7.
その日は、ママとパパが町へ出かけた。ママは日用品を、パパは絵の具を買い足すと言い残して、車を走らせていった。家には、私とクロエとノアだけが残された。
私は長女として、二人のお守りを命じられている。クロエは一階でおままごとに没頭し、ノアは彼の部屋で落書きに夢中で、私の足の間に収まっている。
しばらくして、私の視線はノアが置いた紙に吸い寄せられた。
そこに描かれていたのは、首のない少年の姿だった。茶色いシャツの少年は、自分の“頭”を両手で抱え込むようにしてじっとこちらを見ている。目の黒い空洞が、紙の向こうから私を射抜いた。
「ノア、この子、誰?」
声が震える。ノアはぬいぐるみを抱えたまま、無邪気に笑った。
「リッキー。いつも一緒に遊んでるお友だち」
背筋が凍った。たかが想像の友だち、などと自分に言い聞かせる。しかし次の瞬間、ノアが私を振り返った。
「ねぇねのうしろにいるよ」
振り向く暇もなく、部屋の扉がギイ、と音を立てて閉じた。廊下側も鍵をかけたように開かず、周囲の空気が急に冷たくなった。
「クロエ! ドアを開けて!」
声を張り上げても、返事はない。ノアはケラケラと笑いながら、私の腕をすり抜けようとしている。
「リッキー、もっと遊ぼう」
その声は紙の中の少年と同じ、不気味な調子を帯びていた。その時、突然閉まっていた両方のドアが開いた。
私は必死にノアの手をつかむが、彼の体は誰かに抱え上げられているかのように浮き上がり、部屋の奥へ引きずり込まれるようとしていた。
「ノア!」
叫び声が自分の耳に返ってくるだけだった。バタン――扉が閉ざされ、ノアの泣き声だけがこだまする。
「いやだ! こわいよリッキー!」
急いで隣の寝室に回り込む。ドアノブを握ると、ひどく冷たい。
背後から、突然話しかけられた。
「どうしたのお姉ちゃん?」
振り返ると、クロエが無表情で立っていた。瞳はどことなく虚ろだ。
「クロエ! ノアが閉じ込められたの!」
ドアに耳を当てる彼女。薄笑いを浮かべながら、低い声で言う。
「男の子が笑ってる。ノアと遊べるって」
鼓動が爆ぜそうになりながら、私は廊下側のドアへ再び回り込み、体当たりを繰り返した。何度目かの衝撃で、木片が割れて隙間が生まれる。
――バキッ。
扉が崩れ、中央で縮こまるノアを抱き寄せ私は嗚咽する。
「ごめんね……ノア、ごめんね怖かったよね……」
ノアは小さく震えながら、私のシャツを握りしめている。クロエは寝室側の扉の前で、まるで磁石に吸い寄せられたかのようにただ立ち尽くしている。
家の隅々から、あの少年の囁きが聴こえてくるようだった。壁に映る影が歪んで見えた。
家が私たちに訴えかけるかのようにあちこちで家鳴りが聞こえてくる。
「この家は、何を隠しているの?」
問いかける私の声も、空気に呑まれて消えていった。
――次に何が起こるのか、誰にも分からない。