0:人生の幕
初めて小説を書くので至らないところも多々あると思いますが一人でも多くの方に楽しめていただけたら嬉しく思います。ちょくちょく見返して表現や誤字脱字等の修正、描写の追加を行っていますのでご理解ください。
人を好きになってみたかった
大きな成功をすることはなかったが、大きな挫折もない、ほどほどにがんばり、ほどほどに楽しみ、ほどほどに幸せだった人生を身辺整理をしながら振り返る。これといって大きな悔いはないが、ひとつだけ未練があるならば恋愛をしてみたかったぐらいだ。
女性から告白されるほどモテるわけでもなければ、そういったことへの興味が薄く女性へアプローチをかけるわけでもない。自分でもどうかと思うのだが人生を終わろうという時になって初恋すらも経験していないのだ。
キレイな女性?性格もわからないのにアプローチしようと思えない。ウマの合う気の置けない異性?そのままの友人関係が気楽で十分に楽しい。性的な欲求?一人でも解消できるしお店を使うという手もある。
このように考えてしまい、恋愛を語る友人たちの気持ちが全くわからなかった。おそらくそういった方向の感情が俺は欠落していたのだろう。恋愛をしている友人達は皆一様に合理的ではなかった。それを俺はなぜと疑問に思うと共に、合理性を度外視できるほど誰かに夢中になれるその心が羨ましかった。
どうしても俺は合理性を優先に考えてしまう、今人生を終わろうとするのも痴呆等で他人様に迷惑をかける前に自分で自分に幕を引いておきたいだけなのだ。私物も整理し、遺書も用意し、あとは人生に別れを告げるだけ。明日にはメールの予約投稿で友人や親戚にこのことが伝わるのでまあメールを最後の挨拶と思ってもらおう。
用意していた練炭に火をつけ、睡眠薬を飲む。これで俺に明日はもう来ない。親戚にまあ多少迷惑はかけるだろうが一生に一度のお願いということで許してほしい。こんなことできるの1回だけだし。
薬が効いてきたようでだんだんと眠くなってきた。これでこの世に思い残すことはなく、他人様にかける迷惑も最低限に抑えて俺の人生を終えることができる。ああ、うん俺は自分の人生に納得している。満足している。十分に及第点の人生だった。ただまあ100点の人生で終えようとするのなら
人を好きになってみたかった
「ふぁぁ…」
戻らないはずの意識が浮上してきた。おかしい、もしかして俺は失敗したのだろうか。眩しいながらに目を開けると知らない天井だった。病院の天井という感じでもない、ならば天国?なにかふかふかのベッドと大きな枕に豪華な照明とあるが天国ってこんな豪華絢爛なのだろうか…。
とりあえずベッドから降りて部屋を見渡すと鏡があった、そこに映っているのは俺ではなく、茶色の髪をした3歳ぐらいの男の子だった、鏡に近づくと男の子が大きくなっていく、首を傾げる、首を傾げている、手を振ってみた、振り返してきた。ふむ、なるほど。映っているのは"俺"ではないが俺らしい。
するってぇとなにかい
「転生したってことぉ…?」
えぇ…まじかぁ…本当にあるんだぁ…。死後の世界や転生がないという証明はできないから、あってもおかしくないよねとは考えていたけど本当にあるんだぁ…。人生の幕を引いたら新たな幕が上がってしまった、人生に第二幕ってあるんだね。しかしこの部屋、どうやらいいとこに産まれたらしい、まるで中世の貴族みたいだ。
コン、コンと2度ノックの音が部屋に響く
「アルク様。朝になります、もうお目覚めでしょうか」
凛と透き通った女性の声が聞こえる。えっ、もしかしてメイドさん!?メイドさんがいるような家なの!?本当に貴族だったのか!
「うん、起きてるから入ってきていいよ」
この部屋にノックがされて部屋にいるのは俺一人、まあ普通に考えて俺がアルク様なのだろう。そう判断しメイドさん?を部屋に招く。
「失礼いたします、朝の支度をお世話させていただきます」
そういって長い黒髪を靡かせ一人の美少女がとてもゆっくりと入室してきた。いや、決してゆっくり入ってきたわけではない、ただその凛とした雰囲気と透き通った美しさに目が奪われたのだ。目を奪われた結果、俺の時が奪われた、それだけのことだった。けれど前世では味わったことのない感覚であった。
「まもなく旦那様、奥様、お兄様とのお食事、その後は読み書きのお勉強となります。…アルク様?私の顔に何かついていますか?」
話かけられて奪われた時が戻ってくる。そして気付く。朝の支度をお世話される?このメイドさんに?え、なにそれ恥ずかしい。着替えは一人で…着替えはどこだ…?
………
なるほどお世話してもらわなければ俺は何もできないらしい。それはそうだトイレの場所も知らないし、どこでご飯を食べるかも知らない、家族の名前も知らなければ目の前のメイドさんの名前もわからない。前世の記憶が蘇ってしまったせいで記憶が混濁している。俺の家に関する知識は3歳未満だ。
「ううん!なんでもないよ!お手伝いお願い、お姉ちゃん!」
「!!、はい!お姉ちゃんにお任せください!」
前世を思い出した俺が3歳を凌駕できるのは現状こういった相手の名前がわからない時の処世術ぐらいのものだ。あるよね、相手の名前思い出せなくて相手の名前は一切言わずに「あの時はお世話になりました!最近どうですか?」とか「課長さん!今回もよろしくお願いします!」とかで誤魔化すの。
メイドさんも無邪気な子供にお姉ちゃんと呼ばれて満更でもなさそうだしWIN-WINだね。
とりあえず今日はこれで誤魔化して現状整理していこう…。
1日過ごして家は父カイル、母シルク、兄エリックというスティング伯爵家だということがわかり、俺アルクは推定3歳から確定3歳になった。メイドさんはリースという名前らしい、優しいお姉ちゃんが欲しかったしお姉ちゃん呼びは継続でいこう。そして覚悟はしていたが、やはりというかなんというか、この世界は地球ではない、ぶっちゃけ異世界だった。
父と兄が魔法の話をしているし、家にあるものが現代文明のものじゃないし、読み書きの勉強で知らない文字しか出てこないし、音は日本語だったじゃあん…。
しかし魔法のある異世界に転生できたのは流石にわくわくする。ネットもないし、ゲームもない。それでもここには魔法がある。子供のころに夢みた魔法の世界に、子供の状態で来れたのだ、楽しまないと損だろう。なら、めいっぱいこの世界を楽しもう。そして夢中になれる相手を世界中巡ってでも探し出そう。及第点の人生じゃなく、100点満点の人生にするために
人を好きになってみたい




