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12:イノシシ

 騙された。誰だ昨日肉のために頑張ろうとか言ったバカは、俺だ。


「ねえ、ガーランド、本当にあれがイノシシなの?」

「?ああ、どうみてもイノシシだろ」

「どうみてもライオンにしか見えないんだけど?」

「そりゃ異能獅子(イノシシ)なんだから当たり前だろ?」


 ガーランドとサラに連れられ、向かった先にいたのはどこからどう見てもライオンだった。あっ、鹿を見つけた。えっ…?透明になった…?あっ、鹿さんが…。なるほど異能を使う獅子だからイノシシかぁ…。えぇ…。


「イノシシって言ったらどこの森にでも住んでて牙の生えた豚みたいな生き物じゃないの…」

「それは森豚だろ?お前なんの本読んだんだ?」

「…アーくん、食べたいって森豚のつもりだったの?森豚はおいしいね」


 馬鹿という言葉は馬と鹿を間違えたという故事が語源となっているらしい、豚と獅子を間違えた俺は馬鹿よりも酷い。きっと今日のことも未来では豚獅(とんし)とかいう馬鹿以下を指す言葉になるのだろう。俺は豚獅だ。


「あんな透明になる生き物の痕跡って何…?」

「イノシシはな、その異能が排泄物にも影響すんだよ、簡単に言うとうんこが透明なんだ。俺はそれを昨日踏んだ。サラにすぐ洗ってもらったが坊主の訓練に使えると気付くまで気分は最悪だったな」

「…踏んだのがガーランドでよかった、私は引きずられてたから足の裏では済まなかったかもしれない…」


 透明なうんこって何その嫌すぎる罠…。しかしあんなのがもしも村に行ったら壊滅だろう、確かに早急に対処しなければならない。


「あんなのによく村が襲われなかったね」

「まあイノシシは基本森からでないし、近いといっても村とはそこそこ距離あるからな。今回討伐するのも万が一森から出られたらヤバいのと俺とサラがいるからだな。一般的な兵士程度じゃ相手にならん」

「それを8歳児に相手させるの…?」

「坊主は風魔法のサーチが使えるだろ?イノシシの問題は姿が見えないこと、それ以外は普通のライオンだ。姿が見えなくて力の強い魔物だが、気配を読んだり、探査魔法で姿を捉える、この辺ができるならそこまで難しい相手じゃない。それに坊主は一般的な兵士より圧倒的につええよ、魔法戦闘ができるってのはそのぐらいのアドバンテージだ」

「…何かあっても私たちがアーくんのフォローをするから安心していい」


 8歳児は普通のライオンとも戦わないんだよ。


「イノシシは敵対したやつを許さないからこっちから手を出せば絶対に襲ってくる。坊主のタイミングでいいから考えがまとまったら討伐開始だ」

「アーくん…、頑張って」


 がんばってと申されましても?もう戦うことは確定なんですね?…やるしかないのかぁ…。イノシシはフォレストウルフと違って体が大きく力も強い、あの時のように双剣で受け止めてのカウンターを決めるには今の体では無理があるだろう。


「よし、とりあえずやってみるよ」


 方針を決め、魔具を盾に変化させて一歩前にでる。


「ほう、盾にしたか。だが初級魔法じゃ決め手には欠けるぞ?」

「まあ考えはあるよっと!」


 そう言ってストーンバレットをイノシシに向けて放つ。魔法が命中し、こちらに気付いたイノシシが威嚇しながら透明になっていく。まあストーンバレット1発ぐらいじゃ大したダメージにはならないよね、ただの石礫だし…。ストーンキャノンとかストーンランスみたいな中級魔法さえ使えたらなあ…。


 ないものねだりをしても仕方がないので俺はサーチを発動する、これは空気の動きから敵の位置を把握する魔法だが感知の精度を上げることによって敵の位置だけでなくどのように動いているかも把握することができる。イノシシ戦ではこれを発動し続け、常に透明となっているイノシシの動きを把握することが必須となる。


