10:初めてをお守り
ボコッ!!ドォン!!
大きな音を上げ突如地面が隆起する!何事だ!?土中を進む魔物サンドモールの襲撃か!?いや違う!その隆起した地面から!守るべきものを持つ一人の漢が!爆発と共に飛び出したのだ!
「アーくんそんなところで土遊びしてたんだね・・・」
サラは風適正を持ち、風を操り周囲の環境を探査する魔法:サーチを使用することができる。そんな敵から身を隠せるところはどこか、そう、風の通らない場所、土の中である。
身体強化をかけ、土魔法で頭上の土を飛ばす。魔具を脚甲にして火魔法で起こした爆発の勢いを踏みしめ一気に飛び出す。続けざまに風魔法で加速をかけてサラとの距離を一気に開く。
「風が得意な私から逃げられる・・・?」
サラは3属性を使いこなすが一番得意なのは風、上級魔法も使えるサラの加速力は俺を優に上回る。不意を突いた初速で稼いだこの距離が貞操のタイムリミットだ。
本気のサラを抑えきれる人間はこの場に一人しかいない以上、サラも狙いはわかっているだろう。目的がバレているのに策を弄する意味はない、お互いに魔法を用いた全力の短距離走だ。土魔法でサラの進路を妨害し、強化魔法と風魔法による加速をして目的のテントに向かう。
複数立てた土壁を、サラは時に破壊し、時に躱し、俺との距離をぐんぐんと詰めてくる。流石はBランク冒険者、反応しにくいようにサラが通る直前に立てた土壁も、別の土壁で隠すように配置した土壁も、一瞬の反応で的確に対処し大した遅延になっていない。だがその少しの遅延も今の俺には貴重な時間だ。
ついにテントの目の前まできた、サラはもうすぐそこまで迫ってきており、普通にテントに入ろうとすればガーランドに魔法をかける前に追いつかれる、勿体ないが布に貞操は代えられない。俺は魔具を大剣に変え、テント上部を切り飛ばして飛び込んだ勢いそのまま、ガーランドに魔法をかけた。
「解毒魔法をかけるところまで行かれるとは思わなかった・・・。でもガーランドを寝かせているのは毒じゃない。頑張ったご褒美に沢山いい子いい子してあげるから、一緒に寝よう・・・ね・・・?」
俺がガーランドに魔法をかけると同時、サラがテントの元にやってくる。この距離では俺が次の魔法を発動するより先にサラの肉体が俺を襲うだろう。
ゆっくり伸ばされるサラの手、俺はもう、できることは全てやった。あとはエリック兄さんの加護を信じるだけだ。そう祈るように目を閉じた。
「おう、坊主、よく逃げ切ったな。状況はわからねえが、こうなった理由はわかる。あとは任せとけ」
「どう・・・して・・・」
我が師匠の逞しい腕が、対照的に華奢なサラの腕をつかんでいる。そう、俺は一回勝負、その賭けに勝利し、ガーランドを浄化魔法で起こすことに成功したのだ。
「お願い、助けてガーランド」
「任せとけ」
若き男の未来を守らんとする漢の背中は、それはそれは大きかった。
シルバとリースも起こしてきてリースに慰めて貰いながら2人の戦い?というか折檻をみる。
すごい、サラがボコボコである。さすがに殺すわけにはいかないのでガーランドは大剣を使っていないが徒手空拳で魔法を躱し、魔法を殴り?、魔法を投げ?、サラを殴り飛ばす。加減してるかなあれ?まあしてなくてもいいか、俺怖かったし。リースお姉ちゃんが即座に慰めてくれなければ女性恐怖症になってるよ?俺。
あ、サラがダウンした、KOだ。え?何?ロープ?シルバお願い、持って行ってあげて。
「迷惑かけたな、坊主。すまねえ」
「悪いのはガーランドじゃないでしょ、それにちゃんと助けてくれたじゃない」
「こいつ紹介したの俺だしなあ・・・。1年間アルクに来なかったし、まさか往路でやらかさないだろうと油断してたわ」
ガーランドが念のために持ってきていたという魔法封じの首輪を付け、変態を大木に縛り付ける。シルバとガーランドで変態対策会議をやるとのことで俺はリースと一緒に寝ることになった。女性恐怖症にならないよう、信頼できる相手とリラックスして過ごすようにとのことなので存分にお姉ちゃんに甘えようと思います。リースも俺を思いっきり甘やかせる貴重な機会にとても嬉しそうだ。
翌朝、変態は腰にロープを巻かれ、その先はガーランドに握られていた。迷子紐みたいだ。
「坊主起きたか」
「おはようガーランド、サラの対策はどうなったの?」
「おう、まあ首輪は外さず、ロープで常に俺と結び付けておく。風呂、トイレの間もロープは外さず、リース嬢ちゃんの監視を付ける」
「おおう・・・、完全にプライバシーがないんだね」
「冒険者やってたらその辺りは慣れてるから問題ねえ、むしろこいつは羞恥心を捨てすぎて魔道具を下の穴に隠して持ち込みやがった。そこまでやられちゃこっちも配慮してやれん」
麻薬の密輸か何かかな?
