イノシシが無事討伐されたことで村長達も安心していらしてました」
「そうなの?心配かけちゃったかな」
「アルク様への心配も勿論ありますが、万が一村にイノシシが現れたら壊滅は免れません。痕跡が見つかり不安も抱いていらっしゃいました。ガーランド様達もいらっしゃいましたが村長達はその強さはお知りでないので」
「ああ、確かにあれが出たら対応できないよねえ」
「はい、アルク様に感謝していらっしゃいましたよ」
俺視点ではお肉を食べたいと猪狩りと異能獅子狩りを間違えた間抜けでしかなかったが、村のみんなの不安を取り除けたのなら結果オーライだろう。
「よく頑張りましたね、アルク様」
「……」
優しい声音で労わられ、頭を撫でられる。すこし気恥ずかしいがリースは俺を甘やかすことが趣味のようなものだ、ねぎらってくれてるわけだし邪険にするのも申し訳ない。…訂正してイノシシ違いをしたことがバレても恥ずかしいし。
「~~~~~♪」
リースは相当機嫌がいいらしい、鼻唄を歌っている。お風呂に入り、弟を甘やかし、俺もそれを受け入れている。リースにとって至福の時間ということだろう。
邪魔するのも悪いので大人しくしているとお湯とリースの暖かさ、頭を撫でられる気持ちよさ、耳に心地よい鼻唄、全身を受け止めてくれる柔らかさ、それら全てが俺の疲れを癒し、眠気を引き出していく。
「~~~~~♪」
あぁ…、もうねむい…。リースのおかげで溺れる心配もないし、このまま眠気に身を委ねても問題はない。うん、いいんじゃないかな…、このまま…、お湯と、リースと、眠気に全てを委ねて……