「ガアア!」


 透明となったイノシシが、前足を振りかぶって一気に飛び込んでくる。その動きを把握している俺は強化魔法で身体能力を上げ、盾で攻撃を流すようにして受ける。視認できないことから正確な位置を把握しきれない攻撃は、ガンッ!と大きな音を立て、盾を通して重い衝撃を俺の体に伝えてくる。


「おっも…!」


 攻撃の勢いを完璧に受け流すには相手の動きをしっかりと把握し、自分の体と盾を正確に動かす必要がある。サーチで相手の動きを把握してはいるが、戦闘のような激しい動きでは空気は少し遅れて動くため、魔法での知覚であることも相まって実際の動きと把握してる動きに若干のズレがある。


 そのラグが、先ほど受けた重い衝撃に繋がっているのだ。ようするに視認できていないせいで正確な角度で受け、正確に動くということができていない。まずはこのズレ分、自分の感覚を調整しなければならない。


「そろそろ攻勢に出ないとこっちがもたないなあ…」


 ガンガンと、幾度も襲ってくるイノシシの攻撃を受け続け、サーチによる知覚のズレも修正できてきた。だがこれまでに受けた衝撃はしっかりと体に残っており、腕は軽く痺れている。イノシシを仕留めるために考えた攻め手は時間がかかるものだ、それを考えるとそろそろ発動しなければこちらが持たない。


 本命の魔法を発動し、さらにストーンバレットを放っていく。


 イノシシ戦において本命にしたのは闇の初級である痺れ毒を発生させる魔法、パラライズだ。初級魔法では攻撃力が足りないので武器で倒すしかないが、イノシシの巨体を倒し切れる武器は森において扱いにくい。ならば相手を動けなくさせてからトドメをさせばいい。


「アーくん、痺れ毒を撒いたみたい…。けど…」


 そう、パラライズはそんなに強い毒ではない。人に使ってどうなるか、正座して軽く足がしびれた状態を思ってもらえればいいだろう。その程度の毒をイノシシに接種させたところで効果はあまり高くない。


 しかし、どんなに弱い毒でも大量に摂取すれば人を殺せるのである。トマトだって1日4トン食べたら死ぬのである。例えば、戦闘中に、持続的に、痺れ毒を接種させたら?ストーンバレットの回避、俺への攻撃、これによって常時動き、血の流れが速くなっている生物が常に毒を吸わされていたら?


「グルルルルル…」


 痺れ毒により動けなくなってきたイノシシの透明化が解け、威嚇をしながら姿を現す。俺は毒を持続発動により発生させ続けた。攻撃を受けながら、足を止めさせないようストーンバレットでイノシシを動かし続け、こっちの体力も限界が近づいてきた頃、作戦が実を結びだした。


「ほう、初級の痺れ毒でやるじゃねえか坊主」

「強化、サーチ、痺れ毒、3つの持続発動を多重で行いながらストーンバレットを織り交ぜての戦闘…。器用にもほどがある…。」


 痺れによってイノシシがストーンバレットを避けられなくなってきたのを確認し、イノシシの足元の地面を操作し転倒させる。あそこまで痺れていたのに、足元を操作するまで倒れないのは流石は百獣の王というところだろう。


「やっとここまで追い詰めた、2回目の実戦で戦う相手じゃないでしょこれ…」


 正直俺も限界が近いがトドメを刺すまで気を抜くわけにはいかない、警戒しながら転倒して動けなくなったイノシシの背中側に回る。


「痺れて辛くなってるのに倒れないんだもんなあ…。すごいやつだよお前は」


 俺に足元を掬われるまで倒れず、戦意に一切の陰りを見せなったイノシシに敬意を抱きながら、魔具を大剣にし、ひと思いにその首元に振り下ろした。

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