「むぅ・・・。私もアーくんのために一大決心をして持ち込んだ。流石に女性としての羞恥心はちゃんと残ってる・・・。」
残ってるって言葉は多少なりとも失っている証拠なんだよなあ。
「アーくんはどうして闇魔法ってわかったの?毒と思わせるために魔道具のことは完全に隠しきってたのに。」
「確信があったわけじゃないけど、僕だけが起きれたからかなあ」
魔力同士は影響しあう。これはこの世界でよく知られた事実だ、だからこそ多重魔法や混合魔法は魔力操作が難しい高等技術となっている。そして、この性質はB以上の魔力量を持つ人間には魔法への耐性として機能する。
俺の魔力量はA、トップレベルの魔力量だ。そしてこれほど多い魔力量は皮膚の上に薄く魔法障壁を張っているかのように機能し、初級魔法程度ならば弾いてしまう。魔法で俺に傷をつけるならば中級魔法が必要ということだ。まあ魔法使いの大半が中級使えるし初級魔法は殺傷力が高くはないからあると嬉しい程度の耐性でしかない。
しかしあると嬉しいこの耐性も、睡眠魔法のような体内に持続的な影響を及ぼす魔法を受けた時にはその効果時間を軽減するという形で力を発揮する。そのおかげで俺はサラが事を成すギリギリで目を覚ますことができたのだ。サラは光や闇のような効果が持続する魔法適正を持たない、そのために経験が浅く、そこまで考えが回らなかったのだろう。
俺だけ毒が効きにくい、とか事に及ぶために俺だけ毒が少なめだったという可能性も0ではない、だがサラが隠れて魔道具を持ち込んだ可能性の方がまだ高い。それにガーランドすら寝ていたのだ、魔力を持たないガーランドに魔法耐性はないだろうが、ガーランドに毒が効くイメージは一切わかない。魔力持ってないのに魔法投げたりしてたのなんだろうね?
「・・・確かにガーランドに毒は効かない、普段なら睡眠魔法をかけさせてくれるような隙もない。昨日はアーくんの初勝利が嬉しくてお酒も飲んで油断してたから魔道具を使えた」
「おいサラてめえ何言ってんだ!?」
「事実。・・・いつもならこんな隙はない、私が行動を起こせたのがその証拠」
「ぐっ・・・」
筋肉が変態に言い負かされている。顔が真っ赤になってその代謝がよすぎる筋肉から湯気が立ち上る。すごい、ガチムチのおっさんが照れて恥ずかしがっても喜ばれるような絵面にはならないぞ。
「皆様、シルバ父様が先触れから戻ってまいりました。村の方へ向かいましょう」
「おう、わかった!ほら、お前ら行くぞ!使用人と言ってもあんま待たせるもんじゃねえ」
「・・・逃げた。あうっ!」
真っ赤なままのガーランドがサラを引きずって馬車に向かう。ここで逃げるのはいいがガーランドよ、ここから村へは馬車移動、密室だから向かう先に逃げ場はないぞ。




