8:初めての実戦
領内をめぐっての実地訓練、初日は街をめぐって便利屋さん稼業に勤しんだ。洗濯物がたまってしまったと聞けば魔法でお湯と温風を出して人力コインランドリー、猫が見つからないと聞けば餌のにおいを風魔法で運びおびき寄せ、排水溝が臭いと聞けば熱と水で洗い流す、道が劣化してきたと聞けば土魔法で補修をし、転んでけがした子供を初級の治癒で治してあげる。
食い扶持こまらねえなおい、没落貴族になってしまったら街の便利屋さんとして生きていこうと思います。
「…やっぱりアーくんは便利、なんでもできる」
「坊主いたら冒険者稼業もすげえ楽になるな、サヤの魔法に加えて光と土もあるから野営やダンジョン探索も困らねえ」
「冒険者になんてならないよ、痛いのも嫌だし、死にたくないからね」
俺は今世では恋愛をして、寿命を全うする100点の人生を目指すのだ、冒険者なんて不安定で命の危険がある職業になるわけない。
「まあ坊主ならなんにでもなれるし、貴族社会にいてくれたほうがギルド長になる俺としては伝手ができて楽だわな」
「うわあ、ガーランドも貴族の考えに染まってきたね」
「ハハッ、そうかもな!」
「…これなら領内回りをしても問題ないと思う。今日やったことをいろんな村々でやっていくと思っていて」
「わかったー」
サラと先日の反省を行い、ガーランドと野営と魔物戦についての勉強、シルバ、リースと視察日程の打ち合わせをしながら過ごすこと数日。最初の村へ出発する日が来た。
「では旦那様、奥様、今回は、ミル村の方へ行ってまいります。道中で1泊、村にて2泊、往復計4泊の予定となっております」
「ああわかった、アルクのことは頼んだぞ」
「娘共々、しっかりとアルク様のことをお世話させていただきます」
シルバが父さん達に出発の報告をしている。その間に俺たちは馬車に乗り込む、隣にリース、正面にガーランドを配置しサラとは対角線になれる布陣だ。リースはお世話を、ガーランドとは魔物戦の相談をすると言って自然にサラを引き離した。逃げ場のない密室、無警戒のショタとショタコン、何も起きないはずがなく。となるわけにはいかないのでこの配置だ。
「アルク様、道中ミル村の説明をさせていただきますね」
「うん、リースお願いするよ」
今回向かうミル村は屋敷のある街、ステンから馬車で1日の距離にある農村だ。種まき時期とのことで人手はいくらあっても困らないし、冬明けで不足してるものもあることが予想される。そういったことの他、村民から領主への陳情がないか確認もしたいため今回は2日の滞在が予定されている。
馬車を走らせること数時間、対岸に森のある湖のほとりにて昼休憩を取ることになった。シルバ、リース、サラが昼の準備をしてくれる間に俺、ガーランドは初実戦のため森に向かう。
「よし坊主、森に入ったし魔物を探す。本当なら痕跡を探すとこから教えてやりてえが時間もねえし、今回の主目的は実戦だ。俺が見つけた痕跡は教えてやるからさっさと探して倒すぞ」
「わかった」
足跡や爪とぎの他、食べかすに果ては排泄物まで、ガーランドが痕跡をどんどんと見つけていき、痕跡の状態から読み取れる情報まで、魔物を探しながら説明を受け歩いていると森を歩く狼のような魔物、フォレストウルフを見つけた。
「いたな、好戦的な魔物だから逃げることもねえだろ、見守っててやるから好きに戦ってみろ」
「なにか注意点はある?」
「当然だがやつの足は速いこと、それと森というこの地形だな、足場は悪いし、木のせいでリーチの長い武器は使いにくい。あと当然だが弓や魔法の不意打ちで殺しちまうのは無しな、趣旨と反する」
「わかった、その辺りに気を付けてやってみるよ」
周りを確認してだいたいの空間を把握、確かに槍などは使いにくいし懐に入り込まれたらアウト、スピードも速いから咄嗟の魔法も間に合わないかもしれない。好戦的ということから向こうから襲い掛かってくると予想して魔具を双剣に変形させる。取り回しやすさで言えば手甲が一番いいが魔物相手では殺傷力が足りないだろう。魔法で遠距離から攻撃、襲ってきたところを双剣によるカウンター狙い、これが一番不測の事態がないだろう。
方針を決めた俺は魔物の前に姿を出す、音で気付いたフォレストウルフは警戒をあらわにこちらの様子を見ながらゆっくりと一定の距離を保ち周りを歩く。
双剣を構え、一息静かに息を吐き出す。覚悟を決め、バックステップで間合いを稼ぎながらストーンバレットを連続で放つ。野生の勘なのか、初撃が放たれる直前から動き始めたフォレストウルフはストーンバレットを躱し、そのまま木や茂みで姿を隠しながらこちらとの距離を詰めてくる。足音、茂みの動き、風魔法のサーチ、五感と魔法を合わせて相手の位置を特定して、土と水の混合魔法泥沼を作り出すマッドスワンプでの足止めを狙う。
しかしフォレストウルフは全てを回避し、進路変更程度の効果しか及ぼさない。最初の動き出しの速さといい、勘ではなく魔力そのものを感知しているのかもしれない。そして茂みが途切れた瞬間、フォレストウルフはこちらへと体を切り返し、一気に距離を詰めにかかってくる。俺は範囲を横に広げたマッドスワンプを発動、残り2mほどとなった距離をフォレストウルフはマッドスワンプを一息に飛び越えながら襲い掛かってくる。
そう、飛びかかってきたのだ。いくら速い足も空中では意味をなさない。強化魔法で身体能力を補い、フォレストウルフの懐に飛び込む、片方の剣で振り下ろされる前足を防ぎ、残りの剣を喉元に突き立てる。強化魔法とフォレストウルフの勢い、2つの要因により威力を増した剣はやすやすと喉元を貫通し、その命を奪った。
「上出来だ。浄化魔法だけかけて新手が血の匂いによって来る前に馬車に戻るぞ。戻ってから何を考えて戦ったのかを聞かせてもらうからな」
「初実戦を終えたばかりの弟子にひと時の休憩もくれないの!」
戦っているときは集中していたからいいがガーランドと話すことで緊張が途切れ、今になって殺し合いをした実感が動悸と共にやってくる。
「初実戦を無事終えた優秀な弟子だからこそ、安全が確保できるまで気を抜くなと教えてやってんだよ」
そう言ったガーランドは浄化をかけたフォレストウルフの死体を担ぎ、帰りの道に向かい始める。動悸を落ち着けるため一度深呼吸をし、その後ろ姿を追いかけた。




