11:村のお手伝い
ミル村に到着し、まずは村長の家へ向かう、木造の家々に、畑、牛舎に養鶏場もあり、ザ・農村!という感じだ。この国では最近、混合農法が発明されて王家主導によってさまざまな場所で実地試験が行われている。
国王が行った魔法使いの発掘、育成のための施策により、農村出身の魔法使いなども当然現れた。それにより魔物への自衛力を持ち、教育を受けた人間が各地に広がる。結果として生み出されたのが研究をする余力だ。とある農家に産まれた魔法使いが王都で教育を受け、村に戻って現場の意見を聞きながら試案、実践。地元出身な上に貴重な村の魔法使いのため周囲との軋轢もなくスムーズに研究は進み、混合農法が発明、その村にて生産性の向上が確認され、王家主導の国家的プロジェクトになっているのだ。
この村もそんな試験を行う村の一つだ。魔物が出るような場所は遠く、何かあっても馬車で1日の近さから試験場としてちょうどいいとのことだ。そんな村の様子を見ながら歩いていると村長の家に到着する。
「ようこそお越しくださいました、村長のトロンです」
「お世話になります、スティング家次男、アルク・スティングです」
「トロン様、早速ですがアルク様に案内を付けていただけますでしょうか。アルク様にはお話ししていた実践訓練に向かっていただき、私たちは村のことを話し合いしましょう」
「シルバさん、わかりました。リーン!来てくれ!皆さんに村の案内を頼む!」
「はーい!今行くー!」
トロンさんが家の奥に声をかけると、リースと同い年ぐらいの茶髪でボブカットの女性が出てくる。
「娘のリーンです、お父さんから話は聞いてるよ!君がいろいろ手伝ってくれるアルク君だね!」
「リーン…、いい加減に敬語を覚えなさい…。すみません、いい加減な娘で…」
初対面の貴族子息にこのフレンドリーさ、すごいあっけらかんとした人だ。トロンさんが眉間を抑えている。
「リーン様、この度はよろしくお願いいたします。アルク様のお姉ちゃんのリースです」
リースがすごい圧を出している。メイド威圧術の基本、完璧な笑顔に優雅な一礼、高等技術のあてつけ敬語からリース流奥義のお姉ちゃんマウントまで持てる手段を総動員だ。
「メイドさんはリースちゃんっていうんだね!お姉ちゃんがメイドさんやってるの?名前も似てるし仲良くできそうだね!よろしくよろしく!」
こやつ無敵か?リースの威圧もなんのその、ズカズカとその距離を詰めリースの手を握りしめ、ブンブンと腕を振り回している。
さすがのリースもこの手合いは初めてなのだろう、とても困惑している。お姉ちゃんとして威圧した敵が、自分にもフレンドリーにくる状況は完璧メイドとしてリースを教育したシルバも流石に教育しきれていないらしい。
「リーン、俺たちはどこに行けばいいかな?」
「お、そうだね。とりあえず村を一周ぐるっと回ろっか。この時間だともうみんな仕事してるから直接行って話を聞いたほうがいいと思う」
「わかった、案内をお願い」
「はいよー!じゃあまずは牛舎の方からいこー!」
牛舎、養鶏場、畑と順番に回って話を聞いていく。今日は話を聞きながら仕事のお手伝い、どんな仕事をしているのか、何が大変なのか、困ったことはないか。気分は社会科見学である。
困っていること、大変なことにおいて見事2冠の第一位に輝いたのは膝、腰が痛いという至極切実な困難だった。うん…、まあパッと浮かぶ困りごとってそういうのだよね。あっ、今治療魔法使うねおじいちゃん…。楽になった?そう、よかった。えっ、牛乳くれるの?ありがとう!
治療をし、牛糞を片付け、鶏舎を掃除し、畑を耕し、種を撒き、水を撒く。本来8歳では大変な作業も肉体強化に土、風、水魔法を活用してこなしていく。普段とは異なる目的を持っての魔法の練習、治療ならば切り傷や打撲などではなく関節痛、土は普段と違って柔らかい畑、風ならば飛ばすではなく、どこそこに運ぶ風、水は一定の量を違わず広範囲に。
実地訓練で出された課題に合わせて目的を持ち、環境を考え魔力を操作する。もっともわかりやすい違いは畑で行う土魔法だろう、屋敷の庭にある土とは違い、ふかふかと密度の低い柔らかで軽い土、いつも通りの感覚で土魔法を行使すると土が動きすぎる、固めようとすると固まりすぎる。
サラが実地訓練を通して積ませたかった経験や知見はこういった所なのだろう。屋敷で学び、サラと訓練するだけでは手に入らない魔法の経験。往路でやらかしたサラではあるが、師匠としては優秀なのだ。最後の畑での仕事を終え、お野菜をもらい、手伝いの度に増えたお土産をリース、リーンと一緒に持ちながら村長宅に帰宅する。
「おとうさーん、帰ったよー!沢山お土産もらってきたー!」
「リーン!お客様がいるのだから騒がしく帰ってくるんじゃない!」
リーンは一緒に村中を回って手伝いもしていたのにこの元気、強化魔法を使えるわけでもないのにとんでもない体力である。
「シルバ、ただいま。お土産もらってきたからせっかくだし夕飯に使ってよ」
「シルバ父様、ただいま戻りました。本日のことは後ほど報告させていただきます。」
「アルク様、お疲れ様でした。新鮮な野菜と牛乳ですね、夕飯はクリームシチューを作りましょう。リース、夕飯の後に報告を聞く時間を作ろう。村長との話し合いの内容もそこで伝える。」
新鮮な野菜と牛乳を使ったクリームシチュー、なんともおいしそうである。
「おう、帰ったぞ。森の方で何羽か鳥を狩ってきた。ついでに面白いもん見つけたからちょっと坊主の明日の予定を話合いたい」
「………」
ガーランドが鳥数羽と魔法使い1人の死体を引き連れて帰ってきた。純魔法使いが森で筋肉に引きずられたのだ、死体にジョブチェンジしても不思議はないだろう。
「実はな、森でイノシシの痕跡を見つけた。この辺に出るわけないんだが、事実いる以上なにか対処しないわけにもいかない、坊主にとって少し厳しい相手ではあるがいい経験でもある。俺とサラで対処してもいいが、坊主がやる気あるかどうかも聞きたくてな」
「イノシシですが…それは早急に対処をしておきたいですね…」
「?、イノシシってこの辺にいないの?」
イノシシなんて森や山ならいろんなところにいると思うのだが。それに少し厳しい相手?この世界のイノシシはすごく大きかったりするのだろうか。
「ああ、イノシシなんてどこでもめったにいるもんじゃない。ましてこの村は魔物の生息地が近くにないから混合農業の試験地になっているんだ、イノシシに対する防衛力なんて欠片も用意してねえ」
「ふーん、でもイノシシならなんとかなると思うし俺やるよ」
「お、坊主珍しく強気じゃねえか。よし、フォレストウルフと同じ形で明日討伐にいくぞ」
「うん?そんなに強気かな?まあ食べてみたいし頑張るよ」
「え…坊主イノシシ食うのか?食えるなんて聞いたことないぞ…」
「え?食べないの?ジビエの定番だと思うんだけど…」
「鹿とかは食うけどイノシシは聞いたことないな…」
この世界ではイノシシを食べないらしい、そうなのか。前世で食べたときは結構美味しくて感動したのだが…。しかし久しぶりのイノシシ肉、この世界では強いらしいが肉にありつくためにも明日は頑張ろう。




